最強のはずが介護扱い
おっさんのいる酒場まで戻ってきた。
「…もう終わったのか?」
怪訝な顔で俺たちを見るおっさん。
そのおっさんが俺から袋を受け取り中身を確認する。
「この本数を見るに依頼されていた数より多いな…まさかあんた達2人でやったのか?」
ミーナとユリを見る男。俺がやったとは微塵も思わないらしい。
「いや…そっちの人が」
俺を指さすユリ。
その指の先を追って俺に目をやるおっさん。
「辞めろ。男の視線は気持ち悪い。そうジロジロ見るな」
「馬鹿な。嬢ちゃんたちこいつのためにならないからこんな介護は辞めてくれ。ランクだけ上がった全属性なんて周囲からの目も酷いぞ」
「いえ、だから本当にシェルが…この人がやったんです」
ミーナまでそう言うと一応は俺に聞いてみる気になったのか男が口を開く。
「全属性お前が本当にやったのか?」
「だとしたらどうなんだよ。レベルでも上げてくれんのか?」
「…1つ依頼を受けてくれないか?その結果次第では次のレベルへの昇級試験をギルドに取り付ける」
「依頼?」
「あぁ。依頼だ。ここに荷物を運ぶ荷車の通り道にヒュノールという魔物がいる。それを討伐して欲しい」
「あぁ、構わないぜ」
「…少し難易度が高いが本当に大丈夫か?」
「問題ない。俺を誰と心得ている」
「…知らないが頼めるならその嬢ちゃん達の名前で契約してくれ。全属性が契約したとなれば依頼者が嫌がるのでな」
何故そこまで嫌われているのだ全属性。
しかし言っても仕方ない。今回はユリが契約してくれた。
「期限は一週間後までだ。入念に準備して行けよ」
「わぁったよ。それとおっさん俺の名前はシェルヴィ、シェルとでも呼んでくれ」
「シェルだな。俺はハリバン。この酒場の店主をしている」
そう言って奥へ引っ込むハリバン。
「さてと…向かいますか」
「もう行くの?」
「当たり前だ。他のやつに討伐されたらどうする。折角の昇格試験無駄にはしない」
「でも準備して行けって…」
「そんなものいらん。俺の前ではどんな魔物もモンスターも一撃で沈むのだからアイテムも装備もいらん」
「一撃…」
そう呟くミーナ。
「一撃だ」
「お姉ちゃん行こ?」
俺の腕に抱きついてきたユリ。
「え、えぇ」
ミーナも頷いて俺の横に並んだ。
そうして来たのは谷を渡るために作られた橋。
ここにヒュノールとかいう魔物が出るらしいが。
「あれのことか…?」
向こう側にガクガクと震えている白色のトカゲのような生物がいた。
トカゲの体に鳥のような羽根が生えていた。
「見た目はあれですけど」
ミーナも自信なさげに教えてくれる。
「とりあえず近付くか」
大股で魔物に近付く。
「ギェッ…ギェッ…」
妙な鳴き声を上げる魔物。
俺を見上げて目を震わせている。
「俺を前に絶望しているのか?」
だとしたらトカゲの癖に中々賢いやつだ。
「しかしだからといって見逃す訳にはいかん。我が刃の錆になるがいい」
そう口にして魔法を使う。風魔法。
それで奴の体を切り刻んだ。
無数の刃で切り裂かれたかのようにその場で倒れる魔物。
「どれを持って帰るべきか…」
面倒くさくなってきた。風魔法でその巨体を持ち上げるとそのまま運ぶ。
「帰ろうぜ」
2人を見ると相変わらず不思議そうな顔をしている。
「…お姉ちゃん?」
「…魔王様って本当にぶっ飛んでるんですね…」
俺がぶっ飛んでいる訳では無いと思うが
「何処がだ」
「全部です」
「よっと」
村の広場にドサッと魔物の死体を置いた。
俺たちよりもでかいその魔物。
