8
鉄狼団での日々は、過酷だった。朝は掃除、それが終われば荷運び、炊事、昼からは訓練。夕方は依頼同行。夜は焚き火の番。
毎日全身が痛かった。それでも、不思議と嫌ではなかった。
フィンは毎朝、裏庭で弓を引いていた。セナはその隣に座る。
呼吸を見る。
肩の力の抜き方を見る。
指先の角度を見る。
そして実践、最初は弦すらまともに引けなかったが、それでも毎日続けた。十日後、初めて矢が的の端を掠めた。
フィンが片眉を上げた。
「やっと飛んだな」
「落ちなかっただけです」
「最初はそんなもんだ」
それだけだった。でも、少し嬉しかった。
ドワーフの重戦士――グラムは、壁みたいな男だった。
何をぶつけても動かない。
セナは真正面から突っ込んで、何度も吹き飛ばされた。
四回目。
地面に転がったセナへ、グラムが初めて口を開く。
「足の裏全体で立て」
「……全体?」
「指先で踏むな。地面を掴め」
それだけだった。
翌日から、セナの踏み込みが少し変わった。
古参傭兵のバルドの剣には型がなかった。
右へ来ると思えば左。
上段だと思えば足元。
セナは何度コピーしても再現できなかった。
一週間悩んで、ようやく気づく。真似るべきは剣筋じゃない。“相手を見る目”だ。
そこから、セナは戦闘中に相手の重心を見るようになった。
オークのドルグは無口だった。
毎回、一撃で吹き飛ばされる。だが吹き飛ばされながら、セナは考えていた。
なんでこんなに重い?筋力だけじゃない。全身を、一点へ乗せている。夜になると、セナは一人で壁に向かってその感覚を試した。
コピーの精度は、まだ低かった。でも数が増えていた。種類が増えていた。
少しずつ。
本当に少しずつ。
体の中に積み上がっていく。
ある日の依頼帰り、魔物の群れと遭遇した。
セナは前へ出る。
グラムの踏ん張り。フィンの呼吸。バルドの視線。ドルグの体重移動。全部を同時に使った。それは狙ったわけじゃない、体が勝手に動いた。
魔物が吹き飛んだ。
セナは自分の手を見た。
今のは、今までと違った。
夜焚き火の番をしていると、団長が隣へ座った。
「セナ」
「はい」
「お前、変わったな」
「そうですか」
「最初はただ真似してただけだった」
団長は火を見つめる。
「今は、自分で考えてる動いてる」
セナは少し黙った。
そうかもしれない、と思った。ただコピーするだけじゃ足りない。少しずつ、自分の解釈で噛み砕き始めていた。
「明日から雑用半分でいい」
団長が言う。
「訓練時間を増やせ」
セナは顔を上げた。
「ありがとうございます」
団長は何も言わず、焚き火を見つめていた。
その横顔を見ながら、セナは思った。
ここへ来てよかった、と。
それから数ヶ月、セナはさらに強くなっていった。
訓練
依頼
実戦
コピー
失敗
積み重ね
その全部が、少しずつ繋がり始めていた。
そしてある日、団長が地図を広げて団員に言った。
「ドワルグから要請が来た」
部屋の空気が変わる。
「深淵の王の軍勢が山岳街道へ迫っている」
静寂…
団長が全員を見渡した。
「死ぬかもしれん。それでも行く覚悟のある奴だけ来い」
最初に手を挙げたのは古参剣士。、次にグラム、ドルグ、フィンと続いてセナも手を挙げた。
団長は何も言わず、名簿へ名前を書き込んだ。
『深淵の王』
その名前が、以前より少しだけ近く感じた。遠い噂じゃない。
焼けた村
難民
失われた国
その全部の先にいる存在を想い、セナは無意識に拳を握った。
翌朝、鉄狼団は山岳地帯へ向けて出発した。
お読みくださりありがとうございます!
「面白そう!」
「もっと読みたい!」
「応援してるよ!」
と少しでも思ってくれたら↓の★★★★★を押して応援していただけると嬉しいです!
ブックマークもお願いします!
あなたの応援が、更新の原動力になります!
よろしくお願いします!




