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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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342 結局そうなってしまうのか

「倉本さん。コースを読まれてる可能性が高い」


 共にマウンドに集まった倉本さんに対し、開口一番そう指摘する。

 ロシア代表のバッター達が猫も杓子もフルスイングを始めた辺りから、彼らはそれに合わせてヤマを張って打ちに来るようになった。

 それがうまくハマれば連打になることも当然あるだろう。

 だが、さすがに2者連続ホームランは偶然と切って捨てていいものじゃない。

 その前のバッターである1番のエードガル選手が3球目のボール球を見送り、直後にファウルを打っていたのも違和感があった。

 全体の流れとして見ると、やはり勘違いではないだろう。


「自分では無作為にしてたつもりっすけど……やっぱそうっすよね、これは」


 倉本さんは若干腑に落ちない顔をしながらも、否定はせずにすぐに受け入れる。

 癖というものは無意識の行動に現れやすいものだけに自覚するのは中々難しい。

 とは言え、否定できる要素もないし、マウンドでの会話はそう長々とできない。

 押し問答や原因探しをしている暇はない。

 それよりも何よりも、これからどうするかを考えるのが大事だ。


「……だったら、それ以外のコースを意識的に狙うっす」

「そうだな。幸い球数はまだ60球未満だ。もっとボール球も使っていこう」


 8回裏1アウト。球数制限の95球まで余裕がある。

 ボール球を投げる余地は十分ある。

 そんな俺のアドバイスに倉本さんは神妙に頷くと、美海ちゃんを振り返った。


「みなみん。ウチを信じて、迷わず投げて欲しいっす」

「ええ。私のナックルは未来あってのもの。一蓮托生だもの。信じるわ」


 互いに頷き合ってグローブ同士でタッチする2人。

 2者連続ホームランの後もバッテリーの信頼は微塵も揺らいでいない。

 彼女達の様子を頼もしく思いながら、俺は足早にショートの定位置に戻った。


「プレイッ!」


 4番のドロフェイ選手が改めてバッターボックスに入り、試合が再開される。

 サイン交換に美海ちゃんが即座に頷く。

 それから彼女は躊躇うことなく、倉本さんのミット目がけて初球を投じた。


 ――ブオンッ!!


 フルスイングは空気を切り裂く音を発するが、それはつまるところ空振り。

 まずは1ストライク。

 倉本さんは初球からボール球を使った。

 外のボールゾーンからそのまま低めに揺れて落ちていくナックルだった。

 更に、続く2球目。


 ――ブオンッ!!


 倉本さんが選択したのは、またも外のボール球。

 ただ、今度は外から内に一瞬ブレるような挙動を見せつつも、そこから逆により大きく外へと急激に変化するナックルだった。

 ドロフェイ選手は明らかにアウトコース低めにヤマを張ったようなスイングをしたが、バットは届かずノーボール2ストライク。

 淡々と倉本さんから美海ちゃんにボールが返ってくる。

 そして、ほとんど間を置かずに投じられた3球目は――。


 ――ブオンッ!!


 ど真ん中付近から左右にブレながら真ん中低めにワンバウンドするボール球。

 ドロフェイ選手はそれもフルスイングし、バットは空を切った。

【軌道解析】でキッチリ捕球した倉本さんがバッターにタッグしてアウト成立。

 3球連続のボール球。言い換えれば1球もストライクゾーンを通過しなかったにもかかわらず、尽く空振りしての三振となった。

 バッターとして、これ程屈辱的なことはない。

 これはピッチャーというよりも配球に敗北した形だ。


 しかし、それも仕方のないことだろう。

 無作為な変化で予測困難であるが故に本来ならコントロールも難しいナックルにもかかわらず、美海ちゃんはこれまで異常なストライク率を誇っていたのだから。


 ストライクゾーンに3球投げれば、どうあれバッターは振らなければならない。

 その強要もまた俺達の1つの武器ではあったが、コースにのみヤマを張ったフルスイングというある種の奇手に対してはやや相性が悪い。

 勿論、他の策との比較の問題ではあるものの、美海ちゃんのナックルに対してはある程度効果的だったのは合計3本のホームランからも明らかだ。

 そういった流れの中で、倉本さんはボールゾーンに3球投じさせた訳だが……。

 相手もここまでボール球が続くとは思いもしなかったに違いない。

 次こそはと振り続けた結果が3球連続空振りでの三振。

 ストライクゾーンに入ってこないボールを、高確率でストライクゾーンに来ていた時と同じ感覚で振りに行っても当たりはしない。

 少なくともドロフェイ選手に対してはそれがうまくハマった。


 加えて言えば、これは何もこの打席、このバッターのみに有効な手ではない。

 ボール球を投げてくる可能性を相手の頭に強烈に植えつける。

 ヤマを張る際の選択肢を増やす。

 そうなればバッターや首脳陣に迷いが生じる。

 8回裏1アウトだ。

 倉本さんの配球の傾向を再び分析し直す猶予もほとんどない。

 ロシア代表バッターの打力が変わらず脅威なのは確かだが、僅かなりとも主導権を握り直すことができるだろう。


 当然、これは150km/h近い速度を誇る高速ナックルだからこその話だ。

 緩いナックルだったら見極めのタイミングを遅くできるため、明らかなボール球の見極めはそう難しいことではない。

 全身の力を振り絞る負荷の大きいフォームを、しっかりと誤差なく維持し続けている美海ちゃんの集中力の賜物でもある。


 そういった前提があった上での5番バッターへの初球。


「ストライクワンッ!!」


 俺と交錯して負傷退場したレナート選手に代わってサードに入っていたエフレム選手は1球見送って1ストライク。

 コースは甘く、高めのボール球から真ん中高めに入るナックルだった。

 しかし、彼は手を出さなかった。

 ドロフェイ選手がボール球を3連続で空振りしたのが堪えたのだろう。

 打ち気が見えなかった。

 倉本さんが観察してうまく見極めた形だ。

 2者連続でホームランを打たれてかえって冷静になったのかもしれない。


 ――ブオンッ!!


