もう一度最強と呼ばれるための第一歩
依頼にある目的を達成するために草原までやってきた俺達。ユリ達は待たせているのでここにいるのは俺とアグニエルそれからハリバンの3人ということになる。
故にユリ達に相談などしていないが俺はこいつには正体を明かそうと考えている。現状ではあまりに不便すぎるからだ。
「お前には俺の真の力を見せておこう」
「真の力…?」
訝しむハリバン。
「我が名はシェルヴィ。かつての魔王だ」
「何を言ってやがる」
ハリバンがそう答えたところ天から舞い降りてきたブラックドラゴン。
黒い体を持ったそのドラゴン。
「…何でブラックドラゴンがこんなところに…アグニエル様…一旦撤退した方がいいのでは?」
「くくく…そう惑うな」
降りてきたドラゴンに近付く。
「おい、全属性…危ないぞ。戻ってこい」
「こんなに可愛いのにか?」
そう告げて首を差し出してきたドラゴンの頭を撫でる。俺が触るたびに世界最強の種族と呼ばれるドラゴンは喉を鳴らして喜ぶ。
「…まじかよ…世界最強のモンスターだぞ…」
ハリバンの顔が驚愕に歪む。
「貴方は疑問に思わなかったのか?シェルが向かう先で現れる魔王様について。彼が向かう先で魔王が現れる理由というのは簡単なものだった」
「…あいつ自身が…その魔王だったから…って訳ですかい…」
「俺をアイツ呼ばわりする不敬…どのようにして償うか。考えておけよ?」
腕を組みながらハリバンにそう告げる。
「本当に…魔王なのか?」
「もう少し証拠を見せてやろうか」
指を鳴らす。
刹那空に浮かび上がるのは紅い月。
魔族が力を最大限に発揮できる条件である紅い月。俺はそれを発現させた。
「…馬鹿な…紅い月…」
もう一度指を鳴らし月の色を消してから先のドラゴンに鳳凰結界をかける。
「鳳凰結界…だと?風属性最強魔法…ではないか…」
もう一度指を鳴らす。
瞬間訪れる地面の揺れそれから空から舞い降りる雷の槍の数々。それがドラゴンを襲う。
しかし土煙が晴れたそこには無傷のそれの姿があった。
「…地震と…神の裁きだと…?」
「魔法名くらいは知っているようで良かった」
「まさか…本物の魔王様なのですか…?」
「ずっとそう言っている」
「信じられないかもしれないが彼こそが…原初の魔王だ」
アグニエルもそう補足すると、少し後ずさってから秒速で土下座するハリバン。
「今までのご無礼をどうかお許しください!なんとお詫びすればよいか!」
「顔を上げて立て」
「お見せする顔がありません!」
「いいから立て。これは命令だ」
恐る恐る立ち上がる男。その顔には恐怖が浮かんでいた。
「はい…」
「俺は寛容だ。故にお前の無礼は許してやる」
「…ありがとうございます」
「触れるな。俺に触れていいのは俺が認めた者だけだ」
俺の手を取ろうとしてきたのを振り払う。
「し、失礼しました」
「それとその気色悪い話し方をやめろ。今まで通りで構わん」
「…何と恐れ多い…」
「今更お前のような塵のような存在の不敬の一つや二つの上塗り俺が気にするとでも思っているのか?貴様の言動で俺の心を動かせる、など思い上がるのも控えるがいい」
「少しも思いません!」
「ならば話し方を戻せ、全属性のハズレ枠扱いしても構わんぞ」
「今のを見てそれが出来る人はいないと思うけど」
アグニエルが苦笑する。
「それよりももっと早く言ってくれたら良かったのですが…」
彼女の口にした通り中々話し方は抜けないらしいな。
「俺が魔王だと告げてお前は信じたか?そもそも俺は最強だ、最強だ。と口にしていたが信じなかったでは無いか」
「それは…仕方なく無いですか」
確かに言うだけなら簡単だな。
「分からんでもないからその事について問い詰めるのは辞めてやる」
「でも、どうして…今その事を?」
「お前には話しておこうと思ってな。流石にレベル2のまま暮らすつもりは無いし。不便すぎるのだ」
「魔王にはならないのですか?」
「もう別のヤツがなっているししばらくはそいつに好きにさせることにする」
「でも貴方が生きていることを知れば黙ってはいないのでは?」
「その時はその時だ。誰であろうと俺には勝てないのだから指先ひとつで潰してやるだけ」
「頼もしい話ですね。それは」
「仕方ない話だ。俺は最強だから」
「しかし、あのブラックドラゴンは一体?」
「俺のペットだ」
「絶対懐かないと言われているドラゴンの…それもブラックドラゴンをペットに?」
「俺の圧力を前にしてペットになるしか道はないと考えたのだろう。可愛いやつだ」
キューンと鳴いて俺に頭を差し出してきた。
「でも…いつこんなのペットにしたんですか?」
「少し前だ。アグニエルと共に野山を駆け回り捕まえた。お前に俺の実力を見せるためにな」
「…分かりました。これを見せられては私にはもう何も言えません」
「そうだろうな。さて俺のレベルを999にでもしておいてくれ」
「それは無理ですね」
「何故だ?」
「私に出来るのは試験の取付です。任意のレベルに書き換えというのは出来ません」
「なら、それでいい。取り付けておいてくれ」
「…それでも、何度か受けてもらうことになるのは理解してください。いきなり999への試験というのは不可能なのです」
「分かった。レベルが上がるのならそれでも構わん」
「ご理解頂けて幸いです」
「俺も鬼ではない」
その時依頼をこなしていたアグニエルが戻ってきた。
「これでいいかな?適当に倒してきた」
ハリバンに革袋を渡すアグニエル。
「問題ないですよ。むしろ依頼された数より多いくらいですね」
それを受け取り中身を確認してその言葉に答えるハリバン。
「なら戻ろうぜこんなところにいても仕方がない。任務は終わったわけだしな」
「そうですね。そういえばシェル様とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「好きにするがいい」
「では、シェル様とお呼びいたします」
そう答えたハリバンを見て俺は二人を連れて酒場へと戻ることにした。
ドラゴンには合図を送り好きにさせることにした。




