魔王様の力
「何もいねぇ」
「いるにはいるんですけどね…」
「あんな塵はいないのと同じだ」
俺が草原を踏んだ瞬間そこにいた生物が全て隠れてしまった。
しかしそんなことをするのは全て塵だ。いないのと同じ。大した問題ではない。
それよりも
「あのトカゲ野郎…」
ホワイトドラゴンがいないのだ。
「他のモンスターがあの様子なら…隠れて出てこなさそうだけど」
「俺を前にして絶望するのは仕方ないことだ。しかし俺に狩られないとは無礼な奴だ」
「とりあえず1度戻らない?」
そうだな。俺としたことが、闇雲に探しても仕方ないところだ。
「戻ろうか。その前に」
適当に魔法を使い周囲にいた魔物を狩ってから言われた通り牙と爪を剥ぎ取ると自分の手の中に集める。
「え…なにこれ…何が起きたの?」
それを見てユリが呟いた。
「ただ魔物を倒して素材を回収しただけだが?普通だろ」
「いや、普通じゃないですよ。少なくともここまで出来るのはこの辺りじゃ見たことないです」
「それは本当か?情けない。情けなさすぎるぞ…そこまで我が魔王軍は落ちぶれてしまったのか?」
なぁとミーナの肩を掴む。
「だから…シェルが凄すぎるんですって」
「まだこの程度序の口だぞ。だから練習すれば誰でも出来るものだ」
「本当ですか?」
「あぁ。練習すればミーナにだってできる」
俺は練習しなかったがこんなもの誰でも出来る。結界魔法などの高位の魔法を使えと言っている訳では無い。誰だって似たようなことは出来るものだ。
「ならまた今度教えてくださいね?」
「あぁ。いいよ」
「お姉ちゃんだけずるい」
「ユリにも教えるから安心しろって。その前にとりあえず戻ろうぜ」
「そうだね」
そろそろ昼だしトカゲはいないし無暗に歩き回っても無駄だ。
「おいおいあんた正気か?全属性扱えるなんて」
全属性使いへの評価は相変わらず厳しいものらしい。
「正気だ。俺は全属性扱える。だから仕事をくれ」
カウンターに依頼の書かれた紙を持ってきたがこの通りだ。
「今どき全属性なんて…なぁ…どれも半端で失敗されても困るんだよ」
確かに全属性使えるからこそあれやこれやと手を出して中途半端に終わる奴らはかなりの数いた。それならどれか1つを極めた方がいいという意見もわかる。だが
「安心してくれ。絶対成功させるから」
「…あんたみたいな奴ってそう言うんだよ。クシナ様がいなくなってから全属性使いの評価は地に落ちたよ。結局あの人の印象が強すぎて全属性の評価は上がっていたがそれだけだ。いなくなればこの通り。あの方に気を使う必要もなくなり正当な評価を下されただけ。ド底辺の属性だってな」
たしかに依頼の備考欄には全属性使いは遠慮願いたいとのことが書かれていた。
「この狩猟レベルとやらを上げるために依頼をこなさなくちゃならないんだろ?それ上げる為にも受けたいんだよ」
「とは言われてもな、言っておくがなこの先どんどん全属性使いの評価は下がるぞ。足洗っちまえ」
今カチンと来た。
おいおい魔族の時代を築いた本人に言う言葉がそれか愚民。
「…シェル…その手を下ろして」
「恨まんでくれ。それが全属性使いの評価って事だからよ」
「はぁ…」
まさか全属性使いの評価がここまで下がることがあるとは思わなかった。
きちんと使えばどう考えても最強なのだがな。
それが出来ない奴が多いということでもあるが実に嘆かわしい。
俺がいない間に烏合の衆になってしまったようだ。
「なぁおっさん」
「どうしたんだ」
「狩猟レベルを上げるのはこうやってコツコツ上げるしかないのか?」
「ないぞ」
「勘弁してくれ」
一体俺は何時になればホワイトドラゴンを狩れるのだ。
「でも、今からホワイトドラゴンを探してここに首持ってきたら流石にレベル上がるだろ?」
「上がるだろうがどうやって獲物を探すつもりだ?神出鬼没だぞあれは」
「住処を教えてくれ」
「条件を満たせていない奴にはよっぽどの事がないと教えられないルールでな。悪いがコツコツ頑張るか足を洗ってくれ」
誰にものを言ってやがる…
俺は最強の魔王だぞ。
「…まぁいい。そのうちチャンスも来るだろう…ははは…ふははは…」
笑い声にも力が入らない。
「泣いていいか?」
「外で泣くんだな」
「俺は最強だもん…」
公園の芝生に座ってぶちぶち雑草を抜く。
「それは分かるけど…でも大変だよねあそこまで断られたら」
横に座るユリとミーナ。
「はぁぁぁぁぁぁ…」
それもこれもあの時全属性で登録した俺が馬鹿だった。修正は効かないらしいし困ったものだ。
しかし今名案が浮かんだ。
「そうだ。お前らが依頼受けてくれないか。それに俺が同行する。これなら問題あるまい」
そう言うと顔を見合わせる姉妹。
「それいいかも…」
「その手がありましたね」
これなら…成果を上げられれば俺のレベルも上がるはずだ。
「早く行こうぜ」
そうと決まれば善は急ぐしかない。
「きゃっ…」
2人の手を引いて駆け出す。
「また来たのか…今度はなんだ」
「俺じゃねぇ。この2人が契約するんだよ。それに同行するなら問題なかろう」
「確かに…ないが」
「よし、早く契約してくれミーナ。依頼を取られちまう」
俺にとってこの依頼も命懸けだ。何時までもぐーたらして2人に食わせてもらう訳にも行かないし。
「分かりましたよ。お待ちくださいね」
そう言って必要な手続きを始めた彼女。
それが終わると3人でまた外に出た。
見渡す限りの草原。
「ゴブリンが増えすぎて作物に被害を与えてるので減らしてくださいって依頼ですね」
「分かったよ」
魔法を行使する。
瞬間俺の手に集まる数十本程の牙
「終わった」
「…」
「…今、何て?」
ポカンと口を開けるミーナと怪訝な顔で俺の顔を見るユリ。
「ここら一帯にいた目障りなゴブリンを始末したと言った」
それをユリの持っていた袋に入れる。
「今の一瞬でですか?私内容を読み上げてる途中だったと思いますけど…」
「何をそんなに見てるんだ?」
2人で顔を見合わせている。
「…」
「あの…普通この依頼をやろうと思えばそれなりに時間がかかるのが普通なんです…それをこの一瞬で?」
「あぁ。秒も要らない」
そう返すとまた2人で顔を見合わせている。
「私達…とんでもない人を拾ってしまったのかも…」
「…捨て猫ならぬ捨て魔王ですね…」
「馬鹿をいえ捨てられた訳では無い。それよりも戻るぞ。依頼はこれで終わりだろう?それかまだあるのか?」
「いえ、ないです」
信じられないものを見たかのように相変わらず二人で顔を見合わせていた。
そんなに目を見張ることをしたか?
そんな自覚はないが。




