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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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335 坂道を転がり始める

 4回表。日本代表の攻撃。

 この回先頭の磐城君がライトライナーに倒れて1アウトランナーなしとなったところで、ロシア側から要求されたタイムが認められて試合が一旦とまった。

 それを確認してから、アナトリー選手が何やらベンチに向かって合図を出す。

 すると、トレーナーらしき男性がベンチの前に姿を現し、アナトリー選手とディミトリ選手のバッテリーは共にそちらへと歩き出した。


「……え、何? 怪我?」

「にしては2人共無表情過ぎるっすけど……」


 しばらくの間その光景に目を向けていた美海ちゃんはふと我に返ったように疑問を口にし、倉本さんもまた訝しげに首を傾げながら続いた。

 アナトリー選手もディミトリ選手も特に表情を苦痛に歪めたりするようなことはなく、ただ淡々とダグアウトに引っ込んでいく。

 怪我以外では意味の通らない行動ではあるものの、これだけではウラジミール選手の時と同様に何が起きているのか今一よく分からない。

 ディミトリ選手は左手を僅かに庇うように歩いていた気もしなくもないが……。

 ウラジミール選手の時とは違い、気のせいと言われれば否定できない程度だ。

 とにかくロシア代表選手は全員が全員、余りにもポーカーフェイス過ぎる。

 やはりそういう風に訓練されてきたのかと想像で同情してしまいそうだ。

 しかし、今回はさすがにウラジミール選手の時とは状況が色々異なっている。

 それを示すように。


『ロシア代表。アナトリー選手、ディミトリ選手。ベンチ内にて怪我の手当を行っています。しばらくお待ち下さい』


 ちょっと時間を置いて徐々にスタンドが騒然とし始めたところで、タイミングを見計らったようにそんなアナウンスが球場全体に流れた。


「怪我の手当、か」


 定型の言い回しに反して、応急処置で済むような生易しいものではないだろう。

 それでもピッチャー1人だけならしれっと交代することもできたかもしれない。

 だが、キャッチャーまで同時となると隠し切ることはできなかったようだ。


「ディミトリ選手は最後の1球、ウラジミール選手と同じように明らかにおかしくなったから分からなくもないけども、アナトリー選手は一体どうしたのかしら」

「まず間違いなくファウルチップのせい。さすがにアレはキャッチャーミットのポケットで正確に捕ることができないと手が死んじゃう」

「2球、バットに掠って軌道がズレてたっすからね……」


 美海ちゃんの問いに対し、あーちゃんと倉本さんが難しい顔で答える。

 普段からキャッチャーとしても試合に出ている身として尚のこと、その危険性を深刻なものとして捉えているようだ。

 勿論、それまでの負荷の蓄積もあってのことではあるだろうけれども。

 2回目のファウルチップに至っては、思い切り手で受けとめた音がしたからな。

 あれが決定打だったのは確実だ。


 真後ろに飛び、恐らく球速215km/hから減速していないファウルチップ。

 それがバッターのスイングで視界を狭められた挙句、僅かに軌道を変えてくる。

 たとえ超集中状態に入っていたとしても、的確に捕球するのは困難極まりない。


 俺だったら【怪我しない】ので多少手を抉られようと怪我には至らないが……。

 そんな超常的な力でもなければ、最低でも重度の打撲。骨折も当然あり得る。

 いずれにしても、それぐらいのダメージを負った状態で200km/h超の球を何ごともなく捕り続けることなどできようはずもない。

 4球目のスプリットを後ろに逸らしてしまった時点で、もう既にアナトリー選手はまともにキャッチングできる状態ではなかったに違いない。


『ロシア代表、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、ディミトリ選手に代わりまして、アレクセイ選手。背番号23』


