二つの最強魔法
「お母さん、ただいま」
「お母さん大丈夫ですか?」
ユリとミーナが声をかけながら家に上がった。
「来てやったぞ」
俺もそう挨拶をしておく。
「どなた?」
「2人の婚約相手だ」
母親の言葉にそう返す。
「え?」
「あの人なりの冗談だから真に受けないで」
「そうなんです」
驚いた母親にそう告げながら近寄る2人。
「随分辛いようだな。見ていいか?2人の悲し気な顔は俺が見たくないんでな」
俺は母親の横に置かれた椅子に腰かける。
「お医者さんですか?」
「いや違う、通りすがりの世界最強のヒーローだ。医者ではない、だが安心しろ治せるだろう。俺は最強だから」
「意味わかんないけど…」
ユリがそう返してくる。
「最強だからなんでも出来るのだ。まぁ見ているがいい」
そう言って母親の手を握った。
それから服の上からだがざっと体を流し見た。
「毒だな」
「毒…ですか?」
「あぁ。放っておけば死ぬ。初めは手足の痺れから始まる。やがて全身に広がって心臓まで止まって死に至る」
「まだ何も言っていないのに…痺れが始まった部位が何故分かったんですか?」
目を見開いて訪ねてくる母親。
「俺が最強だからだ」
「お母さん…助かる?」
隣からユリが訊ねてくる。
「余裕だ。俺を誰だと思っている」
ぼろぼろの上着を脱ぎ捨て背後に放り投げる。
「邪魔になるくらい…精密な治療が必要なんですか?」
「脱ぎ捨てた方が絵になるからだ。特に意味は無い」
簡単に答える。
「念の為もう一度確認しておくが痺れは手足から始まった。間違いないな?」
「そうです」
「まだ初期段階だ。良かったな。治療しなければ本来ならここから更に苦しむことになる」
「詳しいんですね」
驚いて聞いてくる母親。
「俺も同じ毒で一度死んだことがあるからな」
「死んだ…?」
ユリが顔を覗かせて聞いてくる。
「いや、死にかけたことがあるからだ」
掻き回すようなことは辞めよう。魔族と言えど未だに不死の特性を持った奴は少ないはずだ。
「少し痛むかもしれないが我慢しろ」
結界魔法、世界最強の魔法の1つを使う。この魔法は言ってしまえば一定範囲内を自身のルールで染めあげる魔法。その範囲内では神になれる魔法。
例えば…
「見える」
体内を流れる不純物が目に見えるようになる。
どんな細かいものでもどんなに小さいものでも俺の目からは逃れられない。
「━━━━無絶」
そしてそれを、その毒だけを指定して消し去る。
無絶、どんなものにも死を送る魔法。例外はない。毒だろうと物だろうと魔法だろうと何だろうと死を送り消し去る魔法。
「終わりだ」
魔法を全て解除する。
「治ったはずだが」
椅子から立ち上がり母親に手を伸ばす。
「…立てる…痺れが…ない…」
母親が俺の手を取ってからそう言って立ち上がってきた。
「あ、ありがとうございます」
俺の手を握って礼を言ってくる。
「気にするな。大したことではない」
「お母さん…」
「良かった…」
俺がそう答えていると2人が母親に抱きついた。
「何とお礼を言えばいいか…」
「何、礼など要らぬよ。しばらくここで寝かせてくれるならそれで構わん」
「そ、そんなことで宜しければお使いください」
「助かる」
これで一先ず宿の確保はできた。
「シェル、ありがとう」
俺の手を取ってそう言ってくるユリ。
「…何朝飯前…だ」
おかしい。顔が…赤くなる。なんと言うか…恥ずかしい。
こんなことで顔を赤くする俺ではないのだがな…。
「お医者様も多くがお手上げだって言ってたんです…それで一か八か治るかもしれないという薬草を取りに行ったのですが…ありがとうございます」
ミーナも余った反対側の手を取った。
「やめろ…恥ずかしいではないか」
「さっき…嫁にしてやると言っていたのが嘘みたい」
クスッと笑うユリ。
「俺とて最強だから恥ずかしくなる時もある」
「訳わかんない」
涙を流して笑うユリ。
「ありがとうね」
そんな彼女が最後にもう一度微笑んで礼を言ってきた。
ユリに案内された部屋の窓から外を見る。
「ちっ…」
この村から見える魔王城は俺がいた時より酷い有様になっていた。
毎日バカ騒ぎしていたのが嘘のように静かになっている。嘆かわしいことだ。
「シェル…?」
「どうした未来の嫁よ」
さっきの事があったからから見ていると恥ずかしくなってきた。
