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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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450/455

340 破れかぶれか逆恨みか

 8回表。日本代表の攻撃はこの回先頭の3番バッター、山崎選手が意地の3ベースヒットによってノーアウトランナー3塁。

 統計的に得点確率は8割以上とされるシチュエーションになった。

 そのタイミングで迎えるバッターは、この試合2打数2安打5打点の上に直前の打席では2アウトランナーなしでさえ歩かせた俺。

 にもかかわらず、ロシアは何故か申告敬遠しなかった。

 そのことに疑問を抱きながらも一先ずバッターボックスへと向かう。


 勿論、ここで俺を敬遠したらノーアウトランナー1塁3塁となる。

 当然ながら俺は盗塁を狙う。

 一方で全力投球中のロシアバッテリーは牽制も送球も困難だ。

 それは前の打席で既に証明しているし、更にダブルスチールを警戒しなければならないとなれば2塁に投げることすらできないだろう。

 ほぼ確定でノーアウトランナー2塁3塁に変わることになる。

 場面だけ見るとチャンス拡大だ。

 そんな状況で、たとえ失投を見逃さなかっただけにしても第2打席にホームランを打っている昇二を迎えるのは避けたい。

 そう考えた可能性もなくはない。


 とは言え、塁が埋まっていないとダブルプレーの確率は極めて低くなる。

 点が入らない限り、後続のバッターにも基本的にランナーが残る形となり……。

 実際にはノーアウトランナー3塁で俺、昇二、正樹と対戦するか、ノーアウトランナー2塁3塁で昇二、正樹、美海ちゃんと対戦するかの比較になる。

 この試合も残すところ2イニング。

 1点も許したくないとすれば、俺がロシアの立場だったら後者を選ぶだろう。


 だが、彼らはそうしなかった。

 少なくとも今の段階ではそんな風に見える。


 ちなみに。

 今の段階でと注釈をつけたのは、申告敬遠は打席の途中でも行えるからだ。

 だから、まだ確定した訳ではない。

 1球だけ投げてやっぱり申告敬遠、なんてこともルール上はできる。

 もっとも、投げた分は完全に無駄球になってしまうし、厳しい球数制限もある大会でそんな真似をする意味は尚のこと乏しい。

 ルールを考慮しても、十中八九申告敬遠はないはずだ。


「山崎選手のおかげか、はたまた……」


 怪我を恐れず打ちに行き、実際に打って見せた山崎選手。

 彼がそうした以上、後続のバッターもまた危険を顧みず我武者羅に振ってくる可能性があると考えても不思議ではない。

 その疑念がロシア代表にこのような選択肢を取らせたのかもしれない。

 ……あるいは、何か別の理由があってのことか。


 まあ、いずれにしても。

 申告敬遠されなかった以上、俺はバッターボックスに立つ以外にない。

 粛々と打席に入り、マウンドのロジオン選手を見据える。

 そうしながら【離見の見】を使用し、超集中状態を作り出した。

 同時に、視界の端に山崎選手の姿を捉える。


 この状況でホームスチールはない。

 5回の表は右投げのマクシム選手だったからこそ敢えて走って見せて暴投を誘うことができたが、左投げのロジオン選手では普通に投げ込んでくるだろう。

 人間の足で彼の投げた球以上の速さでホームに到達するなんてことはそもそも不可能だし、ただ単にチャンスを潰して終わってしまうだけだ。

 打ち返さなければ基本的に得点はない。


 最低でも外野フライ。

 それにしたって、彼らの肩の強さを考えると深いところまで飛ばす必要がある。

 そこまで考えたところで、ロジオン選手がセットポジションから第1球を――。


「ちっ」


 思わず舌打ちが出る。


 この、馬鹿野郎がっ!!


 俺は彼のモーションを見て、そう心の中で悪態をついた。

 プレートの端からのクロスファイヤー。

 そこまでなら何も問題はない。

 左対右なら当然の投法だ。

 しかし、リリースポイントがおかしかった。

 引き伸ばされた時間のおかげで瞬間的に把握できた。

 だから俺は思いっ切りアウトステップしつつ、体を傾けた。

 ロジオン選手が投じたのはフォーシーム。

 インコース高めに大きく外れた、頭を狙った220km/hだった。

 これはさすがに単なる失投、偶然とは言いがたい。

 申告敬遠をしなかったのは、このためだった訳だ。


「く、おおっ!」


 頭部に迫り来るそれに対して無理矢理バットの芯を合わせる。

【怪我しない】がなかったら確実にどこかを痛めていただろう。


 ――バキッ!!


