魔王様の買い物
「シェルヴィ、朝だよ」
「もう少し寝かせてくれ…」
声が聞こえたが眠たいものは眠たいのだ。何せ昨日狭間から帰ってきたばっかりだぞ。
「朝だもん起きてよ」
しかし2度目のユリの声で起きた。
「やはり嫁の言葉は聞かなくてはな」
「まだ嫁じゃないから」
「それは残念だ。しかし俺はお前を嫁にするぞ。それからミーナもだ」
「頑張って下さいね」
そう微笑む彼女。
「あぁ、俺はお前らを嫁にするために頑張るぞ。まったくこの俺が努力するなどなかったことなのにな」
光栄に思えと言いたかったが俺は昨日からシェルヴィという魔人だったな。辞めておこう。
偉そうな口調も意識して直そう。
「ところで二人とも朝から綺麗だね」
「何その話し方」
目を丸くして聞いてくるユリ。
「俺は心を入れ替えることにした。普通の魔人のように生きて普通の魔人のように話すことにした。何かあればこうした方がいいと言ってくれ」
二人を見てそう口にする。
「まぁ、いいけど」
「そうですね。話を聞く限り他の方はまだまだ恐らく信じないので口調には気を付けた方がいいかもしれませんね」
ミーナもそう言う。
そうだな。偉そうな口調はやはりやめた方が良さそうだ。
「それより昨日言った通り今日は村の方を案内してもらえるか?」
「もちろん」
「ここが酒場だよ」
「ほう。中々盛況だな」
酒場からは結構な声が聞こえてくる。
賑やかで何よりだ。
そしてその後もミーナ達に案内させた。
「いい村だな」
大体見てそう思った。
「そうですか?私達は普通だと思いますけど」
「いや、いい村だ」
何となく俺の直感がそう告げている。
俺がいた魔王城はつまらなかった。
それと比較していい村だと言ってしまうのはどうかとも思ったが別に間違いではないだろう。
いい村であるにことに間違いはないのだから。
「俺がいた頃の魔王城は静かだった。お前ら息をしているのかと聞きたくなるくらい静かだった」
それと比較するとやはり盛況だ。
思い出すように魔王城のある方向を見たが昨日見た時と何ら変わらない。
「息はしてるんじゃない?」
「分からんぞ。あいつら静かだったからな。特に俺の補佐をしていた奴は静かだった。俺が何か面白いことをしろと言ってもしない不敬な奴だったな」
「そう言われて出来る人は少ないと思いますよ」
「そういうものか?」
「そういうものだって」
姉妹にいい感じにそう抑え込まれる。
「それよりその服やっぱり面白いね」
「お前たちが用意したんだろう?」
「それはそうだけど」
昨日シャワーを浴びたはいいが俺は着替えを持っていなかったから擁してもらったのだが女ものなのだ。
「でも、クマさんは…」
クマの描かれた服を見て笑うミーナ。
いつまでもこれではいられないな。
「それより俺の服でも買いに行こう。いつまでもこの服だとお前達にも悪い」
「そうだね。いつまでもそんなの着させてられないし行こっか」
頷くユリ達に案内してもらうことにした。
「こんなのどうかな?」
「何でも構わない。それより金を出させて悪いな」
かつての魔王の名はもうない。
一文無しの魔王などありえないな。
「また今度返す」
情けない話だ。
こんな女の子二人に払わせるなど本来は恥ずかしすぎるが仕方ない場面だ。この屈辱は忘れないでおこう。
「お母さん無事に治ったから気にしないでくれてもいいんだけどね」
そう言ってくれるユリだが返さない訳にはいかない。
「俺は意外と律儀だ。魔王とは思えないほど律儀だ。絶対に返す。受けた恩は返す。俺はそういう奴だから」
「魔王って夢がデカくていいなぁ兄ちゃん」
はっはっはと笑う服屋の店主。
「無礼者と言いたいところだが今の俺が魔王でないのもまた事実だ。今に見ていろ。今の言葉土下座して訂正させてやる、とも言いたいところだが俺は寛容だ。心の広さに感謝するがいい」
「へいへい。助かりますよ魔王様」
こいつ…信じてねぇ…。
いくら俺と言えどこう適当な反応をされるとやはり辛いものがある。
しかし負ける訳にはいかない。俺がもう一度魔王になることを世界は望んでいるのだ。そのうち戻ってやるから待っていろ世界。
「シェルこういうのどう?」
「私も持ってきました」
姉妹が上と下を持ってきた。
「どれ」
それに目をやる。いいな。
「気に入った」
二人ともセンスがいい。流石だ。俺の見込んだ女達だけある。
「毎度」
早速買ってもらった服に身を包み借りていた服を返す。
「どうだ?」
「やっぱり似合うね。細いからこういうピチッとした服似合うと思う」
「そうか。まぁ俺が着れば何でも似合うとお付が言っていたからな」
「でもそれはお世辞だと思う」
「何だ…と?」
まさか俺はお世辞を真剣に聞いていたのか?
