5人の人類最強vs最強の魔王
まさか戦力を集めて一点突破してくるとは思わなかった。
想像していなかったことが起きたが、しかしそれでも余裕で間に合った。
「待たせたな」
「貴方は…」
「お前の追い求めた存在だ。お前が恋焦がれお前が憧れた存在」
そう言いながら目の前の男の手首を握りつぶして粉砕した。
「ぐぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
慌てて俺から距離を離す金髪の男。
「まさか…ありえない…ありえていい訳が無い!その黒い長髪に仮面を付けた7人…」
思わぬ乱入者を見て取り乱す金髪。
「お前は…世界の狭間に消えたはずだろ?!」
「あれで俺を倒したつもりになるとは頭にお花畑でもあるのか?悪いがお前みたいな男に花園は似合わない」
声に出して笑う。
「やれ」
短く指示を出した。
予め伝えておいた指示通りに動く7人。
数秒後…ここに立っていたのは俺と金髪だけになる。
「…嘘…だろ…?」
へなへなと座り込む男。
「現実だ。絶望せよ」
「9万だぞ?9万!それと我ら4人をこの一瞬で倒したと言うのですか?!」
「数の問題ではない。俺の愛し子にかかれば世界すらも敵ではない」
「馬鹿な…デタラメすぎる…」
後ずさる男。
「これが…かつて世界…いや…次元最強の魔王と呼ばれた男…」
「数多の勇者を屠り続けた…魔王…」
「そうだ。よく勉強してくれているようで俺は嬉しいよ。しかし勉強不足だったな」
「何がだ…」
「この俺という存在にお前たちのような雑魚五人で挑もうとしたことが、だ」
「我々が…雑魚?」
「周りを見ろ。俺が手を出さなくてもこのありさまだ。俺に勝てるわけがないだろう?もっとも一瞬でも勝てると思われたことが俺は心外だよ」
「嘘だ…あり得ない…」
男の顔はいい感じに恐怖に染まってきていた。
「そうだ。絶望を捧げ続けよ。お前は抗い続けろ。力をつけてもう一度俺に倒されにこい」
瞳を閉じると男が吹き飛ぶ。
ここではない。どこかへ、人間の国へ返すように俺が吹き飛ばした。
「貴方が…歴代最強の魔王…」
後ろからの声。どうやらアグニエルが声を出しているらしい。
「待たせたな。準備をしていてな。少しでもかっこよく登場できるタイミングを伺っていた。許せ」
振り返り彼女の顔を見る。
「…あ、…もしかして貴方…シェ…」
「その先は言うなよ?気付いたとしても口にするな」
アグニエルの口に立てた人差し指を押し付ける。
「訳あって俺はのんびり暮らしたいのだ。その平穏を壊すようなことは辞めよ」
そう告げて傷付いていた部位に触れて治療してやるとアグニエルから離れた。
「…」
「未来で待っている」
そう告げ7人と共に帰るべき場所に戻る。
「…何今の…私…あの敵を倒したの?」
自分の手を見て驚いているユリ。
「倒したのはお前だが、お前の手柄ではないだろうな。そして俺の手柄でもない」
酒場の隅そこから戻ってきたアグニエルに目を向ける。
「あいつの手柄だ」
「アグニエルさん?!勝ったのですか…?」
彼女が扉を開けた時の音で気付いたのか部下達が詰め寄る。
「…私は負けた。何も出来なかった…魔王様の…お陰だ」
その言葉を聞いて場の空気が静まり返った。
そんな中恐る恐る口を開く部下の男。
「あのお方が復活した、というのは本当の話なのですか?」
「あぁ…間違いない。伝説の七本槍を引き連れていた。そのお方達も信じられない強さで…周りの五刀剣神を倒していた。そして9万いたはずの人間は全員倒れていた。これは全て一瞬の内に起こっていた」
「…急に敵の気配が消えたのはそういう事だったんですね?」
1人戦況の場面を見ていた軍師がそんなことを口走っている。
「…私だってまだ信じられない」
一通り話してからアグニエルは俺達の場所に近付いてくる。
いや…その視線は俺だけに向けられていた。
「そんなに見つめて俺の事でも好きなのか?」
「そんな訳ねぇだろ!思い上がるのもその辺にしておけよ全属性!」
割と本気で切れている部下。
冗談の通じない奴だ。
「いや…私は…恋をした…」
「え?」
呆然とする部下。
「私は…恐れ多くもあの方に恋をした…」
そう言って顔を赤らめる彼女。
「ほう」
「でもそれはシェル…にじゃない。私は…あの最強の魔王様に恋をした」
「俺に恋してくれても構わぬが」
そう言うとユリとミーナがほぼ同時に後頭部を殴ってきた。
「何なのだ…」
「気付けば手が動いてた」
「私もです」
なんて事を2人して笑顔で言っている。
「君は面白いやつだな…良かったら私を…パーティに加えてくれないか?」
騒然とする店内。
「な、何を気が狂ったことを言っているんですか?貴方は!正気ですか!」
部下に肩を掴まれて揺らされているアグニエル。
「いや、私は正気だ。だからこそ…私は夢を憧れを追いたいとそう思う」
そう言ってその手を振り払って俺の近くに立った。
「シェルの近くならばその夢に近付けそうな気がして、ダメだろうか?」
