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魔王軍復興へ向けての第一歩

アグニエル達を動かしてから1週間ほどが経過した。


「本当か?それは」


「間違いありません。現魔王の目的は魔王軍の解体」


それを聞いて言葉が口から出なかった。そんなことして何になる。

何にもならないだろう。


「現魔王は魔王軍を捨てるつもりみたいです」


アグニエルが淡々と報告してくれる。自分が調べ上げたことを一つずつ丁寧にだ。


「で、農地の件も謎の病の件も全部あいつの仕業か?」


現魔王、ディグデュラムという貴族は確かに欲深かった。

奴は地位に固執していた。自分の邪魔になるものは全て排除してでも欲しいものを掴み取る。そんな性格をしていた奴だった。


「はい。あれは魔王軍を捨てて人間側に付くつもりみたいです」


「捨て置けん。俺がここまで魔王軍をでかくしたのを何だと思っているのだ…」


気に食わない。自分が育てたものを他人の自己満足のためだけに粉々にされるのだけは耐えられない。


「俺は人間を絶望させるために魔王軍をここまで育てた。それをせずに自分から敵の傘下に入るなどバカもいいところだ。許さん」


一言で言うならそんなところだ。


「そう言うと思いましたよ。それと農地の件ですが、あれは魔王とその周りが中心になってやっていたみたいです。謎の病についても…魔王軍の数を減らすためにやっていたみたいです。許せませんよ」


