ダークエルフの村救援作戦の準備を始める
「シェル凄いですね」
「そうだろう。もっと褒めてもいいぞ」
ミーナに朝から褒められてご満悦だ。
「起こしにこなくても起きてるなんて珍しいですね」
「俺は朝を克服したのだ」
「これは…歴史に名前が残るレベルですね」
「既に名前は残っているがシェルとして残すのも悪くないな」
ふははは
「うるさい!」
隣で寝ていたユリが枕を投げつけてきた。
「お前の髪の毛の匂いが一瞬したぞ。とても良いものだった」
「へ、変態!」
「落ち着け。今新たな世界が見えそうになった」
「この、変態!」
顔を赤らめているユリ。
布団を抱きしめていた。
「怒る顔も悪くは無いがやはりお前は笑っているべきだ」
「…」
顔を赤くして黙り込むユリ。
今日も一日いい日になりそうだ。
道を歩いていたら見知らぬ男が近付いてきた。
「全属性調子はどうよ」
「見ればわかるだろう。悪くない」
「見て分からなかったから聞いてるんだが…まぁいいや。それにしてもよくお前みたいなのに人がついてくるんだな」
俺の後ろにいたユリ達に目をやる男。
「どんな奴にだっていいところの一つや二つはあるものだ。それをこいつらが理解している、それだけの話だ」
「お前のいい所って全属性だから馬鹿に出来るところだよな。よ、底辺」
ギャハハと下品な声で笑う男。
「なんとでも言え」
「言い返せないから言わせておくしかないんだろ?強がるなって」
俺の腕を小突いてくる男。
無視して通り抜けようとしたが、男はユリの腕を掴んだ。
「なぁあんな奴について行かずに俺んとこ来ねぇか?」
「離して」
無視して通り抜けようとしているユリだがそれを許さない男。
「そう言わずに。来ねえか?」
「行かないから。離して」
「底辺の魔法で洗脳されているのか?可哀想に」
「馬鹿言わないでシェルは最強だから」
「全属性が最強って…あんた本当に頭やられてるのか?」
「シェルを悪く言わないで…」
ユリの顔は泣きそうになっていた。
「おい…」
「何だよ全属性」
「泣かせたらどうなるか分かってるのか?お前」
男を黙って見つめる。
「俺の事をお前がどう思おうが構わんがそいつを泣かせてみろ?お前の首へし折って地面に埋めるぞ?」
「やれるもんならやってみろ」
そう口にして奴は俺からユリに視線を移した。
「あんな雑魚と歩くの苦痛だろ?あんたもあんなのと歩くのはやめた方がいいぜ。あんたの名前も汚れる」
そう言ってユリ以外の全員の顔も見る男。
「勿論君ら全員迎えてやってもいいぜ。俺らはこの辺で1番勢いあるパーティだ。こいつについて行くよりマトモな生活を保証してやれるぜ」
「…辞めてって言ってるよね?シェルは雑魚なんかじゃない。最強だって言ってるよね?」
「これが最強な訳あるかよ」
ゲラゲラ笑い始めた男を地に這わせる。
「…?」
「何が起きたか分からないか?」
しゃがみ込んで男の髪を掴み俺の顔を見させる。
「攻撃魔法の無断使用は…衛兵が黙っていないぞ」
「俺は魔法を使っていない」
首を横に振る。
「馬鹿な…じゃあどうして…俺が寝ている?」
「全て話すつもりさないが、お前を寝かすことなど魔法使わなくても可能だ。それに今のお前では理解できないだろう」
奴の唇が震え始めた。
「怖いか?」
「怖くなんてねぇよ…」
「ところで、お前が今まで見下していた相手に手足の1本すら出せない気持ちというのを教えてくれないか?」
「その薄ら笑いを辞めろ…」
ガチガチと歯を噛み鳴らす男。
「教えてくれないか?」
「…」
気絶する男。
くだらん。
髪の毛を離してユリ達を見る。
「今のどうやったの?」
「なんという事は無い。こいつに絶望を刻んだだけだ。感情というのは体に作用する。俺はこいつのそれを絶望で満たし潰しただけ。それだけだ」
「当たり前のように言ってるけどそんなこと出来る時点で…シェルの強さがよくわかるよね…」
アニーがそう言葉を漏らした。
「慣れれば誰にでもできるように」
「なりませんよ」
ミーナが俺の言葉の先を続けた。