「お前がそう言うなら勝手にしてくれ」
「ありがとう。ならこれからは世話になろうと思う」
進む話についていけない男が声を荒げる。
「アグニエルさん!四天王の方はどうするつもりですか?」
「辞める」
「辞めるって…そんな全属性のパーティに入るためにですか?」
「ダメか?」
「貴方の活躍を待っている人もいるんですよ?」
「私では力不足だ。それにクシナ様の発見。それこそが今の私に課せられた使命でもあると思う。それが…私に出来ることだ」
もう話さないと言うように俺だけを見る。
「世話になってもいいだろうか?」
「俺の世話をするなら構わない」
「貴方の世話役は私ですよ!」
ノイがそう言ってきた。そうだったか。
「ならば俺に料理を作るがいい」
「料理担当は私とリルとリアじゃないんですか?」
エルにそう言われた。
「なら俺の女になるがいい」
「…お、女?」
こればかりは驚いている。
「悪いな。俺には大事な人が既にいるからお前は…」
「あ、気にしないでこの人態度だけは尊大だから」
ユリに口を塞がれながらそう言われた。
「シェルは面白い人だ」
クスッと笑うアグニエル。
「まぁ、という訳で俺達はお前を迎えよう」
「アグニエルさん…」
「止めてくれるな。お前達は新しい四天王下で働けばいい。離れていても目的は同じだ。魔王軍の再興。それこそが私たちの目的だろう?」
「分かりました…」
俺を睨む部下だがそれ以上はしてこなかった。
「…」
この異様な空気の中誰も口を開かない。
しかし
「アグニエル様…こいつを甘やかしちゃダメですよ…ここまで来れたのも介護…ここから上にいくのも介護じゃ周りに迷惑ですよ」
店主だけは口を開いた。
「不正はしない。それで問題ないだろう?それにお前のそれは決めつけだ。恥ずべきものだとは思わんのか?」
「そうだそうだ。決めつけはダメだと言われてるぞ髭面」
「シェルも煽るな」
今度はアグニエルに口を塞がれた。
「分かりましたよ…」
そう言って俺から離れていく店主。
俺達も酒場から出ることにした。別にこれ以上用事がある訳では無いし。
「シェル、少し付き合ってくれないか?」
出てしばらく歩いたところで俺の袖を掴み控えめにそう行ってきたアグニエル。
「先に帰ってろ」
ユリたちに向けた言葉。直ぐに聞き入れて戻ってくれる。
「感謝する」
「あんたにパーティに入ってもらった俺の方が感謝だよ」
綺麗な夜空の下広場までやってきた。
ベンチに座るとその横にアグニエルも続いた。
そのまま無言で抱きついてくるアグニエル。
「離しませんから…」
「何の話だ」
「言わなくても分かりますよね?気付かないとでも思ったんですか?」
顔を赤くしてそう聞いてくる。
「話が見えないな」
「シェルですよね。歴代最強の魔王って」
「…」
「無言ってことは認めるんですか?」
「面白いことを言う人だ」
ベンチから立ち上がる。
「待ってください。話は終わってません」
だが直ぐに引き戻された。
「…」
「…」
次の瞬間俺の手の甲に何かが触れていた。
それも一瞬
「ご、ごめんなさい…その…」
「俺のカリスマのせいだろう気にするなよ」
「求めていた存在が目の前にいて…抑えきれませんでした」
俺の正体に気付いているのか。
躱そうと考えていたがこれは無理だな。
「いつから気付いていた」
「あなたに出会った時からです」
「そうか。それと話し方は崩していい」
「分かった」
「何故確信した。俺が別人だった時お前は取り返しのつかない事を今したぞ?今の行動は許されざるものだ」
「あの現場で出会った時に確信した。この人がそうだって」
「…」
「もう殆どの人は貴方の顔を知らない。でも私だけは知っていたんです。この人が私の探し求めた人だって」
「なるほどな」
「そもそも全属性で登録したこと事態が普通ではありません。そして…天の目。それで確信した。貴方が世界最強の存在だと。それに隠すつもりがあったのか分からないけど、あなたが引き連れてきた7人。いつもあなたの周りにいたのも7人。そして極めつけはあの時シェルの隣にいた黒髪の子の反応。私が戻ってきた時すごい緊張してたから」
「ユリのことか…あいつはお仕置きしておかないとな」
「そもそもあんなにも動いて誰も正体に気付かないのが不思議だ」
「よっぽど俺を最強だとは認めたくないんだろうな。ずっと言われてきたよ全属性は外れだってな」
皮肉げに笑う。このまま自由に動いても案外みんな見逃すかもしれないしな。
「認めた、ということでいい?貴方が最強の存在だって」
「あぁ認めよう。俺は天下無双の男だと」
「私を弟子にして欲しい。何でもするから」
「いいよ。俺も前線で動き回るのに飽きてきたところだ」
「ありがとう」
そう言って俺の胸に顔を埋めてくる。
「その代わり俺のためにしっかりと働くことだな」
「分かった」
今日はいい夜になりそうだな。
そう思いながら少し瞼を閉じることにした。
さて明日から少しくらいは忙しくなるかもな。




