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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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348 当日午前②

「…………何だか、このまますぐにでも球場入りして試合に突入しそうな会話でしたけど、もうしばらくはここにいられるんですよね?」


 父さんとのやり取りの後、少しの沈黙を挟んで母さんが若干気まずげに問う。

 そんな言い方をされるとこちらもちょっと気恥ずかしくなってしまうが、とりあえず俺は「まあ、うん」と誤魔化し気味に答えた。

 いい感じに締めに入った雰囲気があったけれども、さすがに解散するには早い。


「あ、でも、もう少ししたら他の皆も来るみたいだから……」


 余り話をすることができなくなるかも。

 そう暗に言うと、母さんは優しく微笑みながら頷いた。


「大事なことですから、私達のことは気にしないでお友達を優先して下さいね」


 決戦当日、試合直前の今となってはもうできることは限られている。

 ステータスの再チェックは済ませたし、情報分析もやれる限りのことはした。

 さすがに手元にあるデータから新しい事実が出てくることはないだろう。

 後はもう、試合中に直接肌で感じ取って相手の情報を更新していくしかない。

 だから今この段階でできることと言えば、喧騒を離れて静かに精神を研ぎ澄ませるか、こうして家族や仲間との交流を通じて決意を改めるぐらいのものだ。

 当然、母さんも理解してくれている。


 とは言え、仲間達がここに集まるのにもまだ僅かながら時間がある。

 だから俺達はそれまでの間、閑談に興じて過ごす形となった。

 勿論、閑談とは言っても自分達とは関わりの薄い世間話はさすがに場違いだ。

 そうなると必然的に子供の頃の振り返りが多くなっていく。

 家族が集まっている状況だから尚更だった。


「しかし、健也さんじゃないけど、改めて考えてみても茜がWBWに日本代表として出場してるのは本当に夢みたいだ」

「健康になる前を思い出すとそうかもしれないけど、秀治郎君が行く場所ならどこへだってついていきそうな子だもの。私は正直、納得感もあるわ」

「確かに。法事で秀治郎と数日離れ離れになった時なんか大泣きしてたからなあ」

「む。そんな記憶ないし、今は大丈夫」

「ホントかしら」

「合同自主トレでしゅー君と1週間ぐらい会えなかった時だって問題なかった」

「毎晩連絡取り合ってたし、帰ってきた時はいの一番に抱き着いてたじゃない」

「現代で連絡がつかない状況はまずないから考える必要ない。夫婦ならハグぐらい当然。何より少し離れ離れになったぐらいで、わたし達の絆は揺らいだりしない」


 未来の保証なんて一切なかった子供の頃と自分の意思で行動を決定することができるようになった今とでは、やはり安心感が全く違うだろう。

 俺達は伴侶として今後の人生も共にある。

 それを疑いなく信じられるぐらいの時間を、夫婦としても積み重ねてきた。

 今後、多少別行動を取ることがあったとしても動じることはない……はずだ。


「引退してしゅー君の子供を授かったら、遠征先とかにはついていけなくなるし」

「WBWで優勝したら、ね」

「それ、前提がおかしいよ……」


 暁にまで突っ込まれてしまう条件設定だが、こればかりは戦力的に仕方がない。

 あーちゃんなしでアメリカに勝利するのは不可能だ。

 ただ、打倒アメリカを果たしたら、以後彼女は不在になる可能性が高い。

 あーちゃんに頼らなくても済むように、戦力の拡充を図らなければならない。

 たとえ今回負けてしまったとしてもそうだ。

 子供を欲しがっている彼女に勝つまでお預けというのはどうかとは思うしな。

 ……まあ、さすがにこれはWBW決勝戦前に考えるようなことじゃないか。


「けど、遊園地に動物園、海水浴。秀治郎君も一緒に色々遊びに行ったわよね」

「そもそも、茜が秀治郎と一緒じゃないと行くのを嫌がったからな」

「すみません。家族水入らずを邪魔してばっかで」

「いいのよ。あの頃から秀治郎君は家族みたいなものだったんだから」

「ああ。秀治郎のおかげでたくさん思い出を作ることができたんだ。そして、これからもきっとそうだろう」


 2人共、先天性虚弱症のことも含めて言っているのは明らかだ。

【マニュアル操作】のおかげで治ったという正確な認識をしている訳ではないものの、俺のおかげだと思っていると彼ら自身の口から何度か聞いている。


「けど、少し普通とはズレてたわよね。遊び方とか色々と。私達家族の特別だと思えば、それも悪くなかったけれど」

「茜は勿論、秀治郎もね」

「えっと、そうでしたっけ」

「そうよ」

「……昔の秀治郎君達の話ですか?」


 そんな風に懐かしい話をしていると、横から聞き覚えのある声がかけられた。

 声の主は今も4人組でよく行動している彼女達の1人。仁科すずめ(仁科さん)だった。

 その傍らには他の3人、泉南琴羅(泉南さん)諏訪北美瓶(諏訪北さん)佳藤琉子(佳藤さん)の姿もある。

 アメリカはフロリダ州マイアミの地で、誰1人として欠けていない。


「皆、遅い」

「すみません。ちょっと道が混んでいまして」

「こっちはー、春休みだからー、仕方ないー」

「スプリングブレイクって言うんだって!」

