四天王との会話
ノイと適当に話していたら夜も更けた。
眠いがそれでも1日くらいは徹夜でも問題は無い。
怠けたがる体に鞭を打ち立ち上がるとユリ達を連れて昨日の現場に向かう。
「死体がなくない?」
人間のそれがないことを疑問に思ったのかそう口を開いたユリ。
「軽くはない傷を負わせたが殺してはいない。今頃治療して立て直そうとしているところだろう」
「立て直す?」
「あれは本攻撃ではない。ただ、俺たちに勝ったと思わせて油断させるだけのそれだけのちょっかいだ」
「?!」
驚くユリ達。無理もない。俺もここに来て確信がもてた話だ。
とはいえこれから何が来ようが俺の敵ではないが。
「それはどういう事だ」
その時声が聞こえた。
そちらを向くと金髪の女がいた。
腰まで伸ばした金色の髪に貴族風の服装。
「誰かに何かを尋ねる前に名乗れ、と教わらなかったか?」
「それは失礼した。私は四天王の一人だ。夜中に救援要請され来たのだが」
見たことの無い四天王だ。やはり俺が魔王だった頃から入れ替えがあったらしい。
「それで今頃来た、と。遅かったな。人間は撤退した後だ」
「それで、夜中の襲撃が本攻撃でないというのは何か根拠があるのか?3万もの人間がいた、という話を聞いた。どう見ても本攻撃だと思うが」
「そもそも何故人間は撤退したと思う?」
「クシナ様復活の噂が本当なのならその強さに恐れ退いたそれだけの話では?」
「その噂は少し前からあるし恐らく人間側にも伝わってるものだ。その噂があるのに…何故こうも簡単に撤退する?普通はクシナに対抗できるように少しでも戦力を上げるだろう?今回はそれがなく直ぐに不利を悟り撤退した」
俺に対抗するように整えたつもりだが予想以上に手が出せずに撤退を余儀なくされた可能性も0ではないが。
「何故そんなことを知っている?」
「俺はそういう魔法を使えるからだよ。【天の目】という魔法を知っているか?文字通り天から全てを見渡せる魔法だ。奴らは敗戦濃厚になると直ぐに撤退した」
現に今もこうして話している間も魔法で状況を確認しているが人間側に大したダメージはないように見える。が黙っておこう。普通は人間側の様子まで見れるほどのそれを使える奴は高位の魔法使いにしかいないからだ。
「シェル、天の目使えるんだ…高位の魔法だよね?」
アニーも驚いているがその程度で驚くのはまだ早い。と言いたいところだがこの四天王がいる手前辞めておこう。
「シェルとやら場所を移さないか?もう少し話を聞きたい」
「いいだろう。俺も酒場の店主にも話を通しておきたかったところだ。まだ終わった訳では無いと」
本気で森を落とそうと考えているならこんな簡単に撤退しないだろうという疑問は昨日からあった。
「なら酒場に向かおう」
四天王と名乗った女と共に酒場に向かう。
酒場に入るなり店主が目を見開いて近付いてくる。
「こ、これは…アグニエル様!」
酒場の店主が金髪をそう呼んだ。なるほどな。アグニエルという名前か。
「そう畏まらないでくれないか」
「いえ、しかし…」
今度は俺を見る男。
「今度はアグニエル様に介護してもらおうって腹か?全属性」
「何故そうなる…」
「お前は運だけはいいらしいからな。行く先々でクシナ様が現れて今度はアグニエル様か。全く…そうやって介護されて見栄えだけの数字が上がってもみんな迷惑だぞ?」
「いや、こいつは天の目が使えるらしい。私はそれを聞いて詳しく話を聞きたいとそう思った」
「天の目?あんな高位魔法全属性に使えるわけないでしょうよ、騙されちゃダメですよ。そいつの仲間が使えるだけですよ。それを自分の手柄のように振舞っているだけ。何たって介護上がりですから」
聞いていればさっきから介護介護と。
「店主」
「何だ?」
「アグニエル様に媚びる前に厨房へ戻った方がいいぞ?」
「何を馬鹿な」
その言葉を笑い飛ばす店主。
その数秒後
「すみませーん!やっちゃいましたー!」
その店主を呼ぶ声が厨房から聞こえてくる。
「…運の良い奴め…ほんと運だけはいいみたいだな」
尚も俺を信用しようとしない店主。
そうしながら厨房へと向かっていった。
「シェルは面白いな」
少し悩んだが本当に四天王らしいし丁寧な言葉で話すことにした。
「いや、幸運だっただけですよ」
あいつのためにもそう言っておいてやろう。
実際今のは魔法を使ったわけじゃない。
厨房から妙な音を聞いたので適当に口にしただけだ。
「いや、全属性への風当たりが強い中それで登録しただけはある。私は君を認めよう」
そう言って手を差し出してくる。
「ありがたい話ですね」
その手を取ったら苦笑いする彼女。
「話し方はさっきの崩れたもので構わないよ。私はそんなに大した存在ではないのだから」
