勇者が弱ければつまらないので俺が育てることにした
試験会場から戻ってきた俺はユリ達に結果を伝えた。
「ふふふ…」
「…レベル100?!」
一瞬自分が何を見たのか理解出来てなさそうな顔をするユリだった。
「そう恐れるな」
「そう言われても…普通びっくりするよ。だって飛びすぎでしょこれ…」
それだけ俺は凄いことをしてしまったらしい。
「俺は空もレベルも飛び越え、頂点に立ってしまう呪いにかかっている」
「でもちょっと前まで底の底の底の底の底の底だったじゃん」
「今は頂点だから構わないのだ」
そう言われても俺は気にしない一種の境地に今立っていた。
「でもまだ先は長いよね。まだレベル100だよ」
「そう焦るな100もあれば底は抜けた。後はのんびり駆け上がるだけだ」
「でもよく考えてみてよ。まだあと899も上げないとアグニエルと同じレベルじゃないよ?」
「人間の国を1つ破壊してこようか。何、秒もいらん」
「冗談か本気か分からないの怖いんだけど…」
「冗談だ。俺は人の輝きこそを見たいのだ。自ら滅ぼすことなどせんよ」
窓の外から村を眺める。
いつもと変わらない日常がそこにはあった。
ノイ、エル、リルとリアの4人が買い物から戻ってくるのが見えた。
「ユリ」
「どうしたの?」
「ついてこい」
「ついてこい?って?」
「いいから、ついてこい」
行き先を伝えずにユリを連れて村を出る。
近くにあった1つの人間の村に近付く。
ユリには既に俺の魔法をいくつもかけ俺より少し弱い程度まで強化してある。
あの時俺が彼女7人に使用したものと同じだ。
「ほんとデタラメだよね…こんな魔法使って息切れも何もしないって」
「俺にあるのは無限の魔力だ。理解したか?」
「理解してるけど…こんなありえないの見せられたらやっぱり思っちゃうかな」
「まぁこれは俺だけの特権だ。理解出来なくても不思議ではない」
会話しながら村に向かう。
「お前…魔人か!」
人間の門番が声をかけてきた。
「あぁ。そうだ」
「な、何をしに来た!」
槍をこちらに向けその足を震わせている男。
「俺に対して恐怖を抱いているのか」
足音を鳴らしながら男に近付く。
「く、くるな!」
槍の先端を俺に突きつけてきた。
「う、うぉぉぉぉぉ!!!!!」
そのまま突き刺してきた。しかし
「そんな…馬鹿な…」
俺に傷一つ付けることなく槍の方が折れる。
「そう急くな。今日はお前達の様子を見に来ただけだ」
「…や、辞めてくれ。…俺には家族がいるんだ…」
「そんなこと知ったことではないし俺は話をしに来ただけとそう言った」
呆れてモノも言えなくなりそうだった。話を聞いてほしいものだ。
「中に入れろ。何もしない」
「入れられるわけがないだろ!」
「なら門を破壊してでも中に入る。まだ開けぬか?」
開けないなら開けないで構わないが少し強引な手段に出なければならない。
「これはせめてもの慈悲だ。理解してくれるか?」
そう告げると男は俺に道を開ける様に横にずれた。
「…くそう…」
「それでいい」
悔しがりながらも俺を中に迎え入れる男。
「命を無駄にする必要は無い」
「…」
ユリも付いてくる。
そうして中に入った時
「…!」
俺の後ろを歩くユリに攻撃しようとした男。
「甘い」
「ごふっ…」
軽く腹に突きを入れてその場に崩れさせる。
「抵抗したユリに殴ってもらおうなどと思うなご褒美を受けるのは俺だけで良い」
「ご褒美って何よ」
顔を赤くしてそう言ってくる彼女だがそんなもの決まっているだろう。
「お前の甘いパンチを貰うのは俺だけで…」
「変態」
「どこが変態なのだ。男ならば誰だってお前に殴られたいものだ」
「それが変態なの」
さっきよりも顔を赤くしてそう口にした。
「俺に向けられる暴言ほど俺をそそらせるものは…ごはっ!」
「その口閉じないともう1発殴るよ?」
にこやかな笑顔でそう告げてくるユリ。
「望むところだ。もっと俺を殴れ俺を愛しろ俺を尊敬しろ」
「シェルを喜ばせそうな気がするから辞めとく」
にっこり笑ったままスタスタ歩き始めるユリ。
「おい、待てよ俺を殴れ」
「…変態」
「おぉ…あぁ…」
今ゾクゾクきた。
「新たな世界への扉が見えかけた」
「その世界は危ないと思うから帰ってきて」
呆れたようにそう返してくるユリ。
その彼女の背後から近付いてくる村人が見える。
「…何の話をしているんだ。それより魔人が何の用だ」
そうして俺たちに声をかけてきた。その顔はかなり強張っている。
