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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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365 継投

「「「「わあああああああああっ!!!」」」」


 俺の特大の1発に黙らされてしまったアメリカ人観客とは対照的に、1塁側の日本代表応援団が一気に息を吹き返したように沸き上がった。

 そちらに向かって右手を高く掲げて応じると、更に歓声が大きくなる。

 かつてない高揚感に満たされ、熱に浮かされているかのような感覚を抱きながら噛み締めるように1塁をゆっくりと回る。


 前世では目の前の壁を乗り越えようと全力を尽くしたことはなかった。

 そのために必死になったことはなかった。

 いや、もしかしたらかつてどこかではあったのかもしれないが……。

 少なくとも、それで自分が望んだ結果を得ることができなかったのは確かだ。

 社会では多くの場合、成果の出ない努力を認めてはくれない。

 自尊心が満たされなければポジティブな記憶として残ることはない。

 成功体験がないまま、俺はズルズルと社会の底辺に転がり落ちていった。

 今生では転生者としてのアドバンテージもあって人生の成功者という立ち位置に収まることができたが、かえって全身全霊で困難に立ち向かう状況はなかった。


 しかし、ここに来て過去最大の壁が立ちはだかった。

 そこで1つの成果を出すことができた。

 勿論、まだ全てが終わった訳ではないものの、いくらか報われた。

 前世を含む俺という存在の歩みの中で、そんな風に心から思うことができたのは間違いなく初めてのことだった。


 だから、そんな気持ちを余すことなく味わおうとするように、いつもよりも少しだけ時間をかけて2塁へと向かっていると――。


(しゅー君! 1塁ベース!)


