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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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閑話67 禁じ手(ロシア代表監督視点)

「くそっ」


 私の悪態がベンチに響き、他のコーチングスタッフ達が顔を背ける。

 一方の選手達は全くの無反応。

 頭の中で何を考えているのかも全く分からず、ハッキリ言って気色が悪い。

 そういう風に徹底して教育されてきたのだろうが、趣味の悪いことだ。

 もっとも、私の仕事はあくまでも彼らを運用すること。

 その是非を問うことでも、人間らしくなるようにケアをすることでもない。

 益体もない同情心で手心を加えて敗北してしまったら、私自身の身が危うい。

 たとえ全員使い潰したとしても勝たなければならない。

 そして、使い潰すことを躊躇いさえしなければ容易に勝利することができる。

 私はそう思っていた。


 しかし、試合は4回の表が終わって5-7。

 我々ロシア代表が2点を追いかける形となってしまっている。

 アメリカ代表以外にこのような苦戦を強いられるとは、全く以って想定外だ。

 既に選手達には怪我のリスクを度外視し、人間の常識を遥かに超えた領域にまで足を踏み入れさせていると言うのに。


 ……改めて考えてみても、指示1つで全身全霊を捧げることのできるその精神性もまた異常極まりない。

 得体が知れない。理解できない。

 やはり余計なことを考えずに駒として見るべきだろう。


「あの、アレクセイは続投させますか?」

「いや、回跨ぎは壊れるリスクが高い。現状では失投を捉えられてしまうことが最大のリスクだ。次のピッチャーを準備させておけ」


 ヘッドコーチの問いかけに感情を抑えて答える。

 現状1人を除き、200km/h超の球を前に飛ばすことができていない。

 それにしたってホームランではない。

 つまり、失投さえなければ基本的には抑えることができるということだ。

 単に怪我を恐れて普段通りのバッティングができていないだけのことかもしれないが、結果として打つことができていないのならそれでいい。


「それよりも今は、あのピッチャーをどうにかする必要がある」

「ええ。ナックルを投げるという情報自体はありましたが、まさか150km/h近い球速になっている上に、それだけを全球投げてくるとは思いませんでした」


 改めて言葉にして並べると異常だ。

 生身の人間だったとしたら正直あり得ない。

 疑いを抱かざるを得ない。


「イタリアもそうだが、奴らも一線を越えたのか?」

「だとしたら、女性にだけ適用するのは不自然だと思いますが……」

「それはそうだが、派手にやり過ぎると疑われるというのもある」


 正に我が祖国のように。


 たとえ選手を尽く使い潰してしまったとしても勝利を優先しなければならない理由は、何も私自身の保身だけの話ではない。

 イタリア戦までであれば誤魔化しも効いたかもしれないが、フルスペックを世間に公開してしまった以上は優勝して全てを有耶無耶にする以外ない。

 だから、どんな手を使ってでも勝たなければならないのだ。

 勿論、没収試合にならない範囲での話だが。


 それはともかくとして。

 こちらの選手が試合中には問題とならないように、あちらも問題にはならない。

 実態がどうであれ、今は実力でどうにか打ち崩さなければならない。


「ダニールにはコンタクト重視で指示を出しましたが……」

「ああ。一先ずそれでいい」


 こちらの選手のスイングスピードは今やアメリカ代表を優に超えている。

 多少遅らせたところでパワーは大きく損なわれない。

 ギリギリまでナックルの揺れを見極めて振る。

 とにかく当てることだ。

 当たらなければ何も始まらない。

 しかし――。


 ――ブンッ!


 それでも当たらない。

 一旦球速のことは脇に置いて、純粋にナックルという変化球の変化の部分だけ見ても彼女のそれは規格外だった。

 世界の野球史においても恐らくあれだけの変化量を誇るナックルはない。

 屋外で尚且つ年間を通して湿度の高いテキサス州ヒューストンにあるアワーサーヴァント・フィールドということも少なからず影響しているのかもしれないが。


「三振……」


 この回先頭の6番バッター、ダニールは3球で空振り三振。

 ストライクのような軌道から外れたボール球が1球目。

 2球目はボール球のように見えてストライクゾーンに入ってきた球。

 最後はボールゾーンからそのままボール球で変化した球を振ってしまった。

 いいようにやられてしまっている。


 普通の変化球は球種が読めれば変化の大小はともかく変化の方向は読める。

 大きく変化しようがストライクになりそうもない球は振らなければいいだけだ。

 しかし、ランダムに揺れるナックルは……と言うよりも、変化が大き過ぎる上に速い彼女のナックルは予測を立てることができない。

 遺伝子すら弄って極限まで強化された動体視力を以ってしても。


「なら、もう予測を捨てるしかないか……」

「監督?」


 訝しげにヘッドコーチが私を見る。


「見て判断して追いかけようとするから追いつかない。当たらない。なら、コースにヤマを張って打ちに行くしかない。フルスイングで」

「運否天賦ということですか?」

「そう聞こえるかもしれないが、そうじゃない」


 ――ブンッ!


 7番のロスティスラーフのバットも空を切る。

 人外染みた領域にまで至ったフィジカルのみでゴリ押しすればどうにかなるという幻想は、もはや捨てなければならないのだろう。


「どういう訳かは知らないが、相手キャッチャーはナックルの軌道をある程度読んでいる節がある。なら、変化はランダムのようでコースはランダムじゃない」

「キャッチャーの思考パターンが反映される、ということですか」

「そうだ。こうまでナックル一辺倒で、こちらが手も足も出ないような状況が続けば調子に乗って配球が単純化するタイミングが必ず来る。そこを逃さずに狙う」


 勿論、100%でなくていい。

 安易な配球をしてくれるまで待つつもりはないし、そんな余裕もない。

 ネクストバッターズサークルにいる8番のヤロスラフにも、次の打席から全てこちらから振るタイミングもコースも全て指示する旨をブロックサインで伝える。

 その直後に7番のロスティスラーフもまた三振に倒れてしまって2アウト。


「とにかくタイミングを合わせてフルスイングだ」


 追いかけて無様なスイングをするよりも、その方が余程脅威となるはずだ。

 そうすれば相手キャッチャーにプレッシャーを与えることができるだろう。

 その積み重ねによって、思考の隙が生じる可能性を高めるのだ。

 だから――。


 ――ブォンッ!!

