ホワイトドラゴンを倒したらユリの顔に笑顔が戻った
依頼を受けて場所を確認した俺たちは早めに終わらせるためにも早速草原まで出てきていた。
期限はまだまだあるが、次から次に依頼をこなす必要があるからこそこれは手早く済ませておきたかった。
そうしてさっきから俯き気味なユリに質問することにした。
「どうしたんだ?さっきから」
「ごめん…何でもないから…」
「何でもない風には見えないが」
俺がそう言っても顔を上げないユリ。
「シェル」
会話にならないユリに代わって声をかけてきたのはミーナ。
「どうしたんだ?」
「ホワイトドラゴンはユリのトラウマになってるんですよ」
「…」
そう聞いて何か思い出したのか更に顔を下に向けた彼女。
「以前村を襲ったのがホワイトドラゴンで、それからユリはまた襲われないかずっと不安を抱えているんです」
そういうことか、ホワイトドラゴンはモンスターだが人間側の生物でこういう風に危害を加えてくることもあるとは聞く。
「そういうことか。なら俺が殲滅してやる。もうあんなトカゲに怯えなくていいようにしてやるよ」
ユリの頭に手を置いてそう口にする。
「そんなこと…できるの?」
「俺を信じろ。俺を誰だと思っている?」
「そうですよ。シェルなら私たちの怖い思いとか全部消し去ってくれますよ」
「ほんとに…怖い夢も…全部消し去ってくれる?」
「あぁ。全部忘れさせてやるよ」
そう口にして頭を撫でる。俺に妹がいたら丁度こんな風に可愛いやつだったのだろうな。
そんなことを考えていたその時だった。天蓋を覆う黒い影が少し離れたところに見えた。
それはそこそこのスピードでこちらに向かってきている。
「ホワイトドラゴン…」
ユリが呟いた。
それは確かにこちらへ向かってきている。
見渡す限り草木などないからこそ、その姿は俺たちの目によく映る。
「…」
白い体に白い翼。それから瞳も白で何もかもが白いドラゴン。そんなホワイトドラゴン。
にしても向こうから来てくれるとは探す手間が省けたな。
「ひっ…」
それを見て小さな悲鳴を上げるユリ。
「空の王者気取りか。気に食わん。地上も空も、全てにおいて王者はこの俺だ」
吐き捨てるようにつぶやく。俺を差し置いて王者を気取るなど笑わせるものだ。
「グルァァァァァァ!!!!!!」
ドラゴンが俺たちに向けて滑走してくる。
「トカゲならばトカゲらしく地を這い回っていろ。誰の許可を得て空を飛んでいる」
そんなドラゴンを俺たちとの距離がまだまだある位置で適当な氷魔法で叩き落とす。
「ギャァァァァ!!!!!」
咆哮を上げながら空の王者は地に向かって落ちていく。
やがて大きな音を鳴らしながらその巨体は地に打ち付けられた。
実に呆気ないものだ。最強と呼ばれるモンスターでも俺の手にかかればこんなものだった。
「ほら、言ったでしょユリ。シェルが負けるわけないって失敗するわけないって言いましたよね」
後ろを振り返るとミーナがユリを優しく包み込んでいたところだった。
「俺に敗北などありえない。そしてそれはお前達も同じだ。俺の恋人となるのなら敗北など存在しない。俺は勝利そのもの、と言っても過言ではないのだから」
そう口にしてユリの頭に手を置いた。
そうすると彼女は伏せていた視線をようやく上げてくれた。
「シェルが…ほんとに倒してくれたの?」
「あぁ。俺が倒した。言ったろ。負けるわけないって」
「でも、…シェルが負けちゃわないかって…不安だった…」
俺に泣きついてくる彼女。
「怖かったの…大好きな人が消えていかないかって…」
「消えるわけがないだろ。俺が」
安心しろ、そう口にしながらユリを抱きしめた。
「俺がお前を置いてどこかへ行くわけなんてないだろ?」
「でも…ホワイトドラゴンは強いから…やっぱり不安だったの」
涙を流しながら俺の目を見てくるユリ。
「シェルの事が…好きで好きで…大好きで…しょうがないから怖かったの」
「そうか。しかし安心しろ俺が負けることは無い」
「そうですよ。ユリは心配し過ぎです。あれを見てくださいよ。ユリにそう思わせるだけのモンスターすらシェルの前じゃ何も出来ず倒れることしかできなかったんですよ?」
そう言ってミーナは地面に転がっているホワイトドラゴンを指さした。
ピクリとも動かない。
「うん。…そうだね。ありがとうシェル」
俺の胸から顔を離しながら恥ずかしそうに顔を赤らめるユリ。
「恥ずかしいとこ…見せたね…もう大丈夫だから」
「むしろ、もっと見せてくてもいいんだぞ?」
「それは…恥ずかしい…」
もじもじして俺の目を見てくるユリ。
「もっと恥じても構わない。むしろ羞恥を極めた顔をして欲しい」
「それは…ちょっと恥ずかしい…」
更に俯く彼女だった。この辺りにしておこうか。
「それより、ホントすごいよね。ホワイトドラゴン…というかドラゴンって何人もの冒険者…いくつもの冒険者パーティが手を結んでようやく倒せるモンスターなのに…それを単騎で倒しちゃうなんて」
「あの程度倒せなくては最強の名は似合わないからな」
「…あのドラゴンをあの程度って言うのこれまでもこれからもシェルくらいだろうね」
小さく笑うユリ。一般的な感覚はそんなものなのか。俺の感覚はかなりずれているみたいだな。
「大船に乗ったつもりでついてくるがいい」
「うん。ついて行く」
そう言ってにっこり笑ってくれるユリ。
その顔を見ていると俺もやっぱり頬が緩んでしまうのだった。
と、それよりも
「あのドラゴンを何とかしないとな」
呟いてから指を動かす。様々な魔法を一度に発動させ討伐した証である素材が皮袋に入った。
残りの部位は全て燃やすことにした。
これ以上は必要のないものだからだ。
「さて、これで終わりだが2人は用事があったりとかするか?」
一応聞いてみたが二人とも首を横に振った。
なら依頼はこれで終わりだ。二人を連れてあの酒場へと戻ることにする。
帰り道のユリの顔にはもう暗そうなものは無かった。




