第三幕:王都崩壊
翌日。
王都の空気は、すでに昨日とは違っていた。
城壁の外には長い列。
それは敵軍ではない。
だが、ある意味ではそれ以上に統制されていなかった。
「昨日のやつを……もう一度……」
「味噌多めで頼む……」
「サンチュ切らすなよ!」
兵士も、市民も、貴族の従者までもが並んでいる。
鎧の隙間から漂うのは鉄の匂いではなく、焼いた肉の香りだった。
王都の防衛線は崩れていない。
城門も落ちていない。
敵軍の姿もない。
それなのに――
王都の“機能”だけが静かに崩れていた。
兵士は持ち場を離れ、交代制は崩壊し、食糧庫の監視は空白になっていく。
理由は単純だった。
「うまい方に、人が流れている」
それだけだった。
王宮会議室。
重い扉が閉じられる。
「敵襲か?」
将軍の声は硬い。
「違います」
「疫病か?」
「違います」
「なら何だ!!」
空気が一瞬止まる。
報告官は、紙を握りつぶしながら言った。
「……民が、焼き肉に支配されています」
沈黙。
その言葉の意味を、誰も理解したくなかった。
「ふざけるな」
「食い物で国家が揺らぐものか!」
しかしその瞬間、別の兵士が口を開く。
「……昨夜、食べました」
視線が集まる。
「何を」
「その……サンチュ巻きの肉を」
「それで?」
兵士はうつむく。
「……戻れなくなりました」
空気が変わる。
敵は外にいない。
すでに内部にいる。
しかも武器も毒も使っていない。
“味覚”だけで侵食されている。




