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劣化コピーの召喚者ー追放から、積み重ねで最強になるー  作者: クロミ
聖王国と闇

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13

 セルヴィアから戻って二週間後の夜、団長が珍しく小さな地図を机に広げ3人だけが呼ばれた。


「偵察依頼だ。少人数で動く」


 地図の中央に指が置かれる。アビス帝国の国境線。その手前に広がる灰色の地帯。旧ヴェルディア王国跡地。セナはその名前を見た瞬間、胸の奥がわずかに重くなるのを感じた。


「敵軍の動きを探る。三人で行け。見つかるな」


 団長が視線を上げる。


「セナ、フィン、バルド」


 古参傭兵のバルドは壁際に腕を組んだまま、短く頷いた。四十代半ば。無口で、鉄狼団の中でも索敵能力は群を抜いていた。


「いつ出発ですか」とセナが聞く。


「明朝だ」


 短い返答だった。だが部屋を出るとき、団長が小さく付け加えた。


「……あそこは空気が違う。気を抜くな」


 セナは黙って頷いた。




 少人数で目立たぬように野営を繰り返し、国境を超えた。廃墟地帯に足を踏み入れた瞬間、世界の音が消えたような感覚に陥った。

 風がない。鳥の声も、虫の羽音もない。ただ、崩れた石造りの建物だけが、どこまでも続いていた。草が石畳を割り、壁を飲み込んでいる。傾いたままの城門跡に割れた井戸、崩れた市場跡。

 かつてここには国があった。人々が暮らしていた。朝になればそこかしこから朝食の匂いがたちこめ、店を開ける人間がいて、子どもが走り回って、誰かが笑っていた。それが今は、草と石だけになっている。

 セナは足を止め、崩れた建物の窓枠を見上げた。目の前にある風景なのに、妙に現実感がなかった。


「静かすぎる」


 フィンが声を潜める。


 バルドが低く答えた。


「巡回がいる。北に三人。東に二人。間隔は一定だ」


 言葉が終わる前に、バルドはもう歩き始めていた。


 三人は巡回の隙間を縫うように、廃墟の奥へ進んだ。



 巡回兵をうまく避けて中央付近を目指す。旧王城跡は、廃墟の中心にあった。四方の壁は崩れ、屋根は完全に落ちていた。それでも土台だけは残っていて、かつての規模だけはわかる。


 セナは王城前の広場の中央を見た。石畳の一角だけが黒く焼けている。妙にそこだけ色が違った。

 処刑台。理由もなく、そう思った。


「地下を探す」


 セナが言うと、フィンが眉を上げた。


「何かわかるのか?」


「……わからない。でも、何か残ってる気がする」


 フィンは数秒セナを見て、それ以上は聞かなかった。


 バルドが周囲を警戒し、フィンが見張りに立つ。セナは瓦礫をどかしながら地下への入口を探した。

 北側の壁際。崩れた石の下から、半分埋もれた石段が現れた。


「見つけた」


 狭い石段を、セナはゆっくり降りていった。



 地下室は思ったより広かった。空気が冷たい。壁には古い松明の跡が残っていた。棚らしきものは腐り落ち、木片が床に散乱している。

 魔法灯りを掲げながら奥へ進むと、石壁に直接文字が刻まれた一角があった。


 セナは灯りを近づける。



『ヴェルディア王国 王室秘録 第十二代書記官 記す』


『大陸暦四三二年より四三三年にかけて、我が国は周辺五カ国の侵略を受けた』


『ガルド、セルヴィア、ドワルグ、ローエン、アルバンの連合軍、総勢二万』


『対するヴェルディアの兵は三千に満たなかった』


『絶望した王は、禁じられた召喚の儀式を執り行った』


『異世界より、一人の若者が現れた』


『若者は弱かった。鑑定では有用なスキルはなく能力も最低の数値しか出なかった』


『しかし王の命に従い、単身で戦場に立った』



 セナの呼吸が止まりそうになった。


 最低の数値。


 その言葉が、自分に重なった。


 続きを読む。



『半年の間、若者は戦い続けた』


『五カ国の将を打ち破り、連合軍を撤退させた』


『ヴェルディアは救われた』


『戦争終結から三ヶ月後、王族と主要貴族による密議が開かれた』


『議題は一つ。勇者の処遇について』


『彼らは言った。強くなりすぎた。もはや制御できない』


『放置すれば、いつか我々に刃を向ける、と』


『密議の結論は、排除だった』


『罪状は国家転覆の陰謀』


『証拠は存在しなかった』


『それでも王族は民衆に触れを出し、勇者を逆賊と呼んだ』


『処刑の日、広場は民衆で埋め尽くされた』


『救った国の民が、石を投げた』



 セナは壁から目を逸らした。胸の奥に、言葉にならないものが渦巻いている。怒りに近い、でも怒りだけじゃない。悲しみに近い。でも、それでも足りない。


 石を投げた。


 救われた側が。


 セナは灯りを持ったまま、その場から動けなかった。


 もし自分だったら。そこまで考えて、やめた。それ以上は考えたくなかった。

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