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劣化コピーの召喚者ー追放から、積み重ねで最強になるー  作者: クロミ
四章 最前線

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 夜明け前に斥候が戻ってきた。


「来ます!」


 砦の空気が一気に張り詰める。


 兵士が慌ただしく走り回り、怒号が響く。あちらから武器を掴む音や鎧の擦れる音が聞こえている。セナもゆっくりと剣を抜いた。




 夜明けと同時に、敵が押し寄せてきた。それは黒い波のようだった。


 狼のような魔物


 人型の兵士


 翼のある怪物


 それが大地や空を埋めるように次々と押し寄せてくる。


「構えろ!」


 兵士長の怒鳴り声。


 合図と共に矢が放たれ、魔法が飛ぶ。


 戦いが始まった。




 兵士とともに前線にいたセナは、最初の一撃で吹き飛ばされた。


 四足の魔物の突進。重く、速い。


 体の痛みを無視して、すぐに立つ。考える前に体が動く。


 グラムの踏ん張り


 バルドの視線


 フィンの呼吸


 コピーした技術が、何度も繰り返した動きが、身体の中で噛み合い始める。


 剣を振り、斬る。攻撃を躱し、また前へ出る。ただただ延々とそれを繰り返した。



 第一波が終わった頃には、城壁の上に何人も倒れていた。ドワーフ兵が息を切らしながら壁へ背を預けている。セナも肩で息をしていた。腕が痺れている。でも、まだ動けた。




 そのとき。避難民の建物の扉が少し開いた。そこから小さな女の子が、顔を覗かせていた。五歳くらいだろうか。


 セナと目が合うとすぐ扉の奥へ隠れた。


 でも、少しだけ開いた隙間からは小さな目がまだこちらを見ていた。セナは、その扉から目を離せなかった。




「第二波来るぞ!」


 静寂を破る見張りの声に、セナは剣を握り直した。




 第二波は、第一波より酷かった。城壁の一部が崩され、魔物が内部へ雪崩れ込んでくる。

 砦の中で戦闘が始まった。狭い砦のなかが、怒鳴り声や悲鳴、爆発音で満たされ、そこら中から血の匂いがしていた。



 その中でふと視界の端を横切る影。三体の魔物が、避難民の建物へ向かっている。何かを考える前に、足が動いていた。



 魔物とほぼ同時に扉へたどり着いたセナは、一体目へ斬りかかる。だが弾かれ、衝撃で吹き飛ばされ、石畳へ叩きつけられた。痛みと衝撃で息が詰まる。


 それでも立ち上がり、扉と魔物の間に体を滑り込ませた。二体目が来る。今度は真正面から受けず横へ流す。何度もみて、繰り返した足遣い、体重移動…そして全身の力を一撃へ乗せる。


 重い一撃が入った。魔物が怯む。


 三体目が飛びかかった瞬間、セナは魔力を動かした。


 火と風、二つを同時に発動する。


 爆発


 熱風で魔物が吹き飛ぶ。




 振り返ると扉の隙間からあの女の子が、まだ見ていた。先程よりも怯えた目だった。セナは視線を遮るようにただ、扉の前へ立った。

 それからも次々と敵が来る。向かって来る魔物を斬る、弾かれ叩きつけられても立つ。また前へ出る。何度も、何度でも魔物達の前に立った。


 腕が重い


 息が苦しい


 全身が痛い


 それでも足だけは止まらなかった。あの扉を、開けさせたくなかった。

 ただ、それだけだった。




 ようやく第二波が終わった頃には、セナは地面に座り込んでいた。もう立ち上がる気力がない。呼吸するだけで肋骨が痛む。


 そのとき、扉が開いた。


 あの女の子がおそるおそる出てくる。その小さな手で、パンを差し出してきた。セナは少しだけ目を見開いた。


「……くれるのか」


 女の子は黙って頷いた。


「ありがとう」


 セナが受け取ると、女の子は足早に扉の中へ戻っていった。


 セナはパンを見つめた。硬い、冷たいパン。なぜか少しだけ、胸が熱かった。




 襲撃があった日の夕方、兵士長が近づいて来ると唐突に声をかけられた。


「助かった」


 セナは首を横に振る。


「俺がやりたくてやっただけです」


 セナの返事に、兵士長は少しだけ笑った。


「そうか」




 その夜、城壁の上でセナは西の空を見ていた。


 山の奥、その空はまだ赤い。深淵の王の軍勢がいる方角だ。あの山のむこうに、何がいるのか。彼らはどんな存在なのか。


 セナはまだ知らない。でも、自分の中で何かが変わったのはわかった。強くなりたい。生き残りたい。でもそれだけじゃない、守りたいとそう思った。



 風が城壁の上を吹き抜ける、冷たい山の風だった。肌寒く感じ、1度自分を抱きしめる。それからセナはまた空を見上げた。そこには星が瞬いていた。

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