第四幕:商人の正体
王は、ついに決断する。
単独で城を出る。
護衛はいない。
必要ないと判断した。
いや――正確には、護衛を連れて行く理由が消えていた。
兵士たちは皆、すでにあの場所を知っている。
キッチンカーは、昨日と同じ場所にあった。
城門の外。
まるで最初からそこが“世界の中心”だったかのように。
ジュウウウウ……
鉄板の音が響く。
煙はまっすぐ空へ上がっていく。
そこに戦の気配はない。
ただ、空腹だけがあった。
「お前は何者だ」
王の声は低い。
だが怒りではない。
理解できないものに触れた者の、静かな緊張だった。
男は振り返らない。
肉をひっくり返しながら言う。
「ただの料理人ですよ」
「料理人が、王都を崩すか」
男は少しだけ笑う。
「崩したんじゃないですよ」
「何?」
「選ばれただけです。皆、そっちを選んだ」
王の視線が鋭くなる。
「この技術はどこで学んだ!」
ようやく男は顔を上げる。
炎に照らされて、その表情は読めない。
「さあ……」
一拍置く。
「未来、かもしれませんね」
その瞬間。
王は理解する。
これは剣ではない。
これは策略でもない。
“選択そのもの”だ。
抵抗する余地のない、圧倒的な選好。
王は一歩、後退する。
「……国家は剣で滅びると思っていた」
男は静かに肉を皿に置く。
「剣は最後ですよ」
「じゃあ何で滅ぶ」
男は答えない。
ただ、サンチュを一枚置く。
その緑が、やけに鮮やかだった。
「まずは……味からです」




