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劣化コピーの召喚者ー追放から、積み重ねで最強になるー  作者: クロミ
四章 最前線

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9

 鉄狼団に入って、八ヶ月が経っていた。


 季節は二度変わった。


 最初はまともに持ち上がらなかった荷物も、今では息を乱さず運べる。剣を握る手には硬いマメができ、身体のあちこちに傷跡が増えていた。


 セナは朝、いつものように訓練場で剣を振っていた。


 一振り。


 もう一振り。


 振るたびに、自分の動きが少しずつ変わっているのがわかる。


 コピーした技術は増えた。


 でも最近は、ただ真似している感覚だけじゃなくなってきていた。


 自分の体に合う形へ、少しずつ噛み砕いては変化している。そんな感覚があった。



「セナー!」


 フィンの声が飛んできた。


 振り返ると、弓を肩に担いだフィンが倉庫の入口から手を振っている。


「団長が呼んでる」


「今行く」


 剣を収め、息を吐いた。朝の冷たい空気が肺に入った。




 倉庫の中央では団長が地図を広げ、周囲には鉄狼団の団員たちが集まっている。全員の顔が、少し硬かった。


「ドワルグから要請が来た」


 団長の指が、地図の北西を叩く。


 山岳地帯。ドワルグ山岳国。


「深淵の王の軍勢が山岳街道まで迫ってる。砦の守備兵だけじゃ足りんそうだ」


 空気が静かになる。


 深淵の王。


 最近、その名前を聞く頻度が増えていた。


 焼けた村


 流れてくる難民


 消えた街


 全部、その名前に繋がっている。


「危険度は高い。死ぬかもしれん」


 団長が全員を見渡す。


「覚悟のある奴だけ来い」


 最初に手を挙げたのはグラムだった。次にドルグ、フィン、バルド。セナも、迷わず手を挙げていた。


 団長は何も言わず、ただ小さく頷いた。




 山岳地帯へ入った瞬間、空気が変わった気がした。風が冷たく空が低い。道の脇には、焼けた村の跡が続いていた。


 崩れた家


 焦げた畑


 黒くなった井戸


 生活の跡だけが残っている。


 セナは馬の手綱を握りながら、その景色を見ていた。


 胸の奥が、少し重かった。


 途中、難民の列とすれちがう。子どもを抱えた女、老人を背負う若者、負傷した兵士。その誰もが口を固く結んでいる。何かを堪えるように、ただ下を向いて歩いている。


「ローエンが落ちてから増えた」


 隣を歩いていたフィンが小さく言った。


「深淵の王の軍勢は、通った場所を全部焼く」


 セナは何も言わない、言葉が出なかった。これが戦争なのか、とだけ思った。




 ドワルグの山岳砦は、切り立った崖の上にあった。


 巨大な石の要塞。


 城壁には無数の傷が走り、矢が刺さったまま残っている。


 門をくぐると、疲れ切った顔のドワーフ兵士たちが迎えた。その鎧は傷だらけそして目の下には濃い隈。それでも誰も弱音を吐いていなかった。




 出迎えた兵士長は、小柄なドワーフだった。だが眼光だけは鋭い。


「来てくれたか…助かる」


 兵士長は歩きながら説明を始めた。


「三日前に第三砦が落ちた」


「敵の数は」


「魔物二百以上。人間兵も混ざってる」


 団長が地図を見る。


「指揮官は?」


「いる。かなり厄介だ」


 セナは城壁へ上がり、西の方角を見た。


 山の向こうの空が赤かった。炎を雲に写したような色だった。




 到着した日の夜、砦の中を歩いているとどこからか子どもの泣き声が聞こえた。石造りの建物は音が良く響く。遠くに見える窓から小さな灯りが漏れている。


「あそこは?」


 近くの兵士へ聞く。


「避難民だ。逃げ遅れた連中を収容してる」


 兵士は疲れた顔で笑った。


「老人と子どもばっかだ」


 セナはその建物をしばらく見つめる。泣き声が、まだ聞こえていた。

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