次の攻撃に備えて作戦を立てる
俺が酒場に戻ったころにはアグニエルの部下達もいた。これが集めた人ということなのだろう。
「アグニエルさんこいつ本当に信じられるんすか?」
その中の男がやはり俺を指してそんなことを口走る。
「私は信じる。朝から昨日の現場を調べていたのだ。少なくとも一般人の頭をしていないと私は考えている。勝利の余韻に浸る流れの中、まだ攻撃は終わっていない、などと考える時点で一般人ではないだろう。私は賭けてみたくなったのだ」
「は、はぁ…」
俺を見る周りの目はやはり厳しいものだった。
元魔王の威厳など仕方ないことだがやはり微塵もないな。
「ねぇ、シェル…大変なことになってない?」
隣から声をかけてくるユリ。
「四天王の1人に、その部下さん達だよね?」
「いや、普通のことだ。お前も俺の仲間なのならもっとどっしり構えておけ。介護扱いされるぞ」
「態度だけはデカいんだな全属性?誰もその女の子を介護扱いはしねぇよ」
ギャハハと笑う部下の1人。
不機嫌そうな顔をするユリは見えていないらしい。
「介護上がりはお前だけ」
俺の顔を指さしてそう口にする男。
「俺の読みが正しければそう言っていられるのも今のうちだぞ?」
「後悔すんなよ?」
「させてみるがいい」
笑いを噛み殺してアグニエルを見る。
彼女もこちらを見ていた。
「天の目…私はそんな高位魔法を使えないから分からないが一体どの程度まで見られるのだ?」
「逆に知りたい情報を言ってくれた方が分かりやすい」
「天の目で現時点の敵の動向を見ることは出来るか?」
「可能か可能じゃないかで言えば可能だ。ただし俺の魔法の射程内に入れば、の話だがな」
こうは言っているが俺に限界はない。見ようと思えば遥か遠くまで見通せるしそこに魔法を撃ち込むことだって可能だ。
天の目で敵の動向を探るなど息をするのと同レベルで行える。
「調子に乗るのもその辺にしておいた方がいいぞ全属性。時代遅れの分際で。出来ないなら出来ませんと言っておいた方がいいぞ。自分で自分の首を締めているだけだ」
「全属性に身内でも殺されたか?」
「あぁ。殺されたよ。お前ら無能のせいで俺の親父は命を落とした。今でもたまに多属性で登録するお前みたいな本物の馬鹿がいるが全員漏れなく━━━━無能だ」
「口を慎め!」
突然の声で場が静かになるほどのアグニエルの声。
「すまなかったな部下が不快な思いにさせただろう」
「いや、気にしていない」
「でも…アグニエルさん、こいつの真偽が分からない話聞いて勝手に人を動かして何もありませんでしたじゃ遅いですよ…貴方の立場も危うくなる」
「逆に考えろ。ここで先手を打って未然に人間の攻撃を防げたとなれば私の評価もお前達の評価も上がる。リスクも大きいがリターンも大きい」
「それは、そうですけど…リスクの方が大きすぎませんか?天の目なんて…高位魔法を使えるかも怪しいのに。こいつが出任せ言ってたら…」
「私を信じられないのなら降りてもらっても構わん。お前の言う、死ぬ時まで私に付き合う必要は無い」
「…」
頭を掻きむしる男。
「だぁぁぁ!もう分かりましたよ!お供しますよ」
「そんな嫌々ならお供するな。シェルに失礼だと思わないのか?」
「お供させていただきます」
結局そう折れた男。
「話は決まったか?」
「あぁ。決まった。すまないな手間をかけさせた」
そう言って地図を出してくるアグニエル。
それはこの森周辺の地図だった。
「もしかして作戦を考えるのは得意だったりするか?」
「苦手な部類ではあるが考えられないことも無い」
作戦などしょせん少しの力の差を埋めるために立てるだけのもの。
圧倒的な力量差を埋められることは無い。故に全てを一撃で葬りされる俺は作戦を立てたこともない。
「助かるな。もしかして敵の数など分かるか?」
「詳しい数は分からないが昨日よりは多いだろうな。そも、この森には何人のダークエルフがいるのだったか」
「詳しい数字はわからないが何十万といるはずだ」
「それに対して3万か…」
「ただし戦えるのは何千か何万単位だ」
「それを考えればあながちおかしくなかった数字なのかもな。しかし敵の数はもっと増えることが予想される」
そう返すと目を丸くするアグニエルとその部下数名だった。何か変なことでも言ったか…?