「休みのリゾート地はこれだからねえ」


 何にしても彼女達の顔が見られてホッとする。

 特にトラブルなく着いてよかった。


 WBW決勝トーナメント決勝戦ともなると国の大事。

 それがこの世界における常識。

 故に学校にしても会社にしても、その応援のために休むとなれば比較的寛容だ。

 勿論、そうは言っても経済活動をとめることはできないが……。

 少なくとも彼女達は問題ない。

 大学に通う傍ら、ちょくちょく村山マダーレッドサフフラワーズのイベントの手伝いをしてくれている諏訪北さんと仁科さんにしても。

 大学入学後即休学し、村山マダーレッドサフフラワーズのチアリーディングチームで活躍している泉南さんと佳藤さんにしても。

 渡米の最大の障害はWBW決勝戦のチケットだけだった。


 まあ、それはともかくとして。


「昔の秀治郎君とー、茜っちかー」

「興味あるね」

「私達が出会ったのって、中学校だもんね!」

「ご家族だからこそ知ってるエピソード、知りたいです」


 彼女達は口々にそんなことを言い出した。


「いや、皆。あーちゃんから色々聞かされてなかったっけ?」


 中学校スタートの関係ではあるものの、ありがたいことに今日に至るまで途切れることなくつき合いは続いている。

 かけ替えのない仲間であり、あーちゃんにとっては数少ない友人と言っていい。

 それだけに大きなイベントの陰で何の変哲もない日常もまた、決して短くない時間を共に過ごしてきた。

 そうした普通の日々の中で、別に幼馴染マウントという訳ではないが、あーちゃんが俺との思い出を誇らしげに話していたことも多々あった。

 耳にタコかと思ったし、大体のエピソードはインタビューでも答えている。

 他にも――。


「本だって出てる」


『野村秀治郎・茜夫妻の軌跡』というノンフィクション本だ。

 スポーツ記者が編纂したものだが、俺達の半生を彩る出来事は網羅されていた。

 彼女達も取材を受けていて、中身も全部読んだと言っていたはずだが……。


「それはそうだけど、ご両親ならではの珍エピソードがまだあるかもだし」


 そんな反論が4人組とは別の人物から来る。

 彼女達よりも更に少し遅れて来た津田陸玖(陸玖ちゃん先輩)だ。

 その隣には彼女が大学で得た友達である五月雨月雲(五月雨さん)

 藻峰珠々(藻峰さん)佐藤御華(佐藤さん)もいる。


「って、珍エピソード限定ですか?」


 思わず突っ込みを入れると、陸玖ちゃん先輩は「もちろん」と胸を張った。

 彼女らしいが、変なエピソードを掘り起こされるのはちょっと困る。

 いや、特に心当たりはないけれども。


「そもそも、秀治郎選手はどんな子供だったんですか?」

「やはり特別な子供だった……のですか?」


 更に彼女達の後ろから、村山マダーレッドサフフラワーズ球団職員として働いてくれている石嶺夫妻(仁愛さんと轟さん)が顔を出す。


「あの本に書いてあった通り、と言うか、私達が取材にそう答えた訳ですが、時間があればバットを振っているような子でした」


 そんな彼らの問いに、母さんが穏やかな表情で答える。

 しかし、それはプロ野球選手の幼少期としては普通過ぎるエピソードだ。


「野球漬けの子供時代。言葉にするとそうなるのは確かでしょう。けれど、この子のそれは異質なものだったと思います」

「ええと、どういうことですか?」


 仁科さんの質問に、母さんは俺の方を向いた。


「……秀治郎。貴方は純粋に野球が好きな訳ではないでしょう?」


 不意にそう問いかけられ、思わず答えに窮してしまう。

 それこそが答えだった。


「野球が大好きで、野球がやりたいから、野球をやっている訳じゃない。私達のため、日本のため、茜ちゃんのため。必要だから野球をしている。子供の頃から」


 責めている訳ではないのは口調から分かる。

 困った子供を諭している感じだ。


「お義母さん」


 逆にあーちゃんが少し責めるように呼びかける。

 彼女は【以心伝心】でとっくの昔に分かっていたことに違いない。

 とは言え、WBW決勝戦直前に指摘すべきことじゃないんじゃないか。

 そんな疑問が込められている声色だ。

 対して母さんは、そんなあーちゃんに微笑みを向けた。

 息子の嫁が息子をよく分かっていることが嬉しいと言わんばかりに。

 それから母さんは言葉を続ける。


「勿論、嫌いなものをここまで続けるのは無理な話です。スポーツの中で野球が最も好きなのも事実ではあるのでしょう」


 そこもあーちゃんは分かっていて、だから今まで何も言わなかったに違いない。

 俺が嫌いなことを嫌々していたなら、どこかでとめようとしていたはずだ。


「けれど、秀治郎の中には複雑なものが色々とあって、子供の頃からまるでしがらみに囚われた大人のように野球と向き合っていて……今もそのまま」

「好きというだけで、仕事はできないのは、大人なら当然のことでは、ある。けれども、そこだけは、俺達としても、心配だったところだ」


 父さんが引き継ぐように口にしたことに、母さんは頷いて同意する。

 視線を少し彷徨わせると、お義母さんとお義父さんも似たようなことを思っているような表情を浮かべているのが見えた。

 そして――。


「秀治郎。貴方はもっと、純粋に野球を楽しんでもいいのですよ」


 母さんはそんなことを言ったのだった。

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