明日からに向けて
「わぁ…美味しそう…」
リルがさっきまでの疲れを感じさせない声でエルの手にある肉を見つめていた。
「まだ食べられませんよ」
そう笑顔で言われて頬を膨らませている姿が目に入る。
相変わらず仲のいい姉妹らしいな。
「シェル様?」
そんな時リオンが俺に声をかけてきた。
ついさっきユリ達とこちらまで来たところでまだ髪が少し濡れていた。
「どうしたんだ?」
「その、…とても気持ちよかったです。ありがとうございます」
「私からもありがとうございます」
シオンもそう頭を下げて礼を言ってきた。
なんだそんなことか。
「気にするな。自分の傍に置く存在を無下に扱う訳にはいかない」
それより、そろそろ時間的にまずいかもしれないな…
「シオン、お前を雇っていた商人のところへ行こうか」
「…」
今まで雇ってくれたことに対しての罪悪感のようなものを感じているのか、いい顔はしていないように見えるが。
「俺に全部任せるといい」
そう言って頭を撫でるとシオンの手を取る。
「ということだ。ミーナ俺が帰るまで後のことは頼んだぞ」
「任されました。お気をつけて」
その返事を聞いて俺はシオンの案内でその商人の店に向かうことにした。
「あんたがシェルヴィとかいう貴族か」
商人の店に行くと強面の親父がそこにはいた。
俺が目の前まで来たとき親父が俺にそう声をかけてきた。
「まぁな」
「シオン、帰りが遅かったが?」
俺にはもう目を向けずにシオンに目をやる店主。
「いや、悪いがこいつがあんたの店に戻ることはもうない。突然手を失うということになるが、これで手を打ってくれ」
皮袋を渡す。中身は数枚の金貨。
「シオン、どういうことだ?」
「…シェルヴィ様が私を買ってくださったんです」
別に買った訳では無いが話を面倒なことにしない為にもそういうことにしておこうか。
「…」
それを聞いて仏頂面で皮袋の中身を見る店主。
「あぁ。交渉成立だ。シオンの雇用はこれできっちり終わりだ」
「助かる」
「シェルヴィとやら」
相変わらずの強面で俺を見る店主。
「また贔屓にしてくれると助かる」
「分かったよ」
もう少し拗れるかと思ったが直ぐに話は終わったな。
そうして話も終わったので帰ろうとしたところ
「シオン。幸せにしてもらえよ」
「はい」
去り際に声をかけた店主にシオンがそう返していた。
とにかく余分な溝を産むことなく解決したようだ。今はそれに感謝しよう。
「シェルーいい感じに焼けたよー」
俺が庭に入った途端近寄ってくるユリだった。
どうやら既に焼いてくれているらしい。少し離れたところには、かまどの上に置いた専用の石で肉などを焼いているミーナ達の姿があった。
「あの石すごいねー。直ぐ焼けるもん」
「特殊な技術が使われているとからしいからな」
俺も詳しくは知らないが、あの石は直ぐに焼けるようになっているらしい。
「シェルもどう?」
その手に持っている皿の上に乗っていた肉をフォークで刺すユリ。
言いながら俺の口許に運んでこようとしていたので口を開けると
「と、見せかけて。どうぞ」
そう言いながら隣にいたシオンの前に持っていった。
「…」
つられて口を開けたのかそのまま食べたシオン。
「…あ、ごめんなさい…シェル様の前に食べちゃいました…」
そうシュンとなって謝ってくるシオン。
「別に構わない。その程度で俺が気を悪くするとでも思ったか?むしろ好きなだけ食べてくれていい。ユリ、面倒を見てやってくれ」
そう言ってユリの目を見るとシオンを彼女に渡した。
「シェルは?」
「俺は後でいい」
「うん。分かった」
そう言ってシオンを連れてミーナ達の方へ向かう彼女。
「アグニエルから話は聞いた」
入れ替わるようにアニーがやってきた。
「…」
無言で彼女の目を見る。
「私がここにいられるのはあなたのお陰だ。あなたが望むのならどんな汚れ仕事だって引き受ける」
「俺が言いたいのはそういうことではない」
何か勘違いしているなこいつ。
「え?」
驚いたように口を開けた彼女。
「前を見ろ。みんなバーベキューを楽しんでいるのに何故お前だけそんな人を殺しそうな顔をしているのだ」
「で、でも…」
「ゴタゴタ言うな。『私も仲間に入れて~』くらいのノリでみんなの中に入っていくといい」
気になっていた。アニーは奴隷だったからあんまり溶け込めていないのではと。
「でも、いいんだろうか…」
「なんでダメなんだ?お前だって1人がいい訳じゃないだろ?」
「それもそうだが…」
「みんなお前が心を開いてくれるのを待ってるよ」
少し荒っぽくなってしまうかもしれないが俺だけ先に合流することにした。後はアニー次第というわけだ。
「…流石シェルが選んだ食材だな。口の中に入れた瞬間…」
俺とユリ達が他愛もないことを話していたらそんなことを口にしながら会話に参加してきた。
「何それ」
ユリがおかしそうに笑い出すと恥ずかしそうに顔を下に向けてしまったアニー。
「すまない…場の空気を悪くしてしまったかもしれない…」
「別に悪くはしていませんよ?むしろ約1名は笑っていますし」
だがそんなことを心配している彼女にそう返すミーナ。俺は1歩引いて見守ることにした。
「すまない…こんな時どういう話をすればいいか分からなくて…」
「別に無理して話す必要はないんじゃないかな?」
ようやく笑うのをやめたのかそう口にしたユリ。
「どういうことだろう?」
「みんながみんな話すのが得意って訳じゃないしアニーがよく分からないって言うならそこにいるだけでいいと思うよ。それに私の中ではアニーは無口だけど優しい人ってイメージだし。無理するのは良くないんじゃない?」
「そうですよ。アニーはそのままでいいんですよ?」
そう言ってにっこりと微笑むミーナ。
後はもう任せていいかもしれないな。
俺は別のところへ向かうことにした。
一通り食事も終わった後涼む為にも俺は外にいた。
後片付けはリアとエル、それからリルがやりたいと口にしたので任せることにした。
「違いますよ。これはこうした方が楽ですよ」
「ありがとーリア」
「リアは物知りなんですね」
3人が仲良く会話する声がこっちまで聞こえた。どうやら仲良くしてくれているようで安心した。
「シェル…」
その時後ろから声が聞こえた。それと同時に俺の服の裾を掴む感触。
誰かは見なくてもわかる。
「どうしたんだ?アニー」
「ずっと…悩んでたんだ…自分のこと。こんな可愛げのない女をみんな受け入れてくれてるんだろうかって…」
でも、そう口にして俺の前に移動してきたアニーの顔には少しの笑顔があった。
「みんな…そういう奴だって理解してくれてた。私は私でいていいんだって」
「それは良かったな」
彼女の頭を撫でてやるとネコのように嬉しそうな顔を作った。
「私シェルに拾われてよかった。シェルに拾われてから嬉しいことが沢山あった。幸せな思い出もいっぱいできた」
「それは俺にとってもありがたい話だ」
アニー達がそう思ってくれるなら俺の行動も無駄じゃなかったという事だ。
「これからも…そばに置いて欲しい」
「そんなことか。ずっと置くって言ってるよな?」
「シェル…」
そう言ってやると俺に抱きついてくるアニー。
「頼まれても…離れないから」
「好きにしろ」
「うん…」
短く答えて俺もアニーの背中に手を回すことにした。
明日からは頑張ってもらいたいものだな。




