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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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449/455

339 意地

 アメリカへの挑戦権を賭けた重要な一戦も終盤戦。

 救急車がグラウンドに入る事態になったりとある意味で荒れた展開の中、7回の攻防は美海ちゃんが9番のグレゴリー選手を三振に切って取って終わりを告げた。

 しかし、その直前。8番のヤロスラフ選手に左中間の巨大フェンスの遥か上を行く特大ソロホームランを許して1点返されており、現在のスコアは8-6。

 2イニングを残してリードは2点という状況になっている。

 尚、美海ちゃんは現状4回2/3を投げて1失点。

 強力ロシア代表打線が相手と考えれば十分過ぎる成績だが――。


「遂に打たれちゃったわ……」


 これまで無失点で切り抜けてきただけに思うところもあるのだろう。

 美海ちゃんは嘆息気味に呟いた。


「みなみんは何も悪くないっすよ」


 対して、ベンチに戻りながら倉本さんが笑顔でフォローを入れる。

 それは俺達の総意だが、彼女の笑みはどことなくぎこちない。

 声色もまた、内容に反して少し険しかった。

 勿論、心にもないことを言っているのが滲み出てしまっている、とかではない。


「問題は、単なる偶然に過ぎないのか、それともコースを読まれたのかっす」


 美海ちゃんのナックルは効果的に機能している。

 その上で何故ホームランを打たれてしまったのか。

 あくまでも出会い頭の結果に過ぎないのであれば誰1人として悪くない。

 一方で、もしコースを読まれていたのだとしたら。

 誰も責めるような真似はしないだろうが、少なくとも美海ちゃんの配球に関しては全権を委ねられている倉本さん自身は責任を感じてしまうに違いない。

 既に猜疑心に苛まれて思い悩み始めているぐらいだからな。


 WBW決勝トーナメント準決勝戦という大舞台。

 7回終了時点でリードは2点のみ。

 精神安定系スキルをいくつも取得していて尚、かつてない程に肥大化しているであろうプレッシャーがそれに拍車をかけているのは言うまでもない。

 とは言え、扇の要たる倉本さんがそれでは困る。

 だから――。


「1人に打たれたぐらいじゃ偶然かどうかなんて分かりようがないし、残り2イニング、一先ずこのまま続けていくしかない。バッターをよくよく観察しながら」


 俺は横から口を出し、彼女が少しでも落ち着いてくれるように静かに諭した。

 運否天賦だったとしたら、変に弄ると逆に噛み合ってしまう恐れもなくはない。

 身も蓋もない話になるが、不自然な見逃しや連打でもない限り確証は持てない。

 焦らず冷静に状況を見ること。

 当たり前過ぎて陳腐に聞こえるが、それ以外にできることはない。


「そうっすよね……」


 倉本さんは自分に言い聞かせるように呟く。

 それが多少なりとも思考の袋小路に入り込むのを予防してくれればいいが、やはり特効薬となるのはそうした根本的な解決に至らない正論ではない。

 相も変わらずナックルガチャに頼らざるを得ない、薄氷を踏むような戦いだ。

 余計に2点差は心許ない。

 是が非でも追加点が欲しいところだし、それこそが精神的な余裕に繋がる。


「せめてもう1点。ここで取っておかないと」


 8回表の日本代表の攻撃は3番の山崎選手からだ。

 4番の俺にも確実に打順が回ってくるが、その次は恐らくないだろう。

 延長に入らない限り、得点のチャンスはこれが最後だと思っておいた方がいい。

 どんなに泥臭い形でもリードを広げておきたい。


「しゅー君」


 そんな俺の思考を察したらしく、あーちゃんが俺のユニフォームの袖を引く。

 こっちの好機とは即ち、あちらにとって失点のリスクが高まるタイミングだ。

 またぞろ何か仕かけてくる可能性はゼロではない。

 加えて、6回裏にあんなことがあったばかりというのもあってのことだろう。


「……無茶だけはしないで」


【以心伝心】から伝わってくる彼女の気持ちは、その声色以上に心配の色が濃い。

 ユニフォームから手を離したあーちゃんは俺の右手を取ると、それを両手で抱き締めるように包み込んで行動でも己の心を示す。

 それを蔑ろにするようなことはもうしてはいけない。


「分かってる。あーちゃんを悲しませるようなことだけは絶対にしないから」


 だから俺は左手をそこに重ねると【怪我しない】を根拠に本心から告げた。

 そういう意思を伝える時は本当に【以心伝心】が役に立つ。


「ん。信じてる」


 小さく頷いてくれた彼女の精神が穏やかになるのも手に取るように分かる。

 そうして少しの間、互いに見詰め合っていると――。


「秀治郎君も茜も、こんなとこでイチャイチャしないの」

「日本どころか全世界に放送されてるかもしれないっすからね」


 美海ちゃんと倉本さんは呆れ果てたように言う。

 それはそれとして被弾のショックは和らいだようだ。


「と言うか、さっき狼狽した姿を世界中に晒した後だ。今更だろう」

「に、兄さん、やめなよ」


 正樹はあーちゃんを挑発するように言い、昇二は困ったようにそれをとめる。

 ここまで含めて、ある意味ルーティーンのようなものと見なしていいだろう。


 対称的に磐城君や大松君、他の選手達も見ない振りをしてくれている。

 慣れている同世代組以外には目に毒かもしれないが、首脳陣もここは黙認。

 特に俺やあーちゃんの精神状態は日本代表の戦力に大きな影響がある。

 そう判断してのことに違いない。

 平常ならいざ知らず、今はレナート選手との交錯が免罪符になっている形だ。


「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 いずれにしても今この場は俺もあーちゃんのために周りのことは気にせず、そんなやり取りを経てからネクストバッターズサークルへと向かう。