 続いて内寄りの真ん中からインコース低めに外れるボール球を空振り。

 ノーボール2ストライク。


 ――カンッ!!


 3球目は高めから揺れ落ちつつ、外のボールゾーンに逃げていく軌道の球。

 エフレム選手はアウトコース高めいっぱいを狙って振りに行き、しかし、届かないと見て咄嗟に腕を伸ばして崩れたスイングでボールの上を叩いた。

 バットの先端ながらも恐ろしく速い打球はファースト横へと転がる。

 それをベースのすぐ近くで正樹がファーストミットを活かしてショートバウンド気味に捕球し、即座にベースを踏んだ。


「ヒズアウッ!」


 3アウトチェンジ。

 正樹がわざとバッターランナーの突進を警戒する素振りを見せる一幕もあったりしたが、さすがに打球が速過ぎてエフレム選手は途中でベンチに戻っていった。


 そして試合はラストイニング。

 9回の表に突入したが……。

 日本代表の攻撃は7番の美海ちゃんからの打順。

 登板中の彼女は大事を取ってバッターボックスの端に立って見逃し三振。

 8番の磐城君と9番の大松君も新たに登板したサウスポー相手に勝負を挑んだものの、200km/h超の変化球に手も足も出なかった。

 結果、3者凡退で日本代表は無得点。

 スコアは9-8。1点差のまま9回裏に移行する。


「何はともあれ、残すは3人。もう一息だ」

「うん。頑張るわ」

「みなみー、ファイト」

「ええ」


 俺達のエールを受け、気合を入れ直した美海ちゃんが最終回のマウンドに立つ。

 女房役の倉本さんは前のイニングでの配球を踏襲し、ボールゾーンにプラスして四隅ではなくストライクゾーンの上下左右に投じることで狙いを外していく。

 6番のダニール選手、7番のロスティスラーフ選手を打ち取って2アウト。

 打席に立つのは8番のヤロスラフ選手。

 試合終了まで後1人。ロシア代表は完全に後がなくなった。


 それでも点差は僅か1点。

 ホームランで同点。起死回生の可能性は十分あった。

 それは確かだったが、当然ながら100%ではない。

 禁じ手を使った挙句に相手選手を怪我させようとするかのようなプレイを繰り返し、もはや今大会で優勝する以外にない状態の彼らにとっては不十分だった。

 だから、彼らは最後の手段に出た。


 ヤロスラフ選手に対する1球目。

 美海ちゃんがボールをリリースした正にその瞬間。


「跳んで!!」


 あーちゃんが緊迫した声でそう叫んだ。

 それを受け、美海ちゃんは咄嗟に言われた通りにジャンプした。

 だからギリギリ大事には至らなかった。


「いぎっ!?」


 それ(・・)は美海ちゃんのスパイクの甲の部分にぶつかった。

 打球ではない。

 ボールは倉本さんのキャッチャーミットに収まっている。

 では、何が飛んできたか。

 それは、ヤロスラフ選手の手から離れたバットだった。


「アイツら……!!」


 フルスイングのスピードそのままに飛来したそれは凶器としか言いようがない。

 もしも頭に当たるようなことがあれば命に関わっていただろう。


 もっとも、相手側もそこまでするつもりはなかったようだ。

 すっぽ抜けを装ったそれの狙いは恐らく足。

 ピッチングができなくなれば、それでよかったに違いない。

 しかし、彼女が咄嗟に飛び上がらなければ膝にバットが直撃していたはずだ。

 あるいは選手生命に直接関わるような大怪我を負っていた可能性もある。

 決して許されることではない。


「美海ちゃん!!」

「みなみー!」


 とは言え、今は美海ちゃんの容態を確認するのが先だ。

 マウンドに駆け寄り、蹲って苦悶の表情を浮かべている彼女の傍にしゃがむ。

 傍から見ただけでは分からない。

 打撲か、あるいは骨折か。


「美海ちゃん、歩ける?」

「む、無理そう……」

「分かった。あーちゃん」

「ん」


 すぐに2人で美海ちゃんに肩を貸し、日本代表ベンチへと向かう。


「ごめん。後1人、なのに……」

「美海ちゃんが謝ることじゃない」

「悪いのはアイツら」


 苛立ちを隠さずに吐き捨てるあーちゃんに内心同意する。

 これまでは、女性選手である美海ちゃんや倉本さん辺りを狙うのは余りにも外聞が悪過ぎるのと打力と守備力の観点で俺を狙ったのだろう。

 あーちゃんに怒られてしまうが、そこまでなら別によかった。

 だが、とうとう進退窮まって美海ちゃんを直接排除しに来た。

 倉本さんの配球を読んで対応したことを内心褒めていれば結局これだ。

 ふざけている。


『ヤロスラフ選手は危険行為により退場。ロシア代表チームには再度の警告を出します。次に同様のことがあれば、没収試合にいたします』


 速やかに審判がタイムをかけ、球場全体にアナウンスする。

 9回裏2アウトだけに、ここから没収試合にすることは避けたようだ。

 それでも言及はしたので、以後はロシア代表も自重するはずだが……。

 そんなことは何の慰めにもならなかった。

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