荒れ果てた大地を元通りに戻した
「これなんだけど…」
「これがどうかしたのか?」
ユリに案内されたのは荒地だった。その荒れ果てた土地を指さして話し始める彼女。
「シェルの力で何とかならないかなって」
「何とかとは何だ?」
「何とかは何とかだよ。何とか元通りの綺麗なものにならないかなって」
「そういう事か。無理なことではないな。いけるぞ」
元通りと言えばどのレベルのことをいうのかは分からないが。綺麗にすることはできるだろう。
「それなら、これで皆さんも喜びますね」
それを聞いたミーナが微笑む。
「そもそも、こんな事させてどうするつもりなのだ?喜ぶというのはどういうことだ?」
「前に貢物が大変だって話したよね?」
「したな」
村人達がせっせと貢物を運んでいた姿をユリの言葉で思い出す。
「あれで生活が苦しい人もいるって話も覚えてるよね?」
「そうだな。覚えているぞ」
「ここは昔はちゃんと手の入った農地だったんだよね」
「とてもそうには見えないが」
ユリがそう説明してくれたが今では荒れ果ててしまって状態が悪く、とても農作業ができるようには見えない。
「今こうなってるのモンスター達に踏み荒らされたからでね…」
当時のことを知っているのか顔を歪めながらそう話すユリ。
しかし今は見渡す限り荒れ果ててしまっただけの土地だ。
「一先ず俺が何をすればいいかは理解した」
こんな状態の農地を見せられて俺に共感してくれと言うつもりもないだろう。ならば答えはひとつ。この農地を何とか農作業の出来るレベルにまで回復させる。それこそが俺の役目だと考えた。
「うん。流石シェルだね。理解が早くて嬉しいよ」
そう笑ってくれるユリ。
「ユリちゃん?ミーナちゃん?」
そうして話している時後ろから声をかけられた。
そちらに首を向けた。そこに立っていたのは初老の女の魔人に見えた。
その女は俺を見ると今度は俺に向かって話しかけてくる。
「それから…確かギルドの人でしたっけ?」
「人様に身分を聞くならその前に自分が名乗れ…と教わらなかったか?婆さん。それから俺はギルドの人間ではない」
「ちょ、ちょっと…シェル…」
声を潜めて俺に慌てて声をかけてくるユリ。
「それは失礼しましたね。私はこの村の農地の管理を担当している者です」
「そうか。で、何の用だ?」
俺の問いかけには首を横に振る女。
「いえ、かつての農地を見に来ただけです。この農地に私達は生かされてきました。その感謝を…伝えに来たところなんです」
言い終わる頃には涙を流す女。
「なら、これからはこの土地には生かされない、と?」
見たところここをどうにかして使っているようにも見えないから確かにそうなのだろうが。
その女は悲しそうな顔をしながらこちらに向かって歩いてくるとミーナの横に立ちこの広大な農地に目を向けた。
「かつてはここも作物が実り私たちの生活を支えてくださいました。文字通り私達はこの大地に実る作物によって生かされてきていたのです。今は残った少ない大地によって生きさせてもらっているという訳です」
「それで生活が厳しいというわけか」
「そうです。今は今までの蓄えで何とかやっていけているという状況なのですが…それも年々厳しくなってきています。この土地を失ったことで仕事を失ったものも少なくはありません」
そう言って俺を見る女。
「話題を戻しますが、最近ユリちゃん達の近くで活躍しているというのは貴方の事ですか?」
「そうだろうな。俺の他にユリ達に近付くのはネズミ1匹見ていないから」
「差し支えなければ教えて欲しいのですが、貴方は何処の誰なのですか?」
「俺はただの魔人シェルヴィ。それだけだ」
それだけは変わらないもの。
「それより、そろそろ再生を始めようか」
上着をミーナに預ける。
「再生、と言いますと?」
唯一話の流れを理解していなさそうな女が俺に問いかけてくるが、ミーナに視線を向けると彼女は頷いてくれた。説明は任せたという意味の視線だ。
「シェルが今からこの農地を再生させてくれるんです。また、私達はこの土地で農作業を行うことが出来るんです」