「こればかりは誰も真似できないだろうな…」
アニーも苦笑している。
「まぁ俺だけの特殊スキルというのも悪くないかもな」
そうまとめてまた歩き始めることにした。
「シェル」
「いきなり、どうした」
酒場に入り依頼の確認をしていたところハリバンに声をかけられた。
「ギルドからの特別な依頼がある。受けないか?」
「内容は」
「人間の撃退か全滅だ。ここからは少し離れているところのダークエルフの森が攻撃されているらしくてな。そこの住民から状況は不味いとの報告があった。どうやら人間は完全に森を制圧しにきているらしい」
「それに参加しろ、と?」
「そうだ。お前はどういうわけか全属性の癖に今のところどの依頼も最後までこなしている。俺はお前に期待している。今回これをクリアしてくれたなら次のレベルに進むための試験をギルドに取付ける」
「決まりだ。今から向かおう」
依頼を奪い取る。
「ユリ、契約してくれ」
「いや、今回の契約者はお前で構わん」
ユリに渡そうとしていたところそう言われた。
「先に言え」
適当に書き込んでからその依頼書をハリバンに返した。
「話は通しておくがくれぐれも失礼のないようにな。お前より立場のある方々もいるのだ。お前は悪目立ちしすぎる。その辺配慮して欲しい」
「分かったよ」
適当に返事をしておく。
「出発したくなったら声をかけてくれ。こちらで足を用意してある」
「俺は構わないがユリ達はどうだ?」
「一応準備したい」
ユリがそう答える。
「なら俺はここに居るから各自で必要なものを揃えてから戻ってきてくれ」
そう告げると全員頷いて酒場を出ていった。
「あいつらだけで行かせてよかったのか?」
「俺の目をあいつら全員に付けてある。何か起きたところで直ぐに対処に当たれる」
ハリバンの質問に短く答えた。
「言ったろ?俺は嫁は大事にすると目障りな虫がたからぬよう見張るのもまた王…俺の役目だ」
「一応井の中の蛙だけあってそれなりには出来るみたいだな」
「まぁな」
「ところでよ。クシナ様の姿とか活躍とかお前何も見ていないわけ?」
「見ていない。というより俺の活躍ではなく何故真っ先にクシナを繋げるのだ」
「いや、誰もが口を揃えて全属性にあの勇者の相手は無理だと言ったからな。それにあれから何とか意識を保っていた連中が今までに感じたことの無い絶望を感じたとそう言っていたから。クシナ様以外にないだろうと」
「なるほどな。だが俺も全属性だぞ」
「お前は全属性であってクシナ様ではないだろう?」
腕を組む男。
「クシナ様が強いのであって全属性のお前が強い訳では無い。分かったな」
「あぁ分かったよ」
このままだと俺に対する評価は変わりそうになさそうだな。
「全属性は残念ながらこれまでもこれからも酷評される。しかし」
俺を見るハリバン。
「お前だけは何となく期待してもいいかもしれんな」
「辞めてくれ。男の期待は要らない」
「あ、言いやがったなてめぇ」
「まぁそこまで言うなら勝手に期待しておけ」
「相変わらず偉そうなガキだな。お前を見ていると何となく目が離せない弟みたいな気持ちになる」
俺の頭に手を置く男。
「俺のカリスマ性はすごいとの話だ。それだろうな」
「認めるのは癪だが人を寄せ付ける何かを持ってるのは確かだ」
「実際に惹き付けられたやつが言うと説得力があるな」
軽く笑った男。それを見てからカウンター席に座ってから瞳を閉じる。
「寝るのか?」
「だとしたら何なのだ」
「毛布くらいならあるぞ。風邪などつまらないだろう」
「安心しろ目を閉じているだけだし俺は風邪にならない」
「俺に弟がいたらこんな生意気な奴だったのだろうか。そう思えばいなくて良かったと思うな」
苦笑しているらしい。
「酒くれ。何でもいい」
「こんな昼間から飲むつもりかよ。しかもお前子供だろ。悪いがうちじゃガキには出せなくてな」
「…はぁ…」
「ため息を吐かれても困る」
そう言って水を差し出してきた。
「仕方ないな」
とりあえずはそれで我慢することにしよう。




