人類最強の五人の登場
時間が経って夜になったので約束通り指定の場所に来ていた。
「いよいよだね」
「そうだな」
一応天の目で確認したが敵の配置は予め言っておいたものと変わらない。
俺達は今南にいた。
何かが起こる様子はまだ見えない。
「勝率はどの程度あるんだ?」
「100%」
アグニエルの質問に答えた。
「自信があるみたいだな」
「これ以上の作戦はないからな」
俺も詳しい訳じゃないがこれで勝てないなら何やっても勝てないだろう。
そもそも俺がいて失敗など本来はありえない。
「それより人員集めご苦労」
「ご苦労…って」
苦笑いを浮かべるアグニエル。
「おっと、悪かったな。助かったよ人員集め」
俺の言葉遣いを特段気にした様子は見せない彼女。
「別に構わない。ここを死守したいのは我々も同じだからな」
「アグニエルさん」
その時彼女に声をかける部下の男。
「確かに人間の存在が確認できます。まだ遠いですがその男の言う通りこちらに向かってくるでしょう」
「数は?」
「まだ分かりません。でも、そんなに多くない気がします」
「ここまではシェルの予想通りか。あれが本攻撃ではないということ。各砦にそれなりに戦力になるやつを配置しておいてよかった」
彼女は何とか話をつけて四天王を全員集め各砦に配置してくれた。まさか来るとは思わなかったな。
そしてそれを考えると今回ばかりは俺の出番もないかもしれない。
「シェル、私はそろそろ砦の方へ向かう。後は頼んでいいか?」
「あぁ」
「喧嘩するなよ」
部下と俺にそう言い残して酒場を出ていく彼女。
「ちゃんと攻めてくるといいな人間が」
「間違いなく攻めてくるさ。あいつらは」
部下の嫌味に答える。
それきり会話が途切れる。
ここにいてもつまらないのでそろそろ宿にでも戻ろうかと思った時だった。
「な、何だこれは!」
酒場が一気に騒がしくなる。
「ば、馬鹿な…」
部下がそう呟いている。
「どうしたのだ」
流石に異常を感じ奴の隣に移動した。
「…これを見てくれ…」
平らな鉱石に映る映像。それに目をやる。
そこにいたのは5人の人間その後ろには数えるのも嫌になるくらいの人間。
「解析!どうなってる!」
怒鳴る部下。
「わ、分かりません…。何だこれ…魔力がどんどん高まる…敵の数も…1万…2万…3万……9万?!」
「9万だと?話が違う!」
俺の胸ぐらを掴む部下。
「貴様!読み違えたな?」
「あぁ、そうみたいだな」
「そうみたいだなではない。…終わった…」
そう言って崩れ落ちる部下。
「お前は分からないのか?この魔力量。間違いない。さっき映ったあの5人は五刀剣神だ。最強の人間、その5人だ…こんなの…勝てるわけがない。それよりアグニエルさんに連絡しないと…撤退を…」
「まだ負けと決まった訳では無い。あの女を信じようぜ」
「何でお前はそうやって呑気なんだよ…終わったんだぞ?!全部!」
勝手に終わらせるなといいたいところだが話を合わせておこう。
「あの女が泣くぞ?少しばかりはあの女が無双して五刀剣神全員倒す姿を想像しろ」
「出来ることと出来ないことがあるだろ?巫山戯るのもいい加減にしろよ」
どうやらあいつでは荷が重いかもしれないな。仕方ない。もう少し様子を見たかったがそういうわけにもいかなさそうだった。
「分かったよ。責任取って俺が代わりに戦場に立とう」
脱いでいた上着を羽織り酒場の扉に向かう。
既に酒場内は葬式状態だ。
「…さて手伝ってやるか」
「何をしている!退くな!逃げるな!」
アグニエルはその砦の屋上で兵士たちにそう声をかけていた。
しかしそれは全て無意味だった。
「あぁぁぁ。無理だ…あれは無理だ…逃げろォォォォ!!!!!」
逃げ惑う兵士たち。
その視線の先には9万の人間。それから人間最強と呼ばれる五刀剣神の5人。
9万の人間よりその5人が醸し出す一人一人の空気の方が重さを感じられるほどだった。それがここに5人全員いるという事実は何よりも彼女を押し潰そうとしてくる。
(まさか…この南を一点突破するつもりなのか…?)
