強いと言われているホワイトドラゴンの討伐をすることにした
俺がハリバンに正体を明かしてから数日が経ったある日のこと。
「シェルどうしてすぐ寝ちゃったかなぁ?」
俺の横を歩くユリが意地悪そうな顔でそう聞いてきた。
「俺はお前には勝てない、そういうことだ」
ユリの顔を間近で見てしまった俺の意識は昨夜ぶっ飛んでいったまま帰ってくることはなかったのだった。
「ちゃんと次は起きててよね?」
「あぁ。頑張る」
それよりも気になることがあった。
「あれは何なのだ?」
村中の人々が荷物を懸命に運んでいる姿を目にして何なのかを思わず聞いた。
「あ、あれは魔王様への貢物だよ」
その質問にもユリが短く答えてくれた。
「ほう。それにしてはなかなか量が多いように見えるが」
俺も貢物を納めさせてはいたがあそこまでではないし、俺は最低限だけもらっていたから余計に多く感じるのだ。逆にそれによる負担が大きくなるようでは誰も幸せになどなれないだろう。
「聞いてよシェル。今の魔王様すごい徴収してくるんだもん」
怒っているのか目を細めるユリ。そこには先ほどまでの嬉しそうな顔はなかった。
「私達はまだ何とかなっている方ですが、あれのせいで生活が厳しいという人も少なくありませんね」
悲しそうな目をするミーナ。
「それは捨ておけないな」
少なくとも俺はそんな生活をさせようと思ったことは無い。見過ごせるものでは無いが。
「そうでしょ?シェルから何か言ってあげてよ」
「しかし、それをしてしまえば俺は今のこの地位を失ってしまうかもしれない。また魔王として君臨しなくてはならないかもしれない」
「魔王になっちゃったらダメなことでもあるの?」
「せっかく手に入れた平穏を捨てるのは嫌だな。それにこうしてお前達と一緒に居られる時間も取りにくくなるかもしれない」
今の俺はこんな何でもない時間をこそ大事だと思えるようになっていた。頂点にもう一度立ちたいという願いがないでもないが以前よりは思えなくなった。
「それなら…ちょっと困るかな…」
「そうですね。こうしてお話する時間も少なくなるならちょっと嫌です…」
ユリもミーナも悲しそうな顔をしていた。それを見て今すぐに俺が魔王になる、というのはやはりなしの方向で考えたいものだ。
「なら魔王にはなれないな」
貢物をせっせと運んでいる村人を見ながら呟いた。
「…」
ユリとミーナも同じようにただ村人を見ていた。
そうだな。こうは言ったが俺も現状を維持させるつもりはない。これでは暴君だ。
「他に何とか口を出せるとしたら貴族だろうな」
ポツリと呟くように口にした。
「それってどういう?」
「そのままの意味だ。俺とて民が苦しめられているのを見て喜ぶようなやつでは無い」
「貴族になられるつもりですか?」
ミーナの質問に黙って頷いた。
「そうだ。魔王にはなれないしそれに近しい存在になるつもりも今のところはない。それ以外で魔王に口を出せる立場となるならば貴族くらいしか選択肢がないだろうな」
それを聞いてゴクリと喉を鳴らす2人。
「お姉ちゃん…私達貴族になれるみたいだよ」
「…大変ですね。これは…」
「そう身構えるな。貴族と言っても大したものでは無い」
「そんなこと言えるのシェルくらいだよね」
クスッと笑うユリ。
「そうか?普通のことだ。奴らは基本ただぐーたら過ごしているだけの怠け者だ」
「そうなんですか?」
今度は驚きの声を上げるミーナ。
「知らなかったのか?貴族なんて名前だけだ。特段偉いことをしている訳では無い」
少なくとも俺の記憶にある貴族というものはそんなものだった。
「知りませんでした…」
「それなら仕方ないか」
二人を見てさらに口を開く。
「そのためには金が必要だ。とりあえず依頼をこなそうか」
貴族になるためにはとりあえずの条件として金持ちであることというのは俺が定めたものだ。
というより金さえあればなれるのが貴族。
その他に必要な条件というのは特にない。
「とりあえず酒場へ向かおうか。あそこで依頼を受けないことには話は進まないしな」
2人にそう言って頷いたのを確認してから俺達は酒場へと向かうことにした。
「これは…シェル様」
俺が酒場の中へ入ると同時に飛んできて頭を下げるハリバン。力を見せてから随分俺への反応が変わったものだな。
そしてそれを見て店内がざわついた。この男が誰かを贔屓にすることがそれほどないことらしい、というのは以前に聞いた。だからそれに驚いているみたいだ。
「今日はどういったご要件でしょうか?」
「これといった用ではない。ただ依頼を見に来ただけだ」
「そうですか。お気に召す依頼があれば良いのですが」
「とりあえず見るぞ」
ハリバンを手で制してユリ達を連れて掲示板の前まで移動する。
「シェル様」
しかし、そんな俺たちを追いかけてきたハリバン。
「何だ」
「こちらなど如何でしょうか?」
そう言って俺に依頼を渡してくるハリバン。
「ホワイトドラゴンの討伐…ね」
俺が最初に討伐させろ討伐させろと言っていた懐かしいモンスターだ。
あの頃からそれほど時間は経っていないように思うがそれでも懐かしく感じる。
「これにする」
報酬も中々いい数字だ。受けて損するものでもないしこれにしよう。
「ホワイトドラゴン討伐するの?!」
俺がこれにしようと口にしたらユリは逆に驚いた。
「どうしたんだ?」
「どうしたじゃなくて…ほんとにホワイトドラゴンなの?」
その顔は不安そうな表情を浮かべていた。
「ほんとにほんとだ。何か問題でもあるのか?」
「大有だよ…すごい強いって言われてるんだよ?」
なんだそんなことか。
「俺の敵ではない」
「シェルが強いのは分かるんだけどホワイトドラゴンもすごい強いんだよ?」
そいつがどれだけ強くても俺の敵ではないのだ。
「俺を信じられないか?」
「…それは…」
「何かあったのか?」
こいつと同等の強さを持っている人間軍との戦闘、前の防衛戦の時でもここまで避けたがっていたかったように見えなかったが…ホワイトドラゴンとの間に何か思い出したくないことでもあるのだろうか。
「何も無いけど…でも何だか嫌な予感がするの」
「安心しろって」
心配するユリを少し強引に黙らせて依頼を受ける手続きを進める。
「こちらにサインをお願いします」
「ほら」
ハリバンと会話しながら手続きを進める、その間もユリは不安そうな顔を辞めない。
「期限は一週間後までになっています。お気をつけください」
「問題ない」
そう受け答えして依頼を手に取るとユリ達を促して外に出ることにした。
しかしユリの顔は晴れない。後でそれとなく聞いてみよう。




