本当はユリも好きと素直に伝えたい
シェルにエル達を呼んでくるように言われたので私たちは酒場を出て二人で家を目指していた。
「シェルってほんとすごいよね」
さっきのあの偉そうな男を組み伏せたのだって一瞬のことだったし目にも止まらない速さであんなことが起きていたのでとても驚いた。
「そうですね。あそこまで強い人は他にいませんよね」
お姉ちゃんと2人で帰り道シェルについて話す。
彼と出会ってからかなり長い月日が経ったような気がしたけど気がしただけで実際はそんなに経ってない。そして彼はいつも私を驚かせてくれる。いい意味で毎回、信じられないくらいすごいことをして驚かせてくれる。
「顔赤くなってます」
「…言わないでよ…」
あの人のことを考えると顔が赤くなる。
私の横で小さく笑うお姉ちゃんの意地悪なところが出ている。
「ユリは中々素直になれないですね」
「…気にしてはいるんだけどね…。シェルのストレスになってないか…とか」
ずっと素直になれなくて気にしていた。
素直にシェルと接しちゃうと何となく負けた気がしてしまうから。
「別になってないと思いますよ。むしろ私たちがあの人にストレスを与えられることなんてないと思いますよ。それにユリが素直じゃない時もシェルは嬉しそうですよ」
「そうなの?」
そう言われて少し驚く。あんな素気ないような反応ばかりしていたため嫌がられているのではないかとずっとそう思っていた。
「知らなかったんですか?」
それは知らなかったな…。恥ずかしくて彼の顔をまじまじと見られないから気付かなかった。
「うん…絶対嫌な気持ちだと思ってた」
「そんなことは無いと思いますよ。シェルはそんなこと思っていませんよ」
お姉ちゃんはどうしてそんなこと言えるのだろうか。ちょっと気になってしまった。
「ほんとに?」
「えぇ。それに貴方の好きなシェルはそこまで器の小さい人ではないでしょう?」
確かに、そうだ。シェルはそんなこといちいち気にする人じゃない。
「うん…いつも偉そうで、でも偉そうなだけあって頼りになって、口は悪いけど…でも優しいそんな人」
うん。そうだ。彼はこんな人。
私の中ではそんな人こそがシェルだった。
「そうですよね。彼はそんな人。ユリの言葉一つで機嫌を損ねたりなんてしませんよ。それどころか俺に歯向かうとは面白いやつだ、と思っていますよ」
彼の真似をしているのかそれを聞いて少しおかしくなった。
「ありがとう、お姉ちゃん。でも、私ももう少し素直になってみたい」
嫌がってないとしても自分に素直になりたいってそう思う。
だって感謝を、好きだって気持ちを伝えることの方が絶対にいいと思うから。
「それはいい心がけですね。シェルも喜ぶと思います」
「喜んでくれるといいな…」
今よりももっと私のことを思ってくれるシェルの姿を想像するとすごく嬉しくなる。
そんなことを話しながら歩いていた道もそろそろ終わりが見えてきた。
あと家までもう少し、というところまで来た時だった。
「…ならあいつがそうなのか?分かった。こちらで何かしらの手を打った方がいいか?」
家から少し離れた遠くの路地にさっきザファルと名乗った男がいた。何かと話しているようだった。
「あれさっきの人だよね?」
何をしているのか気になったのでお姉ちゃんに聞いてみた。
ここからじゃよく見えないしよく聞こえないけど近付く気にもなれなかった。
「そうですね」
どうやらお姉ちゃんの目にもさっきのザファルって人に見えるみたいだ。
それにしてもまだこの村にいるってことはどういうことなんだろう。この村の人じゃないはずなんだけど。
「シェルに負けたのまだ根に持ってるのかな?」
「そうじゃないですか?」
「勝てるわけないのにね」
勝てないのは当たり前で普通のことなのにそれでも挑戦しようとしているのだからちょっと笑ってしまった。
別にこちらの声が聞こえたわけでもないと思うけどそのまま路地の奥に消えていく人影を見送ってから、そのまま家に向かうことにした。
ユリ達が全員引き連れて戻ってきたので食事を始めることにした。代金は先に支払っている。予算内で適当に作れと命令したところ結構な量が出てきた。
「どうでしょうか?お気に召しましたか?」
「悪くない」
「光栄です」
ハリバンは自ら俺たちの座る机まで料理を運んでくると感想を訊ねてきたので率直に思ったことを告げた。
それにしても俺の感想に頭を下げてお礼を言ってくる男とはまた律儀なものだな。
「満足はしないが悪くは無い。まだまだ期待しているぞ」
本当のところは割と美味いがそれを伝えてしまうとこれ以上の成長を見込めないかもしれないので黙っておく。
こんなものは言い過ぎなくらいで丁度いいのだ。
真に美味くはないと伝えればこいつもやる気を出して俺を喜ばせるような料理を作れるように精進するだろうと考えた。
「なら、私が貰おう」
しかしそれはいい返答ではなかったのかもしれない。そう口にして横にいたアグニエルが俺の皿から料理を取っていったからだ。
「何をする」
「シェル様のお口には合わないと聞いて私が代わりに食べてあげようと思ったところですよ」
ニコッと笑うアグニエル。
こいつ…。
「ま、まぁいい」
一度口にしたことを直ぐに訂正するのはどうかと思ったのであげることにした。
「それはどうも」
「…これ…あげる…」
その時反対側にいたユリが俺の皿にハンバーグを置いてくれた。
「いいのか?」
「おなかいっぱいだから…」
もじもじしてそう口にしているユリ。
「そうか。なら有難く貰おう」
感謝していると何故かホッとしたような顔をするユリ。
その顔の意味はよく分からなかったがそんな風に今日という日も終わりへと進んで行った。




