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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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475/505

358 アメリカの大巨人

「昇二、助かった。ありがとな」


 5回裏のアメリカ代表の攻撃をどうにか0で切り抜け、1塁ベンチに戻る途中。

 ファインプレイであの絶対的な窮地から救い出してくれた彼が3塁から駆けて来るのを少し待ち、感謝を口にしながらグローブを掲げる。


「うん……!」


 対して昇二はどこか高揚した様子を見せながらグローブでハイタッチに応じた。

 直前の打席でサイクロン選手討ちを強く意気込みつつも、結局凡退に終わってしまったことを気にしていたのだろう。

 守備の方で結果を出すことができて、いくらか安堵したようだ。


「けど、ダブルプレーは運だよ」

「運も実力の内さ。まずキャッチできなきゃ後のプレイに続かなかったんだから」


 少し謙遜する昇二に本心からそう伝え、共にベンチに戻る。

 そこでも彼は仲間達の称賛を浴び、くすぐったそうにしていた。


「――とは言え、どうにかこのまま……とは絶対に行かないだろうけど」


 今は水を差さないように口の中で小さく呟く。

 いずれそうなると分かり切っていたが、遂に完全試合は途絶えてしまった。

 完璧な長打を打たれてしまった。

 あやうく失点するところだった。

 明らかに掴まる寸前だ。

 だからこそ尚のこと、どうにかして点が欲しい。

 それも1点でも多く。


「……俺が打ってやるサ」


 そんな俺の内心を感じ取ったように大松君が近くで独り言のように告げる。

 6回表の先頭バッターとして打席に立つ準備をしていた彼はその輪には入っておらず、俺の言葉が耳に届いてしまったようだ。

 顔を上げると視線が合う。

 彼はそれからグラウンドに顔を向け、バットを手にベンチを出ていった。

 大松君の次のバッターである黒井選手もまた俺を見て軽く頷くと、ネクストバッターズサークルへと歩き出した。


「このイニングはわたしにも回ってくる。どうにかする」


 プロテクターを取ったあーちゃんも隣で俺の手を取って言う。

 6回の表。日本代表の攻撃は8番からの打順。

 なので、1番バッターである彼女までは確実に打席が回ってくる。

 ただ、精神論になってしまっている。

 現実としては【直感】を以ってしてもヒットを打つのは厳しいだろう。

 この場面では長打が欲しいところだが、そこまで望むのは夢物語染みている。

 後に続く2番バッターの倉本さんにしてもそうだ。

 アメリカ代表の外野陣は鉄壁。

 余程いいところに落ちなければ2塁を狙うことはできない。

 たとえ初回のように2ベースヒットを打つことができたとしても、その後でシングルヒットでホームまで帰ってくるのは困難極まりない。

 長打2本ともなると更に無理難題となる。

 小技を絡めて先の塁へ、というのもアメリカ代表相手では難易度が高過ぎる。

 勿論、2人が出塁してくれたら山崎選手にも回ることになるが……。

 2点リードは現状ではセーフティリードとはとても言いがたい。

 弱気な上に強欲にも程があるかもしれないが、ビッグイニングが欲しい。

 そのためにはランナーが出た状態であーちゃんまで回すのがマスト。

 だから、どうにか出塁してくれ。

 そう思いながら大松君の打席を見守ろうとグラウンドに視線を向ける。


「……あれ?」


 そこでアメリカ代表選手がベンチから出てくる様子に違和感を抱いた。

 サイクロン選手の姿が見当たらない。


「もしかして、交代っすか……?」


 倉本さんも同じことを考えたようだ。

 その疑問に答えるようにバンクノート・パークにアナウンスが流れ出す。


『アメリカ代表、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、サイクロン選手に代わりまして、ジャイアント選手。背番号51』


