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劣化コピーの召喚者ー追放から、積み重ねで最強になるー  作者: クロミ
第三章 傭兵の国

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8

 鉄狼団での日々は、過酷だった。朝は掃除、それが終われば荷運び、炊事、昼からは訓練。夕方は依頼同行。夜は焚き火の番。


 毎日全身が痛かった。それでも、不思議と嫌ではなかった。




 フィンは毎朝、裏庭で弓を引いていた。セナはその隣に座る。


 呼吸を見る。


 肩の力の抜き方を見る。


 指先の角度を見る。


 そして実践、最初は弦すらまともに引けなかったが、それでも毎日続けた。十日後、初めて矢が的の端を掠めた。


 フィンが片眉を上げた。


「やっと飛んだな」


「落ちなかっただけです」


「最初はそんなもんだ」


 それだけだった。でも、少し嬉しかった。




 ドワーフの重戦士――グラムは、壁みたいな男だった。


 何をぶつけても動かない。


 セナは真正面から突っ込んで、何度も吹き飛ばされた。


 四回目。


 地面に転がったセナへ、グラムが初めて口を開く。


「足の裏全体で立て」


「……全体?」


「指先で踏むな。地面を掴め」


 それだけだった。


 翌日から、セナの踏み込みが少し変わった。




 古参傭兵のバルドの剣には型がなかった。


 右へ来ると思えば左。


 上段だと思えば足元。


 セナは何度コピーしても再現できなかった。


 一週間悩んで、ようやく気づく。真似るべきは剣筋じゃない。“相手を見る目”だ。


 そこから、セナは戦闘中に相手の重心を見るようになった。




 オークのドルグは無口だった。


 毎回、一撃で吹き飛ばされる。だが吹き飛ばされながら、セナは考えていた。


 なんでこんなに重い?筋力だけじゃない。全身を、一点へ乗せている。夜になると、セナは一人で壁に向かってその感覚を試した。




 コピーの精度は、まだ低かった。でも数が増えていた。種類が増えていた。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 体の中に積み上がっていく。




 ある日の依頼帰り、魔物の群れと遭遇した。


 セナは前へ出る。


 グラムの踏ん張り。フィンの呼吸。バルドの視線。ドルグの体重移動。全部を同時に使った。それは狙ったわけじゃない、体が勝手に動いた。


 魔物が吹き飛んだ。


 セナは自分の手を見た。


 今のは、今までと違った。




 夜焚き火の番をしていると、団長が隣へ座った。


「セナ」


「はい」


「お前、変わったな」


「そうですか」


「最初はただ真似してただけだった」


 団長は火を見つめる。


「今は、自分で考えてる動いてる」


 セナは少し黙った。


 そうかもしれない、と思った。ただコピーするだけじゃ足りない。少しずつ、自分の解釈で噛み砕き始めていた。




「明日から雑用半分でいい」


 団長が言う。


「訓練時間を増やせ」


 セナは顔を上げた。


「ありがとうございます」


 団長は何も言わず、焚き火を見つめていた。


 その横顔を見ながら、セナは思った。


 ここへ来てよかった、と。




 それから数ヶ月、セナはさらに強くなっていった。


 訓練


 依頼


 実戦


 コピー


 失敗


 積み重ね


 その全部が、少しずつ繋がり始めていた。




 そしてある日、団長が地図を広げて団員に言った。


「ドワルグから要請が来た」


 部屋の空気が変わる。


「深淵の王の軍勢が山岳街道へ迫っている」


 静寂…


 団長が全員を見渡した。


「死ぬかもしれん。それでも行く覚悟のある奴だけ来い」


 最初に手を挙げたのは古参剣士。、次にグラム、ドルグ、フィンと続いてセナも手を挙げた。


 団長は何も言わず、名簿へ名前を書き込んだ。




 『深淵の王』


 その名前が、以前より少しだけ近く感じた。遠い噂じゃない。


 焼けた村


 難民


 失われた国


 その全部の先にいる存在を想い、セナは無意識に拳を握った。




 翌朝、鉄狼団は山岳地帯へ向けて出発した。

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