 いつだったか昇二が故意死球をホームランにしたことがあった。

 しかし、今回は余りにも球速が違い過ぎた。

 バットは2打席目と同様に圧し折られてしまい、ボールは高々と上がる。

 俺は体勢を維持し切れずに背中からグラウンドに倒れ込んでしまったが、即座に起き上がって打球の行方を確認した。


 ロジオン選手の直球の威力によってバットが折れて尚、打球速度は非常に速い。

 ただ、角度がつき過ぎていてスタンドまでは届かない。

 左中間。高々と聳えるフェンスの手前に落ちるセンターフライになるだろう。

 落球は期待できない。

 それでも俺は全力で駆け出した。

 コンタクトから大分タイムラグがあるものの、怠慢走塁はそもそも許されない。

 何より、あの交錯の後のこれだ。

 プレイに一切の支障がないことを改めて周囲に示しておかなければならない。


「キャッチッ!」


 そして1塁を回ったところでセンターが捕球した。

 フライアウトを告げる審判のコールを確認し、俺はそこでようやく足を緩めて速やかにファウルグラウンドへと退避する。

 そうしながら既にタッチアップした3塁の山崎選手を見守った。

 完璧な走り出しだった。

 加えて、ロシア代表選手程ではないにせよ、彼にもカンストしたステータスと多数の走塁系スキルによって裏打ちされたスピードがある。

 外野の深い位置からバックホームで刺すことはいくら何でも不可能だった。


「セーフッ!!」


 犠牲フライで1点。

 スコアは9-6。リードは3点差に広がった。

 しかし、スタンドは盛り上がり切れていない様子で騒然としている。

 頭への投球だ。当然だろう。


 そんな中で、俺は慌ててベンチへと走り出した。

 何故なら、あーちゃんが今にもバット片手にベンチを飛び出してロジオン選手に向かっていきそうなのを、美海ちゃんと倉本さんが抑えている姿が見えたからだ。


「タイムッ!」


 その途中で球審が自らそうコールし、試合がとまる。

 もしかして今の得点に何か瑕疵があったのか、と思いながらも俺は普通にアウトになった立場なので、足をとめずにあーちゃんの下に向かう。


「あーちゃん」

「……しゅー君!」


 俺の呼びかけに、バットを放り出して抱き着いてくるあーちゃん。

 美海ちゃん達が露骨にホッとする。


「アイツ、わざと!」

「…………うん。かもしれない」


 今回ばかりは否定できない。

 しかし、だからと言って感情のまま行動してしまうのはよくない。

 後々相手を追求する段になってデメリットを被ることにもなりかねない。

 とにかく冷静にならなければ。

 冷静にさせなければ。


「でも、あーちゃん。俺は大丈夫だから」

「しゅー君……」


 こちらからも彼女を強く抱き締め返し、更に背中をさすって宥めようとする。

 それでいくらか呼吸が和らいだ。

 少しは落ち着いてくれたようだ。


「……茜。アイツ、退場になったみたいだから」

「まあ、アレは当たってなかろうが完全に危険球っすよね」


 あーちゃんが暴走しかけていたからこそ制止する側になっていたものの、2人もさすがに堪忍袋の緒が切れているようだ。

 ロジオン選手への嫌悪を隠さず、吐き捨てるように言う。

 そんな2人の苛立った様子も目にして我が身を少し省みたのか、あーちゃんは自分を鎮めようとするように深く息を吐き出した。

 とりあえず彼女は大丈夫そうだ。

 一先ず体を離し、それからまだヤバそうな人物へと視線を移す。


「正樹」


 俺達の傍らでこれまでにないぐらいの怒気を込めてロシア代表ベンチを睨みつけている彼に対し、窘めるように呼びかける。

 6番なので次の次の打順だが、こんな状態のままネクストバッターズサークルに向かわせる訳にはいかない。


「やり返してやろうなんて考えるなよ。同じ穴の狢になる必要はない」

「…………分かってる」


 あーちゃん達にも向けた俺の言葉に、正樹も複雑な表情を浮かべながら頷く。

 長らく怪我に苦しんできた彼だ。

 怪我上等どころか、ほとんど殺人未遂みたいなプレイを目の当たりにしては冷静でいることなどできはしないだろう。

 俺もそれを容認するロシア代表側の思考には腸が煮えくり返る思いだ。

 もっとも【怪我しない】こともあって実害はあり得ないと確信しているので、その部分に限定すると怒りのボルテージは皆に比べて低い。

 その上、周りが興奮状態にあることもあり、逆に冷静になってしまっているが。


『ロジオン選手、危険球により退場とします。また、只今のプレイに対して両チームに警告を出します。警告試合といたします』


 そんな中で、球審がそう球場全体に向けて告げた。

 球場全体が一層ざわめく。

 先程のタイムはこのためだったようだ。


「警告試合、か」


 それは危険行為が頻発した試合において、以後同様の行為が再び行われた場合に即刻退場処分を下すことを周知して健全な試合の継続を図るためのものだ。

 WBWは覇権争いの側面もある。

 それだけに、前世の世界大会よりも警告試合となったケースは大分多い。

 勿論、不名誉なことなので基本的にはどの国も避けようとするが……。

 エキサイトしていれば抑えが利かなくなってしまうのは想像に容易い。


「……何でこっちまで」

「まあ、報復防止のためってのもあるからな」

「これは仕方ないっす」


 ロシア代表のプレイが主な原因なのが明白なので、あーちゃんの不満も分かる。

 だが、一方にのみ警告を出すともう一方による報復が野放しになりかねない。

 だから両チームに出るケースがほとんど……なのだが、今回は恐らくバット片手に飛び出そうとしていたあーちゃんを見逃さなかったのもあるだろう。

 レナート選手との交錯があった上でのこの事態であるだけに、普段のように野球でやり返そうとするのではなく実力行使しかけた彼女を責めるつもりはない。

 220km/hの危険球は度が過ぎているしな。

 何より、警告試合が出たところで危険なプレイをしなければいいだけの話だ。

 むしろ――。


「正樹も、警告試合になった以上は下手にやり返そうとしたら逆にこっちの不利になるんだから気をつけろよ」


 そうやって注意する理由になると考えれば、プラスの側面もなくはない。

 いい風に言い過ぎかもしれないが、それはともかくとして。

 出てしまったものは出てしまったものとしてやっていく以外にない。

 ルール順守。健全な運営への協力は参加選手の義務だ。

 たとえ相手がどうであれ、こちらがそれを破っていい理由にはならない。


「……ああ。肝に銘じる」


 それらのおかげもあってか、正樹はそう感情を抑えるように答える。

 そして、危険球退場による投手交代と投球練習の合間にネクストバッターズサークルへと向かったのだった。

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