常人ならば運ぶだけでも辛いだろう。
これも魔法の素晴らしさだ。
「…もうやったってのか?」
ハリバンが今の音を聞き付けてか酒場から出てきた。
「あぁ。見て分からんのかやってやったぞ」
「信じられん…」
魔物の体をあちこち眺める男。
「本物なの…かこれ?」
「偽物を用意してどうする」
「用意できれば昇格試験を受けられるだろう?」
「用意して掴んだ昇格試験に受かるのか?」
「…それは…しかし…」
魔物から目を離し俺を見るハリバン。
「分かった。俺も男だ。試験の話を取り付けよう。だが嬢ちゃん達…ほんとに介護じゃないんだな?試験はきちんと監視されているから不正は出来ないぞ?」
それを聞いて首を横に振る2人。
「くどいぞ。試験の件頼んだぜ」
「あぁ…任せてくれ。それと魔物の肉だがこちらで買取ってもいいか?」
「あぁ。好きにしてくれ」
俺に皮袋を投げ渡して去っていくハリバン。
中にはコインが入っていた。依頼分プラス肉の分か。
「これで服代は足りるだろ」
そう口にして袋をミーナに渡す。
「足りるどころか…多いですよ」
「いいから取っとけ。俺には必要ないものだ。それに俺はこれから結構長い間世話になる予定だ。飯代だとでも思ってくれ」
「分かりました」
「お姉ちゃん重役だね」
クスッと笑うユリ。
「ユリも作るんだろ?他人事だと思うなよ」
「え?私?…私はちょっと…」
「料理苦手なのか?」
「う、うん…」
恥ずかしそうに俯くユリ。
「でもせっかくだしシェルに料理してあげてはどうですか?」
「え、いいのかなぁ?」
「いいに決まっているだろ」
そう答えておく。
ミーナの料理も口にしてみたいがユリのも食べてみたいところだ。
「でも…美味しくないと思うよ?」
「美味いか不味いかではない。気持ちが篭もっているかどうかだ」
「そうかな?」
「そうだ」
「なら作ってみようかな」
「楽しみにしている」
という訳で彼女の料理が出来上がるのを待っていた。
「待たせたかな?」
そう言いながら料理を持ってくるユリ。
「中々いいじゃないか」
「上手くできたかは…分からないけど食べてくれたら嬉しい」
顔を伏せて目だけを俺に向けてくるユリ。
その頬は赤く染っていた。
「気持ちは込めたか?」
「込めたよ」
恥ずかしそうにそう言ってくれるユリ。
「なら問題ないだろう」
そう言いその謎の物体に手を伸ばし口に入れた。
「…辛すぎだろ…」
初めに出た感想はそれだった。
「ごめん。辛い?」
「辛すぎる…何入れたんだこれ…」
「味濃くしたほうが美味しいかなって香辛料沢山入れちゃった」
水を飲んで何とか落ち着く
「俺はそういう味付けは嫌いじゃないが殺人的な辛さだったな。俺じゃなきゃ死んでいたところだ」
「そんなに?ごめん…」
しゅんと落ち込んで謝るユリ。
「謝るな。お前のその顔が台無しだ」
そう言って頭を撫でる。
「前を向け。辛くはあったがそれだけだ次頑張ればいい話だろう?」
「ん、ありがとう」
答えて俺の右腕に手を絡ませてくるユリ。
「何だか…こうしてると安心する」
「かつて魔王だった男の包容力というやつだ」
「あの軍勢をまとめてたのがシェルなんだよね?やっぱりすごいね」
「当然のことだ。当代の魔王は当然のようにこなせないらしいが」
やはり俺以外の魔王はダメだという事だ。
「応援してるから…また魔王になること」
「そりゃ有難いな。いつになるかは分からないがずっと隣で応援していてくれ」
「うん」
顔を腕に押し付けながらそう答えるユリだった。




