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捨て魔王を拾った姉妹

酒場にたどり着いた俺は中に入ると早速適当な依頼を手に取りカウンターの担当者に渡した。


「カードの提示をお願いします」


「何それ」


見たことも聞いたこともないな。


「お客様のご利用は初めてですか?」


「当たり前だ。初めて来たからな」


ダークエルフの娘に一々説明する。


「さっさと依頼を受けさせればいいのだ。金がないのだ早くしろ」


「そう言われましても…」


「俺が早くしろといえば早くするものだ早くしろ」


おっとまた悪い癖が出た。


「早くしてくれ。頼む」


「依頼を受けるにはギルドに登録が必要なのですよ。して頂けないと私から許可は出せないんです」


「煩わしいな。ならばその登録とやらを早くさせてくれ」


流石に夜まで働きたくないぞ俺は。

その登録で遅くならなければいいが。


「お客様…お待たせました…どうかしましたか?」


「やっと出てきたかデカ男」


ここの責任者なのかどうかは分からないがでかい体をした男が奥から出てきた。


「ギルドに登録を早くしてくれ」


「…こちらを」


そう言って俺に紙を差し出してくる。

それに必要事項を適当に書き込んでからそれを渡す。


「それからこちらを覗いてください」


カウンターに出された水晶を覗き込んだ。すると俺の顔がさっきの紙に現れた。


「使用属性は?」


「全種だ」


「全種、と言いますと?」


「火、水、氷、雷、土、風、光、闇…全部だ。全属性」


ざわめく酒場。

分かってはいたが当然の反応だ。全属性使えるやつ等そういないからだ。

中でも光と闇の両立は特に難しい。基本的にこのどちらか一つしか使えない。


「本当に…全属性でいいのですね?」


「何か不都合でもあるのか?」


「い、いえ…」


そう言って奥へ引っ込んだ男。しばらくしてカードを俺に手渡してきた。


「こちら登録証になります。カードと呼ぶ場合もあります。無くさないでくださいね」


「善処しよう」


全く余計な時間がかかったな。世界の狭間から帰ってきて疲れているというのに愚民どもはこうして俺を困らせる。


「見ろよ。あいつ全属性で登録したぜ」


「今時それで登録するやついるんだな」


俺がカウンターから離れると同時にゲラゲラ笑う声が聞こえてきた。

明らかに俺に向けられたものだった。


「全属性だと何か不都合があるのか?」


思わず俺を笑った2人組に詰め寄って訊ねた。

俺の現役だった頃だと全属性使えるだけで畏怖の対象だったがなぜ笑われる?


「知らないのかよ。これだから僻地の坊ちゃんは…」


やれやれと首を横に振る男達。


「全属性なんて時代遅れなんだよ。クシナ様が魔王となって世界を支配していた頃はそりゃ全属性使えるだけで凄いと言われていたらしい。でもよ。全属性に適正があってマトモに使えてたのはあの人だけ。それ以外の奴が持っても外れなんだよ。何故だか分かるか」


「分からん」


「だろうな。その理由が分かるなら全で登録なんてしないだろうからな。確かに今でも選択肢こそ広くなるがあれこれ手を出した結果、どの魔法もマトモに使えないやつが多いんだよ。例え複数属性に適性があっても1つの属性に特化してそれを極めるのが今の主流なんだよ。何百年前に生きてんだお前」


ゲラゲラ笑い続ける男達。


「カードの全属性に丸ついてるだけで私はハズレの間抜けですって言ってるようなもんだぜ。さっきも言ったが普通はどれか1つ1番マトモに使える属性に丸を付けるんだよ。多くても二つか三つの属性。今時赤ちゃんでも知ってるわ」


