やはり勇者の嫌そうな顔はいいものだ
「羨ましくなんかないもーん」
「羨ましくなんてないですから」
「そうだ。羨ましくなんてないからな」
「…?」
部屋に戻った俺を出迎えたユリ達。
「みんなとデートしたからって羨ましくともなんともないから。勘違いしないでよね」
そう言って俺を悔しそうな目で見てくるユリ。
「なるほどな…お前達だけデートが出来なくて悔しかったんだな」
「そんなわけないから。勘違いしないでよね…」
言葉に元気が無くなっていた。
「以前魔法を教えると約束したな」
「そういえばしてたね。忘れてたの?」
「だからそれで埋め合わせようというだけだ」
「別に嬉しくなんてないから勘違いしないでよね」
実に嬉しそうな顔をしている。分かりやすくてかわいい奴だな。
「この子素直じゃないですよね」
「全くだ」
長くいたミーナだけでなくアニーにもそう言われている。
「素直な方が可愛げがあるぞ」
「ふーん」
顔を背けている。
「こいつは機嫌が悪いみたいだし行こうぜミーナ、アニー」
2人を連れて外に出ようとしたところ
「あ、待ってよー置いてかないでー」
泣きそうな顔でそう迫ってくるユリ。
「行きたいなら行きたいと言え」
「行きたいです」
「やはり、素直な方がいいぞ」
「嬉しくなんてないもん」
「まぁいい。行こう」
そうして草原に移動してきた。
「ふえぇ…」
魔法を教えていたが情けない声を上げるユリ。
「分かんないよ…シェルみたいにバビュッて倒したいのに。できない」
見ていたところ魔力が足りないとか使いこなせないとかそういう風には見えなかったから単に初めてだからな気がする。
「もっと練習することだな」
「シェルは練習したことないのに私はしないとだめなの?」
「俺だって全くしてこなかった訳じゃない」
「でも、私だけ出来ないのはおかしくない?」
「他の奴らは筋があるだけだろ」
目を閉じてそう言う。
アニーとミーナは教えた魔法に関してはすぐ出来るようになっていたから、本当に筋がいいだけなように思う。
「だから、そうやって肩落とすな。数こなせ」
「言うだけなら簡単だよねー」
「確かに簡単だな」
「認めないでよ。もっと励ましてよ」
俺の肩を掴んで揺するユリ。
ちょっと泣きそうになっている。
「そこはこうですよ」
「こう?」
向こうではノイがリルに魔法を教えていた。
結局残り4人も連れてきていた。
「ほら、リルもまだ出来ていないみたいだから、まだ肩を落とすな」
「リルは小さいから仕方ないじゃない」
「小さいと言ってもそこまで歳変わらないだろ?」
「変わるもん」
いじけているのか女の子座りで座り込んでしまった。
「言っておくが俺はお前になれないから代わりに習得なんてできないぞ」
「馬鹿にしないでよ。分かってるもん」
拗ねているらしい。
「とりあえず立て」
両脇を持って立たせる
「何処触ってるのよ!」
顔を赤くして見てくる。
「理不尽過ぎるだろ…」
「理不尽じゃないもーん。シェルが触ってきたのが1番悪いもーん」
ぺたっとまた座り込むユリ。
「だってお前自分で立たないし」
「だってしても無駄なんだもん」
「だもんじゃないが」
もう一度ユリを立たせる。
そうして自分の手を彼女の身体に沿わせる。
「こうだ」
そうして体の動かし方を教える。
「こんな風に動かせば使えるようになるんじゃないか」
「…それで使えるようになったら苦労は…」
言いかけた時だった。
「ほらな」
「…」
ユリの手から魔法が放たれた。
それは真っ直ぐ飛んでいき小さな岩を砕く。
「今のシェルだよね?」
「そんなことしてもお前のためにならない」
ため息を吐いて答える。
「今のはお前の力だよ」
「…ほんとに?」
「あぁ。魔法を使うには自分は出来るという気持ちとどんな魔法を使うかの確かなイメージが必要だ。そのために人々は詠唱したり時には動作をとったりする。俺はその動作をお前に取らせた。その結果お前は上手く使えた」
そういう訳だ。
「でもシェルはこんな風に動作を取ることも詠唱することも少なくない?」
「イメージさえ確かにあるなら慣れてしまえば直ぐに使える。それだけだ」
「先に言って欲しかったな…」
「魔法を使うなら常識だろ?そんな今更のこと説明する必要がないと思ったが」
「でもシェルがそんなふうにしてるとこ見たことなかったから」
「俺が特別なだけだ。真似する必要は無い」