俺もこの手にものに関しては全く分からないからな。
「やけに冷静にものを見られるのだな。シェルは、もしかして軍師か何かをしていたことがあるのか?」
「いや、ないよ。作戦を考えたこともないし俺が今口にしてるのは状況を見ての予測だ」
そう答えるとアグニエルはさっき目を丸くした部下に目を向けた。
「貴方の考えは間違っていませんよ。私は指揮をした事もありますが、貴方は最悪のパターンを考えている。これは素晴らしいことですよ。普通の人ならば昨日と同じ人数が来る…いや、そもそもの話あれが本攻撃だと思うところですから」
「シェル凄いんだねー」
横からそう言ってくるユリだが普通のことじゃないのか?
「普通だろ?」
「普通ではないですよ。貴方みたいな人が指揮をしてくれるなら誰もが安心できると思いますよ。天の目は指揮者が1番欲しがる魔法だとそう言われています。一考してみませんか?」
「それもまた悪くないかもしれないな」
そこまで言われるなら悪い気はしない。
「こいつは現在軍師を目指しているやつだ。そして今一番近い存在だともいわれている。そいつがそう言うのだからシェルは才能があると思う」
アグニエルもそう言うくらいだから、確かにあるのかもしれないな。
「それより続きを話してもらえるか?」
彼女の声に頷く。
「そうだな。今回は北に3南に3西に2北に2の割合で戦力を置いてくれるか?」
「この配置は意味があるのか?」
「奴らクシナを警戒しているのか一点突破は恐らくしてこない。現状は人数がバラけていて、そういう配置になっていたからだ」
実際に俺が魔王として君臨していた時はそうやって配置をばらけさせて何処かを崩そうとしてきたことが多かった。一度も崩れたことはなかったが。
「なるほど…天の目…敵に回すと怖いが味方にいると頼もしいな」
「そう言ってくれると光栄だ」
「ちなみにどうやって迎撃するつもりなんだ?」
「普通に砦に人員を集めてそこで迎撃する。捻る必要などない」
地図を指さし各場所にある砦を指さした。
「ここに戦力を登らせて敵影が見えたり通ってきたところを上から狙い撃てばいい。どのみち森に入るならばここを通る必要があるのだろう?竜騎兵は撃ち落とせ」
「それでいけるだろうか?」
「こっちには地の利がある。それを活かさない手はないし砦はそのように使うものだ。後生大事に取っておくものでは無い」
「それもそうだな。よし、なら私は各指揮にその旨を連絡しよう」
「それは俺にはできないし頼む」
「任せて欲しい。ではまた後で会おう」
そう言って部下を連れて酒場を出ていくアグニエル。
「シェル…凄…四天王の1人を相手に最後まで普通に話してた…」
「ただ話していただけだ。一々驚くな」
ユリの言葉にそう返す。
「でも、凄いですよね。1歩も引くことなくあぁやって対等に話すのは普通は出来ないですよ」
ミーナ達も近付いてきた。
「シェルの話している姿素敵でしたよ」
エルもそんな風に言ってくる。
そんなことはないと思うが。
「全属性お前分かってんだよな?失敗したらどうなるか」
その時厳しげな顔をした店主が近付いてきた。
「お前処刑されても文句言えないんだぞ?」
「それは怖いな」
「何故そんな余裕なんだお前?」
「俺がいる限り負けることは無いからだ。天の目を侮らないことだな」
「その言葉が刃にならないといいな」
そう言って立ち去ろうとした店主。それを見て俺も酒場を出ることにした。
何があるか分からないし夜まで寝ておこう。
前回更新分誤字だらけで申し訳なかったです…。
報告してくださった方ありがとうございます。