「アグニエルさん逃げましょう!あれは無理ですよ!」
「こちらアグニエルだ。応答せよ」
それを無視して他の四天王に南に来て欲しいと連絡するアグニエル。
諦める訳にはいけないが…しかし1人で対応するのはまた無理な話だった。
「…!」
その時だった。砦の一角が吹き飛んだ。
魔法だった。
砦を包むように貼られた魔法障壁を貫通し建物を破壊するその一撃は5人のうちの1人が放ったものだった。
「ひ、ひぃぃ!!!!」
「うわぁぁぁ!!!」
そしてその一撃を受け屋上から落ちていく兵士。
その数は少なくない。
「くそ!」
このままではいけないと思い始めたアグニエルは魔法で応戦する。
しかし
「…嘘…」
5人には勝てなかった。
その一撃はかき消された。
「ほら、無理ですよ!逃げますよ!全部あの全属性のせいにすればいいんです。そうすればアグニエルさんは助かりますから!」
「…ここで私が食い止めずに誰が食い止める!」
そう言われてもアグニエルは退かなかった。
「死んでしまいますよ!」
「覚悟の上だ!」
「…あんた狂ってる…全部あいつのせいにすればいいのに…」
「逃げるなら先に逃げろ。私はここで食い止める」
「もう魔王軍は終わりなんだよ…終わりなんだよ…伝説の魔王クシナ様がいなくなってから転がり落ちる一方だ…」
そう言って逃げ出した兵士。
1人が逃げてからは早かった。
最終的にここに残ったのはアグニエル、彼女一人だけだった。
「ここにいても仕方が無いな」
そう言い残し下に降りた。
そして5人の五刀剣神を1人で迎え撃つことにした。
いや、正確に言えばその後ろにまだ9万の人間がいる。
「残ったのは貴方だけですか」
「そうだ」
五刀剣神のうちの一人…リーダー格のような金髪の男が1歩前に出てきた。
「まさか我々が一点突破するとは考えていなかったのですか?」
「…」
「確かに我々がこうして1箇所に集まり突破しようとするのは非常にリスクが高い。最強の魔王が復活したという噂は聞いています。だからこそ我々もどうするべきか考えました。しかし結果一点突破することにしました。なぜだか分かりますか?」
「…さぁ…?」
「我々5人ならあの最強の魔王にもトドメをさせるとそう考えたからです。何百年も追放されたならば最強の魔王と言っても弱体化してるはずだと踏んだからです」
それを聞いて笑うアグニエル。
「お前達はあの方を舐めすぎだ…お前ら5人でもあの方には手は届かない」
彼女の目からはそれはとても叶わない夢のように見えた。だからこそ笑う。
「状況を理解しているのですか?」
「ここで死ぬ準備は出来ているのか」
「…噂の最強の魔王や他の四天王に合流されても面倒だ。殺ってしまうぞ」
5人のうち3人の言葉。それを聞いてアグニエルは剣を抜いた。
「例えどれほどの絶望が待ち受けていようとも…この森を守れない…失うことが何よりも怖い」
「馬鹿なのですね」
そう口にして各々武器を手にする人間たち。
「…焼き尽くせ!」
アグニエルの魔法が一番最初に発動した。
周囲一帯を焼き野原に変えるのは彼女の魔法。
しかし、敵の5人も同じく魔法を使用する。
その結果は見るまでもなかった。
「ぐっ…」
一瞬にして魔力切れで魔法が解けて剣を取りこぼすアグニエル。
そしてついに膝を地に着いてしまった。
額からは血が垂れ流れていた。
そして彼女の目の前に立つ最強の5人。
誰も傷を負っていない。
「…殺してくれ…。私の負けだ…」
「そんなこと叶うと思っているのですか?」
「…」
「貴方は中々顔がいい。情報を吐いたあとはそこそこ稼げますよ」
「…辞めてくれ…嫌だ…」
なんの事を言っているのかは分かる。分からないわけではない。
「安心してくださいよ。初めは慣れないと思いますが次第に慣れますよ」
そう言って差し出される右手それが私の手首を掴む。
「おおっとそいつは出来ねぇなぁ」
しかしその男の手を更に掴んだ者がいた。
驚愕に目を見開く。
「貴様は…なんて魔力だ…」
人間の言葉が漏れた。
「あ、あなたは…」
突然のことにアグニエルよりも人間たちの方が驚いていた。
目の前には腰に届くくらいの黒い長髪。それから…周りには仮面をつけた7人の魔人を従えた人物、それがそこに立っていた。
「最強のヒーロー参上、とでも口にした方がいいか?」
口から漏れる笑い声は微かにだが彼女をの耳に届いていた。