「空振りか……」


 この回3者連続三振となってしまったが、それは構わない。

 次回以降の得点に繋がりさえすればいい。


「一先ず守備だ」

「次は唯一全力投球を打ったシュウジロウ選手に回りますが、どうされますか?」

「申告敬遠でいい。とにかく打たせないことだ。ホームランの可能性を摘み取ることさえできればいい。その後は全力投球で抑えられる」


 5回表。あちらは2番バッターからの攻撃だった。

 こちらのピッチャーはアレクセイに代えて右ピッチャーのマクシム。

 対して、やはり200km/h超という凶器染みた球を前にして振りに行くことすらできなくなったようで、2番、3番と見逃しの三振に終わる。

 そしてバッターボックスに前の打席、長打を放っているシュウジロウが立とうとしたところで球審に合図を出して申告敬遠。

 2アウトランナー1塁となって5番打者を迎える。

 後はこいつを抑えれば、このイニングも0で終わることができる。

 そう思った直後の第1球。


「走ったっ!?」


 シュウジロウは初球から盗塁を仕かけてきた。

 マクシムが投じた球は220km/hのフォーシーム。

 キャッチャーのイサークの送球も同程度の速度を出せる。

 理論上のポップタイムからすると盗塁など不可能なレベルだ。

 しかし――。


「無理をするな!!」


 私が叫んだ時には既に事態は進んでいた。

 咄嗟に送球に入ろうとしたイサークだったが、そうしながら220km/hを正確に捕球することなどできようはずもなかった。

 鈍い音を鳴らしながらボールはミットから弾き出されてしまう。

 それでアナトリーに続いてイサークもまた腕を痛めたようだ。

 やや鈍い動きでボールを探し、バックネット近くまで転がっていたそれを追う。

 だが、ボールを掴んだ時には既にシュウジロウは3塁にまで到達していた。


「馬鹿が。バッターを抑えればそれで済む話だろうが」

「通常時の盗塁対応に従ってしまったようですね……」


 シートバッティングやシートノックでは全力投球は控えさせていたせいか。

 さすがに練習で壊れたら元も子もないからな。

 一応、全力投球時のケーススタディはしていたつもりだったが……。

 どうやら頭で分かっていても体が反応してしまったらしい。


 負傷してしまったイサークはタイムを取り、ベンチに戻ってくる。

 トレーナーの見立てでは打撲。

 骨に異常はないだろうとのことだが……。

 いずれにしてもキャッチングできるような状態ではない。


 キャッチャーをイサークからグレゴリーに交代させる。

 万が一に備えて野手には全員キャッチャーとして出場できるだけの技術を身につけさせているが、これ以上の消費は好ましくない。

 下手をすると試合の継続にも関わる。

 だから、とにかくバッター勝負を厳命してグレゴリーを送り出した。

 それでこのイニングは済む。

 5番を三振に切って取って3アウトチェンジ。

 そうなるはずだったが、2球目。


「何だ……?」


 どこか妙な気配を感じる。

 何かが起きそうな――。


「シュウジロウ……?」


 マクシムが投球動作を開始する。

 それを彼は3塁ベースの少し先から瞬き1つなく見据えていた。

 次の瞬間。


「ホームスチールッ!?」


 シュウジロウは走り出した。かのように見せかけた。

 右ピッチャーのマクシムは視界の端でそれに気づいてしまった。

 強化された動体視力のせいもあっただろう。

 精緻な動作で200km/h超を成り立たせていたフォームが僅かに崩れる。

 その小さなズレは、指先の感覚を大きく狂わせたようだった。

 ボールはアウトコースに大きく外れてしまい、グレゴリーはミットを伸ばして飛びついたものの届かなかった。

 その状況を受け、改めてシュウジロウが走り出す。

 200km/h超の球はフェンスに当たって大きく跳ね返った。

 それを捕球するまでの時間は、シュウジロウが本塁を陥れるには十分過ぎた。


「くっ」


 申告敬遠から直後のバッターの打席でヒットもなく、1失点。

 スコアは8-5。

 点差は3点に広がってしまった。

 結局のところ5番バッターは見逃し三振に終わって3アウトチェンジとなったものの、この点の取られ方は中々にダメージが大きい。


「シュウジロウ・ノムラ……」


 祖国の勝利には何よりもまず、こいつを潰さなければならない。

 どんな手段を取っても。

 たとえ怪我をさせてでも。

 そこまでの危機感を抱かせられた。


 勿論、現状脅威度という点ではミナミも同等。

 あるいはピッチャーである彼女の方が上ではあるだろう。

 だが、女を怪我させるのは事故に見せかけることができたとしても外聞が悪い。

 加えて、後続にまだ彼女以上のピッチャーが存在する可能性もある。


 そして、シュウジロウは間違いなくあちらの中核選手だ。

 精神的支柱となっている部分もあるだろう。

 彼がいなくなれば他の選手も連鎖的に崩れていく可能性が高い。

 ならば――。


 それは禁じ手以外の何ものでもない思考。

 しかし、その選択肢は私の脳裏から消え去ることなく……。

 時を追うごとに存在感を増していくばかりだった。

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あ、そいつ【怪我しない】んですよね
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