「人間の村に入って来た癖に何もしない魔人の不審者2人…兵士は何をしているんだ…」
「だ、誰が不審者よ!」
ユリは言い返しているがそういう話をしている場合じゃないだろう。
「俺のユリは世界一可愛いよなという話をしていたところだ」
「…な、何言ってんのよ!」
顔を赤くして俺の胸を叩いてくる。
「そうやって健気に否定しようとしているが裏では俺をこれ以上なく求めているのは可愛いところだ」
「…」
顔を赤くして黙り込むユリ。
「…化け物、それで何の用なんだ」
俺を睨み化け物呼びする男。
そいつには見覚えがあった。
「お前達が俺に抗う気力を失っていないか見に来たのだが、お前は失っていないようだな」
「…ノイは必ず返してもらう。何としてでも」
俺を睨むように見てきたルークと呼ばれる勇者。その握りしめられた拳はわなわなと震えている。
「あいつは俺のものだ。残念だったな」
「…それでも…返してもらう」
この話をこれ以上続けるつもりはない。
「して、武器集めは進んでいるか?俺が貴様に渡したのは宝の地図だ」
ユリの頭を撫でながら改めて説明してやる。伝説級の武器の隠し場所、それが書かれた紙をあいつには渡した。
「あぁ…進めてるよ。悔しい話だがお前がくれた地図は正真正銘本物だった。いくつかは既に手にした」
そうしてその手に持った武器を俺に見せてつけてくるルーク。
「火の名刀『灼炎』だな」
「効果は本物だった。大幅に火属性魔法を強化することが出来、武器に纏わせると全てを焼き尽くすほどのものになる」
「使い勝手はどうだ?」
「悪くない。それより、何で俺にこんなことさせる」
「言ったろう。今のお前だと俺の前に立ったら秒ももたないからだ。せめて1分は耐えて欲しいところだ。つまらない勝負にされると失望だからな」
目を閉じて笑う。
「…俺なんて目に入ってないってことか」
「俺の目に入ろうなどとおこがましい。わきまえろよ雑魚が」
「シェル、また偉そうになってるよ…」
「つまりそういうことだ。強くなれ。お前には俺を楽しませて欲しいからだ」
ユリに言われて言い直す。俺に挑もうとする奴を見つけたら毎回テンションが上がってしまうのは俺の悪い癖だな。
「…俺が勝ったらノイを返してくれるか?」
「お前が勝つことなどない。俺の圧勝だ。俺の必勝だ。例えお前がどこまで成長しようが俺に勝つことなどありえない。それはお前に限った話ではない。人間であるうちは俺を超えられない」
その言葉を聞いて頭を掻きむしるルーク。認めたくない話なのだろう。
「また、様子を見に来よう。その時まで精進しているがいい」
後ろを振り向き帰ろうとした時だった。
「待てよ…」
灼炎を構えて飛び込んできたルーク。
「やるではないか」
振るわれたその決死の一撃。
それが俺を傷付けることはやはりなかった。
「化け物かよ…」
奴の刀身は俺の左手で受け止められたからだ。
「諦めるか?それもまた選択ではあるが俺を楽しませてくれ」
左手で灼炎の刀身を握りしめ砕く。
「…簡単に名刀を砕くなんて…」
「俺にできないことは無い」
武器のなくなった男をこかしその肩に足を載せる。
「ちょっと…シェル…」
俺の袖を掴んでくるユリだが辞めるつもりは無い。
「勇者の教育は俺の役目でもある」
虚空に手を伸ばし火の魔剣を生み出す。
「何だ…この熱さは…」
「魔剣はそう難しい魔法ではない。しかしだからこそ使用者によって生まれる威力差というものは顕著に出るものだ」
まだ近付けてもいないのにすごい汗を流しているルーク。
「お前に癒えぬ傷を負わせてやろうと思ってな。勇気を見せてくれた礼だ。俺もお前にはこの傷を与えてやろう。水を浴びる時、着替える時…なんでも良い自分の体を見る時に思い出せ。見る度に思い出せ。俺の顔を俺の存在を。俺の魔法を俺の全てを思い出せ。お前のそばには俺があるのだ。そして復讐に燃えろ。怒りを絶望を勇気に変えてまた俺の前に立て」
「ぐぁぁぁぁ!!!!!!」
ルークの絶叫が響き渡った。
「よい悲鳴ではないか」
直接傷をつけた訳では無い。
剣の先から出る微量の炎で奴の胸の部分を薄く切った。
しかし、それで十分だった。
「くそが…」
胸元に残る火傷の跡。
それが癒えることはないだろう。
「俺を憎め俺を恨め。それこそがお前を俺の前に導くものだ」
肩から足を除けてユリとこの村を後にする。
後ろは振り返らない。今の奴など取るに足らない存在だ。