「分かんないけど、でもそれは似合うよ」
にっこり微笑む彼女。
彼女が持ってきたのは黒いシャツだった。それから黒い上着。
シャツの真ん中に変な動物の顔が入っている。まぁ趣があるものだ。
「私も似合ってると思いますよ」
ミーナも微笑んでくれた。
彼女が持ってきたのはよくあるねずみ色のズボン。
「そうか。二人ともサンキュな」
「大したことじゃないよ」
「そうですよ」
謙遜する二人を連れて店の外に出る。
「シェル、髪長いよね」
「これでも短くなった方だ。長いと腰くらいまであったときもある。それは邪魔だったから切り落としたが、やはり魔王たるもの何でも量や長さはある方がいいのだ」
しかし今でも2人の髪の長さは俺と変わらないくらい。それを考えれば確かに長いかもしれないな。
「おっと悪いな。また魔王になってしまった。今は1人の魔人なのにな」
「仕方ないよね。ずっと魔王してたんだから」
「そうですよ。仕方ないことですよ」
「なら、仕方ないな」
2人に言われては仕方の無いことだ。
頷いて広場の方を何気なく見た。人が集まっていた。
「あれは何だ」
「子供たちに絵本を読んでいるみたいですね」
「ほう。俺の活躍でも読み聞かせているのかもしれないな」
「だといいね」
もう興味は失せた。それより2人と話をしよう。
「今すぐにさっきの金を返したい気持ちはあるのだが今の俺の狩猟レベルとかいうやつでは満足に稼げない」
「ギルドの登録の話だよね?」
頷いて彼女にカードを差し出した。
「え?もう出入り禁止があるの?!」
「それがどうかしたのか。全く無礼者もいるものだ。俺を出入り禁止にするなど飢えたらどう責任を取るつもりなのか」
「ねぇ、あんまりめちゃくちゃしてると狩人人生終わるよ…?」
その言葉に何も感じない訳じゃなかった。
「どういうことだ」
「ギルドはその人のマナーや行動というのは監視してるの。あんまりこういう出入り禁止レベルの事してると登録を消されて未来永劫登録出来なくなっちゃうの。そうなったら酒場にある依頼とか受けられないよ」
「…本当か?」
「本当ですよ」
困ったような顔をするミーナ。
「逆に何したら出入り禁止なんてなるんですか?」
「手っ取り早く稼ぎたかったからホワイトドラゴンを狩らせろと言ったたけだ」
我らになつかないあのドラゴンには困っているだろうと思ったのだが。
「ホワイトドラゴン…って…最高難易度だよね?発行したてのシェルじゃ受けさせて貰えないよ」
「理不尽なものだな。俺の実力など数値で出ないというのに」
「何をしたかは分からないけど理不尽なのはシェルだよ。ちゃんとルールは守らないと。いい?これからは魔人として生きるんならちゃんとルールは守ろうよ」
やんわりと注意されてしまう。
「そういうものか。善処しよう。しかし今更犬ころとかを倒すなんてゴメンだぞ」
俺にそんな雑用似合わない。やはりでかいヤツを倒さなくてはならない。
「シェルの言いたいこともわかるんだけど…」
「分かるならホワイトドラゴンを狩らせてくれ。虐殺させてくれ。あの程度消し炭にできる」
「消し炭にしちゃだめだよ?」
「どうしてだ」
「倒した証拠がいるの知らないの?牙とか爪とか何かしらを剥いでギルドに提出しないといけないの」
「…ならば消し炭にしてはダメではないか」
「そうだよ」
俺を見てくるユリ。
「狩りというのも大変だな」
「そうですよ。大変なんですよ」
ミーナもそう言ってくる。
「…どうやって原型を残して狩ればいいのか分からんぞ…」
「贅沢な悩みだよね」
苦笑いしているユリ。
「まぁ良い。コツコツと頑張っていればそのうちホワイトドラゴンも狩れるようになるだろう」
今はとりあえずその何とかレベルというのを上げた方が良さそうだな。
いや、それか依頼関係なしにホワイトドラゴンを狩りそれをギルドに見せつけるのもいいかもしれない。そうだな。それがいい。いちいちギルドとやらを挟むから面倒なのだ。
「よし、善は急げだ。行くぞ二人とも」
「え?」
「何ですか?」
不思議そうな2人の手を掴んで俺はモンスターのいそうな方向へ進んだ。
今日はここまでです。