「ならそうさせてもらおう」
「それより座ろうか。立って話すのも何だし」
彼女の提案に乗って空いていた席に座る。
その一挙手一投足を舐めるような目で見る周りの客達。
そんなに四天王が珍しいのか。
「シェルが四天王と喋ってる…」
ユリが口を開けて驚いているが魔王だった頃はこいつらをこき使っていたと知ればどんな顔をするのだろうな。
「私なんか見るだけで足が震えましたのに流石シェルですよね…」
ミーナもそんなことを口にしていた。
俺の感覚がおかしいのか?それならば俺は今は一般的な魔人だし直した方がいいのだろうか。
「気を楽にして欲しい。そうやって固くなられると困るから」
「は、はい」
こんな態度俺に見せたことなどないユリがビシっビシッと動いて俺の隣に座った。
そうだ。忘れていた。
「俺はこの人と話すから適当な席に座って待っていてくれ」
ノイ達にそう指示を出しておくが隣のユリは動かなった。
「…お前はなんで行かないんだ?」
「緊張して足が動かない…」
そんな答えを返してきたユリを見て小さく笑うアグニエル。
「私は構わないよ。君も私と2人なら緊張するんじゃないか?」
「そうだな。いてくれるならありがたい」
そんなことは無いがそういう事にしておこう。
「私も四天王である前に1人の魔人なんだけどね。まぁいいか。詳細聞かせてくれるかな?と、その前に一応カードを見せてもらってもいい?」
「これだ」
そう言ってあのカードを差し出す。
受け取り目を通すアグニエルの顔が厳しくなり始めた。
「…レベル低くない?レベル2ってこれで何が出来るの?」
「上がらないのだ。仕方ない」
「もしかして使える魔法って天の目だけなの?」
「そんなことは無い。レベルで判断しないでもらいたいものだ」
「うーん信じたいけどこれじゃ介護って思われても仕方ないよ?せめて1人で依頼受けて1人で試験受けて…って風じゃないと」
「1人じゃ満足に依頼も受けられないんだもん…でやっと依頼達成しても介護扱いされるからレベルも上がらない」
「ま、頑張って…」
そう言ってカードを返してくるアグニエル。
「あの全属性、やっぱり介護なんだな…あの周りにいる女達どんだけ強いんだよ俺も介護して欲しい…」
「俺も介護されてぇわ…楽に勝って楽に報酬貰って楽にレベル上げてちやほやされてぇ」
そんな声が聞こえてきた。
全属性ってだけでどれだけ信頼がないかが分かる言葉だ。
しかし気にしていても仕方がないな。
「それより、詳細に進もうか」
「そうだな」
「本攻撃じゃない、というのはどういうこと?」
「そういうことだ。文字通りの意味だ。昨日攻めてきた奴の中には五刀剣神が1人もいなかった」
「五刀剣神…というと5人の最上位の刀剣使いのことだよね?」
「そうだな。ようは人間の中で最強と言われている5人だが…昨日は5人のうち1人もいなかった」
「それを天の目で見たと?」
「そうだ。それクラスが混ざっていれば普通は分かるはずだがいなかった。本気でここを落としにかかるならばクシナ対策に5人全員とは言わずとも何人かはいるはずだ」
まぁ俺にかかれば5人まとめてかかってきたところで欠伸しながらでも撃退できる程度だが。
「その本攻撃とやらはいつなのだ?」
「今夜だろうな」
「何故そう言いきれる?」
「考えれば分かる話だ。あっちは俺達が油断していると思っているはずだ。理由は分かるな?」
「クシナ様が撃退してくれた、と私たちが思っているからだな」
「そうだ。その隙を狙わないバカなどおらんよ」
「アグニエル様、その全属性の言うことなんて話半分で聞いてればいいですよ」
店主が戻ってきた。
「ま、信じるも信じないもあんたら次第という事だ。俺は天の目を使える証明を先程したはずだが店主は信じるつもりなどなさそうだしな」
「当たり前だ。お前のように介護で上がったレベル2の全属性に天の目を使えてたまるか」
「いや、私は信じたいと思う」
そう言ってその金髪を振って俺を見るアグニエル。
「アグニエル様…リスクが高すぎますよ」
「嘘はついていないんだな?」
「俺にそれをしてメリットがあるのかどうかそれを教えて欲しいくらいだが」
「それもそうだな。私は信じよう」
「アグニエル様…」
それでも気乗りしないような店主。
「私は信じる。何故かこの者からはそういう有無を言わさぬ何かを感じる。そして私は…この感覚を何処かで知っているような気がするんだ…」
「気がする…ってリスクが…」
「リスクの話ばかりしているのは楽でいいな?店主」
「…」
それで黙る男だった。
「私はお前を信じるぞシェル。今から人を集める」
「あぁ、頼むぜ」
数時間後にここで集まる約束をしてから、俺たちは酒場を出ることにする。しばらくはぶらぶらしていようか。