 それに合わせて外野に設置されたブルペンの扉が開いた。

 そして、そこから山のような巨漢が現れてマウンドに向かって走り出す。


「ここから2番手。ジャイアント選手、か」


 マウンドに上がって投球練習を始める彼を見据えながら、確かめるように呟く。

 サイクロン選手の球数は5回で78球。

 WBW決勝戦の球数制限95球までは後17球あった。

 しかし、3回表の黒井選手の16球を含む26球に端を発し、数字の上では4回表と5回表も19球と確かに球数が嵩んでしまっている。

 直近3回の平均は約21球。

 それでも初回の2ヒット以降1人の出塁も許していない状況ではあるが……。

 アメリカ代表首脳陣は、このイニングの半端なところで球数上限に到達してしまう可能性がそれなりに高いと判断したのだろう。

 そして、回の途中で交代するよりも頭から交代した方がいい、と。

 そのように考えた訳だ。


 場面は6回表の日本代表の攻撃が始まるところ。

 ここからジャイアント選手打者1巡ノーヒットで抑えれば8回表終了まで。

 9回までに逆転できていれば最後は絶対的守護神であるモー選手を出す。

 ゲームプランとしてはそこまでおかしな考え方ではない。

 とは言え、5回1失点、被安打2、四死球なしと好投していた上にまだ15球以上球数の猶予があるエースピッチャーを変える判断をするのは容易ではない。

 そこにはアメリカ代表首脳陣のジャイアント選手への信頼が透けて見えるし、事実として彼はサイクロン選手と遜色ないピッチャーということなのだろう。

 余りにも豪華すぎるリレーだ。


 一方で、日本代表は俺が限界ギリギリまで投げる予定となっている。

 後に続くピッチャーが可能な限り少ないイニングで済むようにすること。

 自分で言うのも何だが、それが勝利への絶対条件だからだ。

 スコアは1-0とリードしていても、チームとしては格下も格下。

 スターティングオーダーの総合力も、層の厚さも大きく水を開けられている。

 その事実を改めて強く認識させられる投手交代だった。


「お、大きい……」


 と、ジャイアント選手の投球練習を眺めながら美海ちゃんが呆然と呟く。

 気持ちはよく分かる。

 俺も同じ感想を抱いた。

 マウンド上で投球する姿は特にそう思わされる。

 2mを超える巨体だからというだけでなく、やはりその長い手足。

 それらを十二分に活用したサイドスロー。

【特殊生得スキル】【ビッグ・ユニット】の効果で可動域が最大となっていることも相まって、投球に入るとそのガタイの大きさ以上に巨大に見えた。

 さながら巨人のように。


 ――パァンッ!!!

「……いい音」


 厳しい表情でジェネラル選手の捕球音を評価するあーちゃん。

 ジャイアント選手のフォーシームはサイクロン選手同様、最速175km/hを誇っているが、キャッチングが威力をそれ以上のものに感じさせる。

 だが、その印象は錯覚ではないだろう。

 実際にそれだけの力があのボールには宿っているに違いない。


 勿論、単純な速度という点では準決勝で戦ったロシア代表選手達よりも遅い。

 比較対象として出していい相手ではないかもしれないが、事実は事実だ。

 もっとも、それはサイクロン選手にも言えること。

 日本代表との対戦成績を見れば、単純な身体能力が全てではないことは明白だ。

 サイクロン選手に多段変化のカーブを活用した老獪な投球術があるように、ジャイアント選手にもサイドスローという武器がある。

 そこから投じられる高速スライダーは正に魔球の域だし、フォーシームにしても間違いなく打席に立てば今抱いている印象以上に速く見えることだろう。

 初物のサウスポー相手に打線が沈黙してしまうのはレギュラーシーズンでもよく起こる事象ではあるが、そのジンクスが発動しそうで恐ろしい。


「プレイッ!」


 やがて投球練習が終わり、球審のコールを合図に6回表の攻撃が始まった。

 大松君は右のバッターボックスに入った。

 左バッターは背中から曲がってくるかのような高速スライダーに恐れをなし、スイングすらできなくなると言われているからこその選択だ。

 左対左よりも左対右。

 セオリー通りと言えばセオリー通りではあるが……。


「ストライクワンッ!!」


 プレートの左端からインコースに投じたフォーシームを前にして、大松君は強制的にスイングをとめられてしまったかのような動きを見せた。

 左ピッチャーの右バッターへの最大の武器とも言われるクロスファイヤー。

 それをあの長い手を使って。

 サイドハンドで。

 プレートの端から投じられたら。

 一瞬、デッドボール狙いかと勘違いしてしまっても不思議ではない。

 ましてやジャイアント選手の制球力もまた神がかっており、立体的なストライクゾーンの端も端に完璧にコントロールしている。

 むしろ左で挑むよりも右で挑む方が圧倒的に不利なのではないかと思う程だ。


「左は左でエゲツない」


 俺の心を読んだようにあーちゃんが言う。

 正にその通りで、左バッターに対する内角攻めは別の意味で厳しい。

 それに加えてアウトコースに逃げていく高速スライダーとのコンビネーション。

 既にそれだけで多くのバッターは完封できるというのに、他の変化球もある。

 サイクロン選手よりもハッキリと分かりやすく驚異的なピッチャーだと言える。


「ストライクツーッ!!」


 2球続けてインコース。

 今度は高速スライダーを低めに。

 大松君は超集中状態にある。

 それでも初見の軌道。針の穴を通す制球力を前にスイングすら許されない。


「……しゅ、秀治郎君。練習の時にトレースしてたわよね」

「ああ。でも――」

「これは別物っすよ……」


 恐らくサイクロン選手を真似た時よりも乖離が激しいだろう。

【体格補正】の差で球速が違うのもそうだが、それ以上に実際の体格差。

 腕の長さだけで恐らく15cm以上違う。

 勿論、プレートの左端よりも更に左へ15cmズレて投げるなどして可能な限り実物に近づける努力はしたものの、腕の振りの差異は誤魔化すことができない。


 ――ブォンッ!

 ドッ! パァンッ!!


 3球目。インコースから落ちてワンバウンドするスプリット。

 大松君は振りに行ったが、凄まじい変化にバットが届かなかった。

 恐らく握りは見えていたはずだ。

 しかし、直前の2球の残像が頭にあり、体の反応が阻害されたのだろう。

 打ってやると意気込んで臨んでくれていたものの、結果は空振り。3球三振。


「これは、キツいな」


 サイクロン選手が交代すれば何かが変わるかもしれないという淡い期待は、少なくともこの打席の結果からは叶いそうもない。

 そう思わざるを得ない状況だった。

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