「そ、それは本当ですか?」
目を真ん丸に見開く女。何をそんなに驚いているのだろうか。
「この土地はもう蘇らない、と専門家の方にそう告げられたのですよ?」
「専門家というのが誰のことを言っているのかは分からないが、俺の見た限りそんな風には見えないがな」
「貴方は専門の方なのですか?」
「いや、違う」
「なら何を根拠に?」
「ただ見れば分かるんだよ。この農地が完全に死んだのかまだ生きているのか。そして俺の目で見たこの農地は後者だ。まだ生きている」
不思議そうな顔をする女。無理もないだろう。俺のこの直感にも似た感覚は他の奴には理解できないことだ。
「ま、いいから見ておけ」
そう言いこの大地に手のひらを押し付ける。
「大地に満ちし精霊よ。時は来た…今こそもう一度この地に豊穣をもたらすがいい」
適当な言葉を吐き自分の魔力をこの荒れ果ててしまった大地に浸透させる。
流石に対象が対象だ。魔法を1度使っただけで恒常的な豊作を約束できるかは不安だったため、多めの魔力を浸透させておいた。
魔力はこの世界を構成する全ての命の源となることもできる。それはこの大地とて例外ではない。
「これで、どうかな」
呟きながら手を離して眼前に広がるかつて農地だったその大地に目をやる。
「何ですかこれ…」
直ぐに反応は始まった。
乾いていた大地は潤いを取り戻し、干ばつしていた部分は空いている部分を埋めるように動きその隙間を閉じる。
初めからなかったかのように綺麗な地面へと変わる。
その様子を見てただ口を開けたままの女。
「これで問題ないか?」
しかしそうして驚いているのはあの女だけではなかった。
ユリもミーナもただ口を開けて驚いているだけだった。
「すご…問題ないどころじゃないよ…」
「凄いですねこれは…」
二人ともただその光景を、ただその農地だけを見つめていた。
「久しぶりに見るもので感動しているのか?」
「そんな…あの専門家の人はもう蘇ることは無いって…もう普通の土地として使うことは出来ないってそう言いきったのに…」
女は涙を流してこの先をただ心奪われたように見ていた。
「この作物は何なの?」
ユリが目の前で育った作物を指さして聞いてくる。
「俺からのプレゼントというやつだ」
ただ農地を綺麗な状態にしただけでは、なんの意味も無い。
それに俺が手を加えた農地が何も無ければそれはそれで気に食わないので適当に作物を育てておいた。
「何も無いというのも味気ないのでな。おまけに育てておいた」
「おまけとかってレベルじゃないですよ…」
ミーナもそう呟いていた。少し作りすぎてしまったかもしれないな。
目の前に広がるのは辺り一面に育った作物の草原だった。
「だが、これで貢物は足りるんじゃないか?」
俺は村人全員が収穫できるくらいの作物を今ここに作ったつもりだ。
「そうですね。これだけあれば十分です。ありがとうございます。シェル」
そうお礼を言ってくれるミーナ。これなら俺が実らせた作物も意味もないわけじゃないな。
それにこの笑顔が見られるのなら俺も動いた甲斐があるというもの。
「これ…全部頂いて良いのですか?」
俺とミーナ達がそう話していると申し訳なさそうに女が切り出してきた。
「俺には必要のないものだ。村人達で分け合うといい」
「どう…お礼をすればいいか…」
頭を下げようとする女。それを手で制する。
「お前が用意できる程度のもので俺を満たすことは無い。別に礼などいらんよ」
「いえ…ですが気持ちだけでも」
「気持ちだけなら貰っておこう。だが、それだけでいい」
結局涙を流して頭を下げる女。
「このご恩は一生忘れません」
「好きにしろ」
そう告げるとユリに視線を戻す。
「これは好きにしてくれていい。分け方なんかも勝手に考えてくれ。それこそそこの女と相談でもしてくれ」
「うん。分かった」
返事を聞いた後に俺はとある方に向かって歩き出す。
「どこ行くつもり?」
「ちょっとな」
目だけで後ろを見たらユリが不思議そうな顔をしていたがそのまま歩き続ける。