もう昔のことで思い出せないが、俺も何度も何度も魔法を繰り返し使った果てのこの無詠唱の域に辿り着いたはずだ。
そもそもの年季が違うのだ。今日使った程度で出来るようになるわけが無い。
「だから気にするな」
頭に手を載せて撫でる。
「…そうだよね。いきなりシェルみたいに出来るわけないよね」
一つ頷いてる彼女。
自分の中で何か納得の出来るようなことがあったのかもしれない。
「ね、続き教えて」
「あぁ、構わないよ」
「いた!あいつだ!」
そうやってユリ達といたら聞き覚えのある声が聞こえた。
「…また、来たのか?しつこい奴だ」
あの時にこの村に襲撃しようとした勇者パーティ。その勇者がそこにいた。
「ルーク何しに来たの?」
ノイがそれに気付き声をかけた。
「お前を助けに来た」
「まぁ焦るな」
とりあえず俺が勇者の前まで歩み寄る。
「この化け物が…ノイを返せ」
「あの時何故抗わなかった」
「お前に挑んでも負けるのは目に見えていたからだ」
「今回ならば勝てると?」
笑う。
たかだか数日空いただけで勝てる程度の差なら初めから埋まっている。
「そのための準備をしてきた」
そう言って剣を抜いた勇者。
「まぁ落ち着け」
手で制してからノイを近くに来させる。
「お前の口から話してやれ。お前がどうしたいのか」
今はこいつの絶望に染まる顔を見たかった。
「ノイ…帰ってきてくれるよな…?俺達は人間だ。そいつは魔人…お前は間違ってる。洗脳されてるだけだよな?」
「私を見捨てて逃げて何言ってるんですか?」
そう言って俺の腕に抱きつくノイ。
「私は…この人に全部捧げるって決めたから…帰って」
「だ、そうだが?」
勇者が俺を睨む。
「何の魔法を使った。ノイがお前なんかに従うわけがない」
「自分に非がないとは思わないのか?」
「お前がノイを操ってるんだろうが」
俺に剣を向けてくる。
「いい加減にして!私は自分の意思でここにいる!」
ノイは勇者に向かってそう口にした。
「貴方達は私を見捨てて…囮にして逃げた。そんな人の所に戻りたいって思うと本当に思ってるの?」
「それは…あのまま続けても負けてたから」
「負けでも…私は助けに来て欲しかった。約束したじゃない。負ける時はみんな一緒だって」
「それは…」
言葉に詰まる勇者。
「帰ってきてくれ…ノイ。俺はお前がいないと…ダメなんだ」
「そんなに私の事思ってくれてるなら見捨てなかったよね?」
「仕方ない…」
「仕方なくなんてないよ。私は…この人に命をあげたから。助けてくれた命…この人のために使う」
「というわけらしい。お引き取り願えるかな?」
「…」
肩を落とす勇者。
もう一度だけノイを見てから来た道を戻ろうとし始めた。
「魔人…お前の名前を教えてくれないか…お前だけは許さない」
「シェルヴィ、シェルと呼んでくれ」
「名前と顔覚えたからな。またお前を倒しに来る」
そう言って駆け出した勇者。
小さく見えた横顔には涙が浮かんでいた。
「…すみません。迷惑かけちゃって」
「いや、勇者と交流するのも魔王の役目だ」
あぁやって挑んできた勇者の数なんかいちいち覚えていないしこれもその一つに過ぎない。
「魔王が板に付いてますね」
「これだけ長くやってればな」
「得意げですね。やっぱり狩人とかより魔王が向いてるんじゃないですか?」
「悪くは無い。それにいい加減下に見られるのもうんざりしてきたところではある」
どれくらい時間がかかるか分からないがそろそろ上に登るために動き始めてもいいかもしれないな。
「しかしどうやって登り詰めればいいか分からないな」
そういうところで悩む。
今の俺のような底の底から成り上がろうと思えばどうすればいいのか分からないな。
「とりあえず貴族くらいを目指すしかなさそうだな」
「貴族ってどうやってなるつもりなの?」
「金があればなれる」
ユリの質問に答える。
「どうやって稼ぐつもりなの?」
「ホワイトドラゴンを倒すしかないな」
「居場所も分からないのにどうするつもりなんですか?」
「…それはだな…」
ミーナの追撃に耐えられなかった。
「何とかするしかないでしょう」
「何も考えてないんだな…」
アニーが顔を手で抑えて首を横に振っている。
「悪かったな。どうせ俺は何も考えていない」
ふと空を見ると赤く染まり始めていた。
「今日はこの辺りにして戻ろうぜ」
投稿しようとしたらエラーが…