「さっきは聞きそびれちゃったけど…結界魔法に無絶って文句なしに最強の魔法だよね。しかもほぼ無詠唱で使うなんて、今の魔王様でもできないんじゃ…?貴方何者なの?」
「本当のことを言って信じるか?」
俺が名乗ったところで誰も信じないだろうから黙っていたが。
「元魔王だって言って信じるか?」
窓の外を眺めながら問いかける。
「…信じる」
「信じますよ」
ユリとミーナが俺の両サイドに並びながらそう答える。
「俺が何百年も行方不明になっていた魔王クシナだって言って信じるか?」
「…信じる」
「信じますよ」
それでも全く同じ返事をくれる2人。
「そうか」
「というよりあんな最強魔法見せられた後で普通の魔人だって言われる方が信じられないかな。あの2つは最強の中でも更に抜けて強い魔法。それをあれほどの精度で使いこなすなんて四天王や魔王でも無理じゃないの?」
クスッと笑うユリ。
「ですよね。行方不明になっていた魔王様が戻ってきたって言われる方が信じられますよ」
ミーナも笑っていた。
「2人ともありがとうな。でも暫くは1人の魔人シェルヴィとして暮らしたいって思ってるよ」
口調は中々直らないだろうがそれでもそうして生きていたいって思う。
「魔王の席に戻るなんてことはいつでも出来る事だ。今はこうして2人と過ごしていたい」
「元魔王でも誰かといたいとか思うんだ」
「あぁ。そうだな。俺はここに帰ってくるまでずっと1人だったからな。たまには誰かといたいと思う」
この何百年言葉が通じない物体と話していたからこうして普通の会話をするだけでも救われる。
誰かがいてくれる俺はまだ孤独じゃないってそう思えるんだ。
「魔王様も大変なんですね」
同じ空を見ながらミーナがそんなことを呟いた。
「あぁ。大変だ。四天王共がちゃんと仕事してるかとか見ないといけなかったしな」
「でも魔王ならお金持ってるんじゃないの?何で私たちの家に?」
「いや持ってない。俺は魔王だぞ。買い物はしないし、何か利用するにしても顔見せれば無料だった」
そんな環境でお金など持ち運ぶ必要が無いし使い方を覚える必要もなかった。
「それがこの世界じゃ俺は死んだ奴扱いで新しい奴が魔王みたいだし俺の顔を殆どの奴が知らないしで困っていたところだ」
世界自体は変わっていないようだが時間が経ちすぎてもう殆ど別世界だ。
「にしても最近人間の勢いが凄いらしいな」
「うん。あいつら直ぐ攻撃してくるよシェルがいなくなってから恨み晴らすようにすごい」
俺を見るユリ。
「クシナって呼んだ方がいいかな?って言うか…クシナさん?それよりそもそもクシナ様って呼んだ方がいいですか?」
「何だその気色悪い話し方は。シェルでいい。話し方も改めなくていい。俺は今1人の魔人だから。それに魔王になってお前を嫁にしても話し方は変えなくていいぞ」
「…嫁になることはもう確定なの?」
「何だ、いやか」
「私なんかがいいのかなって…」
「気にするな。お前は可愛いやつだ。俺が選んだのだ。誇れよ」
頭をわしゃわしゃと撫でる。
「もう。子供扱い?」
「俺からしてみれば皆子供よ。ふははは」
「そう言えばどうしてシェルは魔王になったんですか?」
今度はミーナがそう話しかけてきた。
「聞きたいか?結構精神的に来ると思うが」
「辞めときます」
苦笑する彼女だった。
「でも俺はなって良かったかなって思うよ。胸に溜まってた何かを全部吐き出せたからさ。初めは大変だったけど。自分の作りだした種族が世界を満たしていくのは見ていて悪くないものだったし」
俺が魔王となって直ぐに人間は数を減らし、魔人やダークエルフなどを含む魔族がこの世界での主な生き物となった。その事は今でも思い出せるし、いい思い出だ。
「それより明日は村の案内でもしてくれないか。暫くはここに滞在しようと思っているのでな」
「いいよ」
「いいですよ」
2人はほぼ同時に肯定してくれた。
「なら頼む。では俺は寝るぞ」
「シャワー浴びないの?言いにくいけど臭うよ?」
「忘れていた、案内してくれ」
そうだ。狭間から帰ってきたところだしあそこは汚かった。汚れを落としたいところだ。
ある程度は魔法で防げたし、身を清められたが流石に全部の浄化は無理だ。
素直に借りることにしよう。
ブクマありがとうございます。
要望などありましたらお気軽にどうぞ。