 まだ投球練習の途中だ。

 ロシア代表はこの回もまたピッチャーを交代してきた。

 新たにマウンドに立ったのはサウスポーのロジオン選手。

 これまでと同等の選手であることは間違いない。

 そんな彼の投球練習が終わり、既にバッターボックスの近くで精神を研ぎ澄ませていた山崎選手が左打席に入ったところで8回の日本代表の攻撃が始まる。


 とは言え、怪我のリスクを回避するにはスイングすら控えなければならない。

 そうなると山崎選手は早々にアウトになって、1アウトランナーなしの状況で打順が回ってくることになるだろう。

 申し訳なくも、俺はそう想定していたが……。

 彼には彼の、日本代表選手としての意地というものが当然ながらあった。

 ロジオン選手を見据える眼光は鋭く、高いレベルで集中していることが分かる。


 ――ブンッ!

 ――バチンッ!!


 1球目。インコース高めいっぱいへのフォーシーム。219km/h。

 山崎選手は明らかにボールからかけ離れたスイングをした。

 単なる見せかけ、ではないだろう。

 逃げ腰にもなっていないし、明らかにタイミングと軌道を見極めている。

 これは、打ちに行くつもりだ。

 振り返ってみると、前の打席も見逃し三振の傍ら球筋を見極めていたが……。


 2球目。変化球。

 アウトコース低めに決まる高速スライダーだった。

 山崎選手はそれに対して躊躇せず踏み込んでバットを振り抜いた。


 ――カッ!

 ――ガシャンッ!!


 しかし、ボールはバットの先端で掠って打球は後ろに飛ぶ。

 そのままバックネットのフェンスに当たってファウル。

 ノーボール2ストライク。

 ほんの僅かに山崎選手の想定よりも変化が大きかったようだ。

 1イニング毎にピッチャーが交代されてさえいなければ。

 確実に芯で捉えていたに違いない。


「けど、大丈夫か……?」


 磐城君も真後ろへのファウルで腕が痺れた様子を見せていた。

 それもあって思わず心配の声が漏れる。

 だが、山崎選手は特に気にした様子もなくバットを構えた。

 痺れや痛みがない訳ではないだろう。

 それが気にならない程、この打席に集中しているのだ。

 その様は正に超集中状態。

 ここに野球生命を懸けていると言われても信じられるぐらいの意思を感じる。


「ボールッ!!」


 それにロシア側も気圧されたのか、高速スライダーを大きく外して様子を見た。

 山崎選手はピクリとも動かずに見送っていた。

 そして1ボール2ストライクから続く4球目。


 ――バガッ!!


 インコース低めに投じられたフォーシームを山崎選手は芯で捉えた。

 220km/hの速球をキッチリ打ち返した打球速度は凄まじく、ロシア代表選手のそれと遜色ない速さでファーストのドロフェイ選手を強襲する。


 ――バンッ!


 低い弾道はファーストベースに直撃して大きくバウンドが変わり、山崎選手の意思が乗り移ったかのようにドロフェイ選手から逃れて脇を抜けていく。

 ボールはファウルゾーンを転がっていき、外野フェンスに到達する勢いだ。

 ライトのヤロスラフ選手も正面で捕るのは最初から諦めていて、クッションボールを追う態勢になっている。

 彼らの身体能力を加味した上でも完全な長打コースだ。


 山崎選手は快足を飛ばして1塁を回り、更に2塁を回る。

 そこでようやくセンターのエードガル選手がボールを拾い上げた。

 ライトではなく。

 打球速度が余りにも速過ぎて、フェンスで跳ね返ったボールはファウルゾーンからフェアグラウンドに戻ってきた挙句に右中間の辺りまで転がってきていた。

 そのおかげもあって山崎選手は3塁を陥れる。

 3ベースヒットでノーアウトランナー3塁。

 ここで長打が出たのは本当に大きい。


 しかし、220km/hを打った山崎選手の手は大丈夫なのかと焦る。

 3塁上に立つ彼はバッティンググローブを外しながら僅かに顔をしかめた。

 塁審にタイムを要求し、ベンチから出てきたトレーナーがスプレーで冷やす。

 3ベースヒットでの出塁に盛り上がっていたスタンドが一気に静まる。

 選手もそうだが、観客も随分と怪我にナーバスになっているようだ。


 手を握ったり開いたりして感覚を確かめていた山崎選手は「問題ない」とばかりに頷き、それを受けてトレーナーが駆け足でベンチに戻っていく。

 どうやら大きな怪我には至っていないようだ。

 ホッと胸を撫で下ろす。


 山崎選手は怪我のリスクが高まる代わりに【体格補正】のマイナスが軽減される【全力プレイ】と【身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ】を取得していない。

 逆に、怪我のリスクを低減する【しなやかな肢体】と【猫のような柔軟性】を所持しているため、【怪我しない】程ではないにしても怪我しにくくはなっている。

 そのおかげもあるだろう。

【成長タイプ:マニュアル】ではない山崎選手は自由にスキルを得られない。

 それがある意味プラスに働いた形だ。


 ただ、こうなると俺のこの打席は申告敬遠だろう。

 つまりノーアウト1塁3塁。

 ダブルスチールでホームを狙うのがいいか、それとも……。

 そこまで考えていた俺の予想に反して。

 ロシア代表は敬遠を申告することなく、俺はノーアウト3塁の状況で打席に立つことになったのだった。

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