今から始めるのは逆転ではない。殲滅だ。
「シェルヴィ!」
夜寝ていた時だった。宿屋の扉の外から叩き起される。
「んだよ…まだ深夜だぞ…」
愚痴りながら起きると部屋のドアを開ける。
「いいから来てくれ!」
俺を起こしたのは酒場の店主だった。
「待ってろ…」
手短に準備をして店主についていく。
俺を呼びに来たというのはそういう意味なのだろうな。
「状況どうなっている!」
酒場には大声が響き渡っていた。
「それが…劣勢です…」
「劣勢…ってなんだ?」
頭では理解していてもやはり嫌な予感がする。
感覚を研ぎ澄ませるがユリ達に何かが起きている様子は見えない。一先ずは安心だ。
「人間達が夜中に動き出した」
「それで俺に何の確認もなしにユリ達を先に行かせたのか?」
胸ぐらを掴みあげる。
「あぁ。…お前を行かせても状況は好転しないと踏んで」
「いい加減にしろよ」
男を突き飛ばす。
机で何やら話している奴に近付き質問する。
「おい状況を詳しく説明しろ」
「……」
恐る恐るあの男を見ている。
確認のつもりか。
「話していい」
「は、はい」
許可を貰った男が俺を見る。
「人間軍3万が全てこちらの門に向かってきているんです…」
「こっちの攻撃は緩くなるんじゃなかったのか?」
「密偵がスパイで偽の情報を流されたみたいで」
「下らん」
言い捨てて外に向かう。
「出撃は許可できない。無駄死にするだけだ。それなら逃げる人々の護衛に回ってくれ。元々お前を呼んだのはそのためだ」
その言葉に足をピタッと止めた。
「ユリ達を見捨てろって言ってんのか?」
「そうだ」
「あいつらの命を何だと思ってやがる」
「殆どが奴隷だろ?また買い直せ。それにもう生きていないだろう。気の毒だったな。3万もこられた段階で敗戦は決定した」
「いや、生きているのは確認した。言い訳は後で聞いてやる。逃げずにここにいろ」
「何を馬鹿な…どうやって?それよりどこ行くつもりだ。試験は?報酬は?要らないのか?」
「聞かなきゃ分かんねぇのか?無能」
「私も行かない方がいいと思います。竜騎兵の確認も出来ましたし、それに先に出た方々の殆どとの通信が途絶えました」
机で戦況を見ていた男が口を出してきた。
「軍師もこう言っているのが理解できないのか?お前は」
「そうですよ!人間三万相手に単騎で進むなんて魔王様でも厳しいことなんですよ?」
「兄ちゃん考え直した方がいい。助けに行きたいのは分かるが無理なんだよ」
軍師と呼ばれた男と客としてここにいた奴がそう言ってくるが関係ない話だ。
「俺を誰だと思っている?」
「いい加減にしろ!全属性死にたいのか!お前の仲間もこんなこと…お前の死なんて望んでいないだろ」
勝手に死ぬことにされているらしい。面白い話だ。
「いいから黙ってろ」
上着を手に取って歩き始めると店主たちの顔を見た。
「俺は言い訳は後で聞いてやると言った。これ以上下らんことを俺の耳に入れるな。その口引きはがすぞ」
「おい!」
止める声も無視して扉を開け外に出ると転移魔法でとりあえずユリ達の近くまで飛ぶことにした。
「はぁ…はぁ…」
魔力をもう既にかなり使ってしまった。
「ユリ大丈夫ですか?」
「うん。何とか」
お姉ちゃんの顔を見るとこっちもかなり疲れているようだった。
「厳しいな…」
本来こういう荒事は得意そうなアニーまでも苦しげだった。
あとのメンバーもノイ以外はかなりきつそうだった。
「ねぇ、お姉ちゃん、お兄ちゃん来てくれないの?」
「シェルは来てくれます。もう少し待ちましょう」
リルの質問にそう答えるエルの顔にも元気はない。
でもみんな希望は捨てていなかった。
「私たちこれからどうなるんでしょう…」
既にそれなりに戦ったつもりの私達だからこそ。かなり疲れていた。
「皆さん疲労が酷いようですし一旦下がりませんか?」
そう提案したのはノイ。
彼女は流石だ、少し前までパーティで動いていただけはある。それにそんなノイだからか私たちよりまだもう少し戦えそうだったがそれでも周りを見てそう提案した。
「そうだね。下がろう。このままじゃ負ける…」
私も賛成した。
それは私だけじゃなくみんなも同じ思いだった。
その声が聞こえたのは全員で下がり始めた時だった。
「見つけたぜ」
「ひっ!」
背後からガサッと音が聞こえたと思ったら草むらから男が1人出てきた。
「悪く思うなよ。死んでもらうぜ」
そうやって飛びかかってきた男。
「させるか!」
それをアニーが倒してくれた。
でも…
「お前!よくもやったな!」
別の方向の草むらからまた人間がでてきた。
そいつの手には弓。
氷のように青い弓、それから放たれた矢が疾走してアニーの足に刺さった。
目で追うことしか出来なかった。
でも、私は何とか杖を手に取った。
「消えて!」
火の玉を撃ち込んだ。
しかしそれは有効打にならないどころか…
「やってくれたな!」
「やっちまえ!」
次々と人間が出てきて一瞬にして囲まれた。
「ノイ」
その中には…前に見た男がいた。
「ルーク…」
ノイが男の名前を呼ぶ。
「そいつらを裏切ってこっちに帰ってこないか?」
「お断りよ」
即答するノイ。
「そうか…なら力づくで連れ帰る。その黒髪の人間は傷つけるな」
周囲の人間に指示を出すルークと呼ばれた男。
そして人間達が弓矢を向けたのは私たち。
それも…その射線は私たちの顔に向けられていた。
「お姉ちゃん…」
「シェルは絶対来てくれる…」
「あのノロマ何処で何してんのよ…」
焦る気持ちがそんな言葉を吐かせていた。信じてるのに…でも…気持ちは恐怖で満たされていく。
「やれ」
そしてルークの一言で放たれる矢の数々、それは確実に私たちの顔や首を射抜かんと迫ってきていた。
「来てよ!シェル!」
思わず目を瞑って叫んだ。
声の限り叫んだ。彼ならどこに居てもこの声だけは拾ってくれると信じて。
それから数秒経っても襲うはずだった痛みは私を襲わない。
「な…」
最初に聞こえたのはルークの驚愕の声と人間のどよめきだった。
閉じていた瞳を開くと…そこには
「シェル…」
誰よりも何よりも望んだ…人がそこに立っていた。
その手には風の剣が握られていた。
ブクマありがとうございます。
励みになります。