腹を抱えて笑う男2人。

そうか。俺がいなくなっていた間に世界も随分変わったらしいな。

全属性がハズレ…か。


「下手すりゃカード見ただけで依頼を断られるレベルだよ。言ってる意味分かるよね。ま、ぬ、け」


ガハハと笑う男達。


「そうか。そりゃ困ったな。しかし、まぁいい」


黙って適当な依頼を手に取りカウンターに持っていく。

俺の実力はあの頃と変化はないんだし問題はない。


「ホワイトドラゴンって…」


「何か問題があるのか?」


「お客様のレベルでは足りませんよ」


「レベルって何だ」


「狩猟レベルというものがありまして、ここからここはこの依頼を受けられるというものがあるのですが、お客様のレベルではこれは受けられません」


「何で?」


カウンターに身を乗り出した。


「俺が受けさせろと言っているのだ受けさせろ」


「ですから…出来ません」


何だそのレベルとは面倒くさすぎるだろ。まさかこの俺様に犬ころを倒せと言っているのか?この俺を誰と思っている誰と心得ている。


「お客様。おやめください」


再び出てくる大男。


「辞めるかよ。今更犬ころの1匹2匹倒せるかよ」


「お客様」


俺はつまみ出された。


「おいごら!」


店内から返事はない。完全に俺を無視する気なのかもしれない。


「はぁ…」


ため息を一つ村の外に出る。あの酒場には出入り禁止にされた。他のところへ行くしかない。それからちまちま狩るしかないな。




「お、いいねいいね。こんなところでダークエルフに会えるなんて付いてるぜ」


そうして次の村に行こうとしていた時だった。


「離して…ください!」


「離して!」


「離すかよ」


森で人間の男2人に絡まれているダークエルフ2人を見かけた。

とても知り合い同士には見えなかったので近付いた。


「お困りか?」


それならば助けて報酬をもらおう。一文無しでは困る。


「は、はい」


女の1人がこちらを向いてそう答えた。


「あぁ、なんだおま…」


言いかけた男の首を叩いて眠らせた。

その後隣にいた男は蹴りで遥か遠くまでぶっ飛ばす。

一瞬だ。秒もいらない。


「…」


その様子をポカンと間抜けな顔で見てくるダークエルフ2名。


「人間2人を…あの一瞬で…?」


金髪の方が驚いていた。が、こんなもの息をするのと変わらん。


「助けたから報酬をくれ。宿1月分でいいぞ」


「そ、そんなに持ってませんよ」


俺を見てそう答える女。


「その程度も持っていないのか?」


「その程度もって…いくらかかるか知ってるの?」


「知らん」


宿など無料でしか利用したことがない俺がそんなことを知っているわけがない。


「助けてくれたことに関しては感謝します」


金髪の方が腰を折った。その動作でさらりとその金髪が揺れる。金色の瞳に肩で切り揃えられている金色の髪はとても美しく感じた。


「それより…あなた強いですね…四天王か何かの方ですか?」


「いや、何でもない。俺は俺だから強いんだよ」


瞳を閉じてそう返す。

別に強くなるのに何かした事は無い。

ただ気付けば最強になっていただけだ。


「俺は俺故に最強という訳だ。理解できるか?」


「ぷふ…何それ」


黒髪の方がそう笑う。こちらも髪型は姉とほぼ同じで瞳の色は黒、見ていて美しかった。


「だから俺は俺故に最強だ。俺が最強である事に意味も理由もない。俺は俺だから最強。それだけだ」


なぜ強いかと聞かれても俺だからとしか答えられない。


「貴方面白い人ね」


黒髪は何が面白いのか笑っている。


「俺は俺だから面白いのも当然だ」


合わせておこう。俺が面白いことにも理由はない。俺だからだ。


「ねぇ、お姉ちゃん。家に招待してあげない?」


「そ、そうですね」


金髪の方が姉なのかそう頷いた。


「宿でなくても構わない。お前らの家の1ヶ月利用権で構わないぞ」


「すっごい上から目線だよね」


ジトーっとした目で俺を見る黒髪。


「俺は神だ。崇めろ。お前が上から目線と思うのは当然だ。何せ俺は天の上に在るべき存在だからな。そしてお前達は俺に見下されるために存在しているに過ぎない」


「変な人」


クスッと笑う黒髪。その笑顔は中々可愛いものだった。


「お前を俺の嫁にしてやる。光栄に思えよ」


「えぇっ?!」


「さぁ、俺の手を取れ。共に天を駆けようか」


「お、お姉ちゃん?私求婚されてる?」


「妹は渡しませんから」


そう言って妹を抱きしめる姉だった。


「そうか。名前も分からぬ者に渡せぬのも分かる。名乗ろうか嫁よ。俺はシェルヴィ。シェルとでも呼んでくれ」


「私はミーナです。でも妹は渡しませんから」


先に金髪…ミーナが名乗った。こちらもやはり中々可愛い顔をしている。


「よし、お前も嫁にしてやる」


「えぇっ?!」


「何だ、不満か?俺の嫁になるなど神の嫁になるのと等しいが」


「神様って…くすっ」


相変わらず笑う黒髪の方。


「第一の嫁名前を聞いていない。名乗れ」


「ユリ。ユリだよ」


そう笑顔で返してくる彼女。


「ユリか、いい名前だな。嫁にしてやる」


「嫁はまだ…いいかな…」


苦笑いするユリ。


「何だと…」


まさか断られるとは思っていなかったから地味にショックだ。

しかし


「くくく…ふははは…素直にうんと頷かないからこそ落としがいもあるな。挑戦させてくれ。お前が我が嫁になるまで」


「待ってるから」


「あぁ、直ぐに惚れさせてやる。」


「何の約束してるんですかぁ!」


顔を赤くして叫ぶミーナ。


「何、婚約の約束だ。俺は嫁は大事にする性分でな」


普段はお前達などゴミや塵にしか見ていないが、世界に捨てられて迷っている捨て魔王を見捨てなかったのは褒めるべき行為だ。故に嫁にしてやる。そして大事にしてやろう。


「しかしこんな所で何をしていたのだ?」


夜遅い訳では無いが夕方…薄暗い森の中を姉妹で歩くようなものでもない。


「それが…お母さんが病気で…この辺りに病気に効く薬草があるって聞いて…」


ユリがここに来た理由を説明してくれた。


「案内せよ」


「…?」


ミーナの方が不思議そうな顔で俺を見てくる。


「家に案内せよ。母親は家にいるのだろう?」


「でもまだ薬草を見つけてないんです」


「薬草などいらん。俺が見てやると言っている」


「お医者さんなんですか?」


「いや、通りすがりの最強だ」


「でも。お医者さんは薬草が必要だって言っていましたよ」


「俺の前ではそんなもの些末事なのだ」


そう言うと小さく笑ったミーナ。


「何故でしょうか言っていることはめちゃくちゃなのに貴方のことは信じられそうなのは」


「俺のカリスマだ。家まで案内してくれるな」


「え、はい」


不思議そうな顔を崩さないミーナに俺はついていく。


ブクマありがとうございます。励みになります。

今日の更新はこれで終わりです。


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