【以心伝心】があーちゃんの焦ったような声を伝えてきた。

 ハッと我に返り、打ってからの自分の行動を振り返る。

 ……1塁ベースをちゃんと踏んでいたか定かじゃない。

 無意識に踏んでいたかもしれないが、正直自信がない。

 興奮の余り思い出すことができない。

 と言うか、少なくともあーちゃんには俺がベースを踏んでいないように見えていたからこそ【以心伝心】を介して彼女の焦燥が伝わってきたのだろう。

 であれば、ちゃんと踏み直しておいた方が安全だ。


 2塁ベースの目前で慌てて一旦戻り、改めて1塁ベースを踏む。

 この局面で万が一にもベースの踏み忘れなんかで折角の同点ホームランが台なしになってしまっては、笑い話にもならない。

 そんな俺の動きにスタンドの歓声にどこか困惑の気配が混じる。

 一方であーちゃんからは安堵が伝わってくる。

 陸玖ちゃん先輩辺りはきっと大喜びしていることだろう。

 WBW決勝戦の土壇場で同点に追いつくホームランで踏み直しに戻る光景は、多分この世界なら一生擦られる程の珍プレイになるはずだから。

 まあ、それも踏み忘れアウトを回避できたからこその話だが。


 ともあれ、今度は丁寧に1つ1つベースを踏んでいく。

 そうして最後にホームベースを踏んで――。


「ホームインッ!!」


 ソロホームラン。日本代表の1点が正式に認められた。

 これでスコアは3-3。同点。

 試合は振り出しに戻った。

 どうにか可能性を繋ぐことができた。


「秀治郎! やったね!」

「ああ!」


 ネクストバッターズサークルにいた昇二とハイタッチを交わす。

 1塁側ベンチの前には仲間達が並んで待ち構えている。

 踏み忘れ疑惑で少々水を差してしまったが、その程度のことでこの土壇場での同点劇の熱が失われることはなかったようだ。


「しゅー君!」


 ベンチに近づくと真っ先にあーちゃんが抱き着いてきた。

 俺が抱いていた高揚感にあてられたのもあるかもしれない。

 いつになく興奮しているのが感じられた。

 そんな彼女の肩を強く抱きながら、仲間達の祝福を受ける。


 まず、この後すぐにネクストバッターズサークルに向かう正樹。

 俺の前で凡退して悔しさを募らせていた倉本さんや山崎選手。

 ここまで繋いでくれた磐城君や大松君。

 皆に無我の境地のヒントを与えてくれた黒井選手。

 縁の下で支えてくれたチームメイト達。

 落山監督を含む首脳陣とハイタッチを交わしていく。

 そして最後に。

 ベンチの奥の方に控えていた美海ちゃんに近づくと、彼女は俺に寄り添っているあーちゃんごと勢いよく抱き締めてきた。


「みなみー、興奮し過ぎると怪我によくない」

「大丈夫よ。大丈夫だから。一緒に喜ばせて」

「ん」


 怪我でそもそも出場の目がなく、ただ応援をすることしかできなかった。

 そのもどかしさは出場選手とはまた別種のものがあったに違いない。

 目尻に光るものが見えるのも理解できる部分がある。


 とは言え、まだ勝負が決した訳じゃない。

 喜びを分かち合い続けたいのは山々だが、同点になっただけだ。

 こちらも本意ではないと片手で軽く抱き締め返すことで伝えてから口を開く。


「美海ちゃん、監督やコーチと話さないといけないことがあるから」

「……そうね。勝って改めて喜び合いましょ」


 俺の言葉に頷いた美海ちゃんは、そう言って微笑むと体を離した。

 そんな彼女のところにあーちゃんを置いて、改めて首脳陣の下へと向かう。


「落山監督。高内コーチ。9回裏からの守備についてですが、ピッチャー交代後は俺にキャッチャーをやらせて下さい」

「……その心は?」


 この起用方法は事前の想定では負けパターンでのものだった。

 あくまでも、こちらの手の内をこれ以上明かすことなく終えるための対応。

 そうした事情もあって落山監督が真意を問うてくる。


「前提が大きく変わりました。今はこれが最も勝ち筋のある起用方法です」


 対して俺はそうハッキリと断言したものの、提示できるデータはない。

 根拠と言えるものは、この場では【比翼連理】以外にないからだ。

 今はそうやって押し通すしかない。


「制御できますか?」

「はい。確実に」


 嘘偽りがないか確認するように鋭い視線を共に問うてきた落山監督の目を、力を込めた言葉と共に強く見詰め返す。

 すると――。


「いいでしょう」


 落山監督はフッと表情を和らげて了承の意を示した。


「視野が広くなった上での判断ならば、より信じることができますから」

「……ありがとうございます。落山監督」


 ホッと胸を撫で下ろしながら頭を下げ、それからあーちゃん達のところに戻ってグラウンドに目を向ける。

 この回で逆転まで漕ぎ着けることができれば話は早いのだが……。


「ストライクスリーッ!!」


 さすがにそう都合よくはいかなかったようだ。

 たとえ俺にホームランを打たれてしまったとしても、マウンドに立っているのは世界最高のクローザーたるモー選手だ。

 1失点で崩れるような脆いピッチャーではない。

 そんな選手が世界最高と謳われるはずがない。

 そう簡単に追撃を加えることはできず、昇二は見逃し三振。

 3アウトチェンジ。

 同点のまま9回裏のアメリカ代表の攻撃へと移行することとなった。


「……あーちゃん。後5球だ」

「ん」


 短い確認の言葉を交わし、グローブを手にマウンドへと向かう。

 ここまで球数は90球。

 俺に残されている猶予は今正に口にした通り僅か5球。

 頭から交代する選択肢もあるにはあった。

 イニングの途中での交代は後のピッチャーに負担がかかる。

 だが、アメリカ代表の攻撃はこの回4番のバンビーノ選手から。

 ここから日本代表が勝利するには延長戦に突入しなければならない。

 後々のことを考えると、彼はどうにか俺の手で打ち取っておきたい。


「「「「「「「「BOOOOOOOOOOO!!」」」」」」」」


 マウンドに立った俺にブーイングが起こる。

 9回表のホームランのダメージの大きさを物語っている。

 それを思えば野次も悪くない。

 左のバッターボックスに足早に入ってきたバンビーノ選手は、勝負を待ち切れないとばかりに口角を上げて俺を見ている。

 抑え切れない気持ちがヒシヒシと伝わってくる。

 ……遊び球はなしだ。

 キャッチャースボックスであーちゃんが頷く。

 俺の意をくんだ配球の指示が【以心伝心】によって伝わってくる。


 初球。左のサイドハンドからのクロスファイヤー……を途中でアウトコース低めのワンシームに切り替えて投じる。


「ストライクワンッ!!」


 バンビーノ選手は見送って1ストライク。

 2球目を前に、彼は深く息を吐き出しながら正面に掲げたバットを見た。

 それから改めて構えを取る。

 口元の笑みは残ったまま。

 しかし、目元から感情が抜け落ちている。

 これは……。


(無我の境地)


 前の打席でホームランを打たれた時と同じ。

 思わず固唾を飲む。

 こちらも対抗して超集中状態に入りながら2球目の投球を開始する。

 アンダースローのライズボールをインコース高めに――。


(スリークォーターからど真ん中に入る高速スライダー)

(低めのフロントドアのカットボール)

(真ん中高めのフォーシーム)

 ――カッ!!

「ファウルッ!!」


【直感】のビジョンが目まぐるしく変わり、それに対応した変更が連続する。

 最後には咄嗟にモー選手のような指先だけでの球種の切り替えを求められた。

 精度がやや甘く、バットに掠ってしまった。

 いや、運よくそれで済んだと言うべきか。

 いずれにしても、今のバンビーノ選手にはこのレベルにある。

 その事実を織り込んだ上でモー選手を参考に投球を選択しなければならない。

 俺の思考に同意したようにあーちゃんが頷き、ミットを構える。

 可能な限り握りを変えず、変化の差が大きい球種の切り替え。

 スライダーの握りから――。


(インコース高めへのジャイロボール)

(アウトコース低めへのスライダー)

(アウトコース低めへの落ちるジャイロボール!)

 ――ブオンッ!!

 ドッ、パンッ!

「っし!!」


 無我の境地に至った状態のバンビーノ選手から空振りの三振。

 思わずマウンド上でガッツポーズをしてしまった。

 対するバンビーノ選手は悔しげな表情を見せる。

 だが、それ以上に嬉しさを隠し切れていない様子だった。

 無我の境地ですら仕留められない獲物を見つけた、と言わんばかりに。

 俺に対する称賛すら感じられる。


 未だ同点。勝負はどちらに転ぶか分からない状況だ。

 本当の意味で彼らを悔しがらせるには敗北を突きつける以外ないのだろう。

 とは言え、俺がピッチャーとしてできることはもうない。

 球数93球。ギリギリまで投げ切った。

 落山監督がベンチから出てきて交代が告げられる。

 8回1/3を投げて3失点。被安打6。自責点3。四死球1。

 これまでの成績に比べると大分常識的な好投だが、相手がアメリカ代表であることを考えれば十分過ぎる結果と言って差し支えない。

 後はキャッチャーとしてアメリカ代表に挑む。

 そして、この最終局面で俺が受けるピッチャーは……。

 ある意味運命的だ。

 それをアナウンスが告げる。


『日本代表、守備位置の変更を、お知らせします。ピッチャーの野村秀治郎選手がキャッチャーに、ファーストの瀬川正樹選手がピッチャーに、キャッチャーの野村茜選手がショートに――』

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