珍しくいつもの顔を崩して怒っているアグニエル。

やはり思うことは同じらしい。


「今晩仕掛ける。あの馬鹿にはもう任せてられない」


統治などの細かいことは考えていないがあいつに任せておけないのもまた事実だった。


「それでこそシェルです」


「当たり前だ。民を守るのは魔王の仕事…。あの馬鹿にはそれが理解出来ていない。俺が成敗して牢獄にでもぶち込んでおく」


今日こそ魔王軍の全てが変わる時だ。手は抜かん。




「魔王様!敵襲…」


言いかけた城兵を魔法で気絶させることで無力化してそのまま歩を進める。

誰の元に?決まっている。無能な魔王の元に。


「まさか本当に狭間から戻ってきているとは思わなかったな」


俺が近付くと鷹揚に振り返る現魔王。

サマにはなっているがそれだけだ。所詮見た目だけの魔王。


「俺の正体に気付いているのか」


「こうしてお前を前にして確信したがね。やはり王者の風格がある」


「ふ、俺を前にしてその態度を崩さないところは賞賛してやる」


「口がデカいぞ魔人風情が」


「確かに俺は今はただの魔人だ」


「おい」


魔王の言葉に周囲の鎧が反応する。


「頭が高いぞ。伏せろ」


そう口にしているが聞く必要などどこにもないし聞いてやるつもりもない。


「誰が」


笑って答える。


「貴様…」


つかつかと玉座から降りて俺に接近してくる男。


「それより貴様。俺の玉座に誰の許可を得て座っている。謝るなら今のうちだぞ?」


「何を馬鹿げたことを言っている。今の王は俺だ。貴様の時代は終わったのだジジイ」


「…今なんて言った?」


頭の中でピキリと音がした気がした。顔こそは崩さないが。


「このクソジジイ」


「死ぬ準備は出来たな?ディグデュラム」


右手に闇の剣を生み出す。

もう許さん。こいつはここでぶちのめす。


「馬鹿め!ここで魔法は使えんぞ!貴様のその言葉万死に値すると思え!」


「…そんなものが俺に通じるとでも思ったのか?」


剣を抜き切っ先をディクデュラムに突きつける。

その皮膚からは魔剣によって生じた傷がひとつ。


「…はっ…はっ…」


「俺を誰だと思っている?貴様などゴミ以下のゴミとしてしか俺の目には映っていないぞ?」


故にその言葉から出る言葉に意味もなく、こいつ程度で考えた対策や魔力封印なども意味は無い。


「…ひ、ひぃ…」


崩れ落ちる奴の体。


「魔王様!」


急いで近寄ってくる周りの鎧共。中身など入ってはいない。

武器の一振で全て無に返した。


「や、やめてくれ…わ、悪かった…その剣を消してくれ」


「それが人に頼む態度か」


突き入れようと肩に切っ先を当てたところで奴が口を開く。


「消してください…」


「…そう言えばいいのだ、始めから」


しかし奴の顔が笑った。


「かかったな!」


「…下らん」


奴の発動しかけた魔法、それを先に潰す。もっとも完成してからでも軽く潰せるが。


「ば、馬鹿な…この魔王城で俺の結界魔法を…潰す…だと?」


「別に難しいことじゃない。貴様の流れさせる世界を塗りつぶす量の魔力を流せばそれで潰せる」


「そ、それがどれだけ難しいことか…分かっているのか」


「さぁ?分からんが俺にはできる。それだけだ」


もう一度魔剣を生み出す。

今度こそ肩に突き入れた。


「ぐぁぁぁぁ!!!!!!や、やめてくれぇぇ!!!!」


「下らん真似事はやめろ」


そう告げ剣を抜き出すと消す。

ここまで弱いといたぶる気にもならないというものだ。所詮は金と身分の力で成り上がった3流の魔王。

俺とこいつでは埋められない差がある。


「一つ聞かせてくれ」


「な、何だ?」


「あの時勇者に協力したのは貴様か?予想より奴らの侵入が早かった、というより魔王城の警備は動いていなかったように感じたが」


あの時俺が狭間に投げ込まれた時だ。奴らは真っ直ぐ俺のところにきた。

それは大したことではなかったが気になっていたことでもあった。


「お前が俺を謀り勇者を素通りさせた。それでいいか?別にそうだからと言ってお前を殺すつもりは無いし魔王の座を今は奪い返すつもりは無い」


良く考えれば魔王にならずともこいつに表の魔王をやらせて裏で俺があれこれ指示を出せばいいだけだ。

その言葉を聞いて熟考する魔王。

しかし直ぐに口を開くことになった。


「あぁ、そうだ。俺が手引きした」


「下らんことには頭が回るのだなお前は。だが結果勇者と協力して俺を狭間に放り込めたのは賞賛に値する。あの時ほど俺は生を実感出来たことは無い。むしろ感謝したいくらいだ。俺が恐怖を感じたのは本当に久しぶりだったからな。昨日のように思い出せる」


「見逃してくれるのか?」


「貴様など殺す価値もない。俺に殺されたいなどというのは大層な願いだ」


こんな奴に手を出すなど無意味なことだ。その辺りを漂う塵に本気で手を出したところで俺の名が腐るだけだ。


「あ…貴方こそが真なる魔王様…」


「ようやく理解したか?俺が最高の魔王だと」


「は、はい!」


涙を流して感動する男。


「しかし悪いな。貴様のアンコールに答えるほど俺は暇ではない。その玉座はまだお前が座るといい」


「何かあるのですか?」


「俺は世界を救うヒーローにならなくてはならん。見ろこの魔族の活気を」


そうして首根っこを掴んで引きずるとバルコニーに出た。そこから見下ろす下々の世界。

久しぶりに見ると感動もより一層だが以前までの比ではない。


「これが我が魔族の日常というのなら俺は悲しくて悲しくて目も当てられんよ」


昔は皆楽しそうに笑っていた。しかし今は毎日葬式のようではないか。

それもそうだ。こいつが要らないことをするからだ。


「貴様の責任にするつもりはないがその尻拭いはしてもらう。これより毎日復興に励むがいい」


「お任せ下さい」


土下座してそう口にした現魔王。


「貴様の働きを楽しみにしている」


バルコニーの欄干に足をかける。


「…どうなさるつもりですか?」


「飛ぶんだよ」


「正気ですか?いくらあなたでも死にますよ」


「バカを言うな。俺を侮るなよ」


「ここから一番下までの高さ理解してるんですか…?昔あなたがここからジャンプさせた四天王の1人が亡くなったのを忘れたのですか?あの…最盛期のあなたの配下の四天王がですよ?」


「俺はやめておけと言った。しかしあいつが勝手に飛んだのだろう。人聞きの悪いことを言うな。それに俺はいつでも最盛期だ。勝手に決めるな。それにあのバカは俺が蘇らせた。なんの問題もないだろう」


「いい加減にしろつってんだろ年寄り!あんたが死んだら魔族はどうなんだよ」


「俺はまだピチピチだ。ふざけたことぬかすな。その口もぎ取るぞ」


「いいから…考え直してくれほんとに死ぬぞ。ここは直ぐ雲に届くくらいの位置なんだぞ」


「やかましい」


掴んできたのを振り払って飛ぶ。

背中に奴の声が聞こえるがどうでもいい。無視して魔法で空中を自在に飛び回る。

久しぶりの一仕事終えた後のダイブは気持ちいい。

このままどこまでも飛んでいけそうだ。




ちょっと投稿ペース落ちるかもしれません。

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