 と、交代のアナウンスが球場に流れ始めた。

 まずはピッチャーから。そして――。


『キャッチャー、アナトリー選手に代わりましてイサーク選手。背番号77』


 案の定と言うべきか、彼もまた負傷交代となってしまった。

 この1打席でバッテリーが同時に退場してしまった形だ。


「僕のせい、かな」


 新たにグラウンドに出てきたイサーク選手に視線を向けながら呟く磐城君。

 ディミトリ選手の方は誰もが時間の問題だと思っていただろうが、アナトリー選手については磐城君の懸命なプレイの結果のようにも見えなくはない。

 しかし――。


「遅かれ早かれだろう。たまたまお前のとこで壊れただけだ」

「正樹の言う通りだ。磐城君のせいじゃない」


 俺達のフォローに、他の面々も頷いて同意している。

 200km/h超の球を捕球し続けていたアナトリー選手は、あのファウルチップがなくともいずれは怪我をしていたはずだ。


「そもそも、あんなピッチャーが自滅しかねないような球を投げさせてるロシア代表の首脳陣の方が悪い。磐城君が責任を感じる必要なんて1つもないよ」

「そうかな」

「ああ。間違いなく」


 磐城君が罪悪感を抱かないようにキッパリと断言する。

 変化球も含めて200km/hを超えるような球を100球以上、常に100%正確なキャッチングをし続けることなど不可能だ。

 集中力が持たない。

 どこかで大なり小なり怪我をしていた可能性が極めて高い。


「それより、磐城君こそ大丈夫か?」


 彼の腕に視線をやりながら問いかける。

 ファウルチップとは言え、直後のバッティングに明らかな影響が出る程の衝撃があったのはあのライトライナーからハッキリ見て取れた。


「まあ、うん。少し痛みは残ってるけど、問題ないよ」


 手をグーパーしながら答えた磐城君に、ホッと胸を撫で下ろす。

 勿論、ロシア側の選手だったら別に怪我をしていいなどとは決して思わないけれども、身近な人間が怪我をしてしまうのは輪をかけてキツい。

 スポーツにおいて怪我なんて誰もしないに越したことはない。

 そんなもので作られるドラマなんて創作の中だけで十分だ。


「……でも、やっぱりリスクが高いね。失投だけを狙ってく方がベターだと思う」

「うん。そうなるよな」


 磐城君の口からそう言って貰えて助かる。

 アスリートの本能は納得してくれないやり方かもしれない。

 けれども、さすがにロシア代表ピッチャーとのガチンコ勝負はリスキー過ぎる。

 ここは本能ではなく理性を働かせて踏みとどまるべき場面だ。

 それを明確に示すことができたのであれば、磐城君のこの打席も無駄ではない。


「大松君」

「分かってるって。俺にも失投だけを狙えってんだろ?」


 タイムとピッチャー交代の合間にネクストバッターズサークルから一旦ベンチの前まで戻ってきていた彼は、若干不満そうにしながら磐城君の言葉を繰り返した。

 ウラジミール選手にしても、ディミトリ選手にしても。

 200km/h超を投げてから交代まで10球以上投げている。

 となると、登板直後のイサーク選手が大松君の打席で失投するとは考えにくい。

 失投だけ狙えという指示は、彼からすると「凡退しろ」というのとほとんど同じ意味に聞こえたのかもしれない。

 とは言え――。


「あれだけの球だ。初球から壊れる可能性だってある。集中していけよ」

「そうだよ。僕みたいにミスショットしたくなければね」

「……分かってるサ」


 本当に納得してくれたかは怪しいところだが、言葉を重ねるには時間がない。

 そろそろアレクセイ選手の投球練習が終わりそうだ。

 大松君は話を切り上げてバッターボックスに向かってしまった。


「……あーちゃん」


 大丈夫かなと思いつつ、9番バッターである彼の後に続いてネクストバッターズサークルに向かう準備をしている彼女にも呼びかける。


「ん。わたしはちゃんと失投以外狙わない」


 すると、あーちゃんはそう素直に応じてくれた。

【以心伝心】でも文句はないのが伝わってくるので、こちらは一安心だ。

 バットを手にベンチを出る彼女を見送る。

 後はもう見守るしかない。


「しかし、相手ベンチ。これからも壊れるまで投げさせるつもりなんすかね」

「どうかしらね。でも、倫理的には勿論のこと、費用対効果を考えてもナンセンス過ぎるわよね。それって」


 美海ちゃんはロシア代表選手1人を育成するコストが高額である前提で言っているが、実態がどうかは分からない。

 本国には使い捨てにできるぐらいに存在している可能性もあるからな。


「とは言え、いつ怪我をするか正確なタイミングなんて分かりようないし……さすがにディミトリ選手の故障は想定外に早かったんじゃないか?」


 スキルの詳細説明を信じるなら今生の怪我は完全に確率の問題だ。

 1%でも怪我をする時はするし、99%でもしない時はしない。

 まあ、それは前世も結果だけを見れば同じことかもしれないが。

 それはともかくとして。

 たとえ事前に耐用試験をしていたとしても選手は機械部品ではなく生身の人間。

 目安にしかならない。


「多分、この回まで投げさせたら交代させるつもりだったんじゃないかな」


 そしてイニングの頭からアレクセイ選手を出す。

 その予定が大幅に狂ってしまったのがこの状況だと信じたいところだ。

 単に消耗品として使い潰したのではなく。


「結局、こんな半端なタイミングで登板させて回を跨いで続投させたりしたら、無駄な負荷がかかって負の連鎖に陥っちゃうんじゃないかしら」

「ディミトリ選手みたいに12球で壊れるとしたら、イニングの頭から投げたってその回の途中で壊れるかもしれないっすけどね」


 そんな状態でよく運用しようと踏み切ったものだと思ってしまうが、改めて考えると俺達が追い詰めてしまった結果のイレギュラーと見るべきか。

 本来はイタリア代表戦ぐらいで済ます想定だったのだろう。

 それならば多分、どうにか壊れずに済んだかもしれない。

 磐城君じゃないが、俺達のせいでロシア代表のこの世代が半壊しかねない。

 それでもロシア代表の優勝は防がなければならない。

 ロシアが世界の覇権を握ることになれば、今後も彼らの後継が同じように運用され続けることになるのは確実だから。

 そのためにも点差をもっと広げておきたいところだが……。


 大松君とあーちゃんには結局失投が来ず、連続三振で3アウトチェンジ。

 4回の表の日本代表の攻撃は0点に終わってスコアは7-5のまま。

 試合は4回の裏に移行したのだった。

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