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勇者パーティーも弱すぎてやはり敵ではなかった

「シェル様」


「どうした」


夜、部屋で寝転がっているとリアが声をかけてきた。


「ハリバンという方がお見えになっています」


「誰だそれは」


「酒場の店主です」


「あぁ、あのおっさんか」


一人で納得して上着を羽織り下に降りる。


「こんな夜中に騒々しいな」


玄関の扉を開けながら口にする。


「…お前しか残っていないのは本当は苦しいが…出てくれ。既に敗戦の気配がある」


「おいおい…」


溜息を吐く。

何で勇者パーティーの一つすら満足に相手できないのだ。


「どっちに向かえばいい」


「あっちだ」


1つの方角を指さす男。


「OKだ」


「おい、全属性」


「何だよ」


「無理はするなよ。奴らだって鬼じゃないはずだ。抵抗しなければ命だけは助かるだろう」


「命乞いするくらいならこの命散らした方がマシだ」


尤も俺に限っては死なないからそんなことは出来ない。


「行ってくる」


「あぁ。また再開しよう」


その言葉を背に駆け出す。




「許してくれ…」


「許してくださいだろ?」


遠くの音すらも拾う今の耳にあらゆる情報が流れ込んでくる。

本当に魔族側が押されているらしい。

魔人の命乞いがあちらこちらから聞こえてくる。


「さぁてこれで終わりか?この村も楽勝だな」


「誰の前でその言葉を吐いている。人間」


塀の上に座り声を出す。

ここに集まっていたのは5人の人間だった。


「俺がいる限り終わりなどは与えんよ。そして与えるのは常に俺。お前達に与えるのは敗北と絶望、それだけだ」


「何を言い出すかと思えば雑魚魔人がイキがってんじゃねぇぞ」


はははと笑う人間。

その声を聞いて塀から飛び降りそのまま奴らとの距離を縮める。


「魔人がたった一人で何ができるんだよ」


「なんでも出来る。お前達に命乞いさせることもお前達の全てを奪うこともなんでもできる」


白い月光に照らされるこの草原に動くものは俺と勇者パーティだけ。


「全属性…逃げろ…」


「全属性?よりによって全属性かよこいつ」


また一際大きい笑い声が響いた。


「お前にもママやパパがいるだろ?家に帰ってママにオムツ変えてもらってミルク飲んで寝てな。雑魚が俺らの前に立つなよ」


人間の1人がそう口にしたのを聞いて笑う周りの仲間たち。

思わずユリにオムツを変えてもらうところを想像しそうになって辞めようと思ったが遅かった。


「悪くないな」


あーそういうのも悪くないかもしれない。これが終わればいつかそういうことをしてもらうのもいいかもしれない。


「なら帰っておねんねしてな」


「だがお前達を絶望させてからだ」


両手を大きく広げる。


「何だ?」


勇者パーティがそう口を開くが無視して続ける。

その両手に、右手には氷の剣を左手には炎の剣をそれぞれ生み出す。


「それで終わりか?」


今度は俺達の番だと言うように勇者達が武器を抜いた。

しかし


「遅い」


その武器を1つ残さず消し去る。

跡形もなく消し去る。


「…?」


何が起きたのかわからないかのように首を横に捻る勇者たち。

己の手を見て初めてそれに気付く。


「武器が…ない?」


「ようやく気付いたか間抜け」


「何だってんだよ!まぐれだろ!」


そう言って魔法で代わりの武器を作り出す勇者たち。

そうだな。このまままた消すのは忍びない。


「遊んでやる。何処からでも来るがいい」


「思い上がるのもその辺にしとけよ!全属性で雑魚の魔人がよ!」


前衛2人が切りかかってくる。


「何だ…その程度か?」


しかしその剣は俺に触れることすら出来ない。

俺の体に触れようとした瞬間1つは蒸発するように消えてもう1つは氷漬けとなった。


「何だと!」


それを見て飛び下がる2人の前衛。

その瞬間に打ち込まれる三本の魔法の矢。


「期待して損だな」


しかしその三本全て風魔法によって向きを変え射手の方に戻っていく。そしてそれが足を掠る。


「おい、お前ら…あれいくぞ!」


1度下がった勇者が仲間に指示を出し5人で固まった。

それから膨れ上がる魔力量。

何が起きるのか期待して待っていると月の剣が現れた。

白い光を放つその剣は正に英雄の剣。


「お前は今までの魔人の中じゃ確かに強い。しかしこれを前にしてまだ勝てるかな?」


口を歪めた勇者が俺に突撃してきた。


「残念。俺には効かない」


奴が剣を振り下ろす前に俺から踏み込み顔を掴んで地面に打ち付けた。


「…ぐぁっ!」


それで剣は消滅しピクピクと痙攣する勇者。


「嘘…だろ?」


「ルーク!」


仲間がこの勇者の無事を願っている。


「ば、化け物…」


「ようやく気付いたか。俺が規格外だということに」


勇者の足を掴み引きずって残った奴らの元に向かう。


「お前達に許可した動作は絶望だけ。俺を前に逃げ回ることを辞め全身を使い俺への恐怖を表現してみせるがいい」


フッ鼻で笑う。


「俺を恐れているのだろう?」


クモの子を散らすように逃げ出す残りのメンバー。


「課題をこなすまでは帰ってはならん」


その体に更に重圧をかけることで地面に縫い止める。


「俺が10数える間に俺への恐怖をその全身を使って表現しろ。その出来によっては褒美をやろう」


「ひっ!」


「さぁ、まずはお前だ」


その黒い髪が美しい女の肩に手を乗せる。


「おっと悪いことをしたな」


さっき矢返しで傷付いた足を治してから重圧も解く。

ついでに全員の重圧も解いておいた。そして1人に勇者の体を放り投げる。


そうするとこの女を見捨てたように逃げ出す残りの奴ら。実のところ仲間を守るために逃げないことを期待したが、しょせん人間などこんなものか。

仲間のために命を賭けられない、捨てられない、つまらない奴らだ。


「さぁ、思う存分俺に抱く恐怖を表現してみせろ。何でも構わない。しかし逃げ回るなど誰でも出来ることだ。それに抗い俺へ抗いそれでも打ち砕かれたその状況で俺への恐怖を表現しろ」


その涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった頬に手を当てた。


「お願い…殺さないで…ください…何でも…何でも…しますから…」


「見捨てられたようだが今の気持ちを聞かせて欲しい」


人差し指でその涙を拭う。

しかし泣くのは辞めない。止まらない。


「泣くな。その美しい顔が台無しだぞ」


「す、すみません…」


「とりあえず落ち着け。お前を殺したところで俺に何のメリットもない。お前達は俺の仲間を今日見た限りでは殺さなかった。ならば俺もそのやり方に答えようと思う」


「ぐすっ……」


何故か敵であるはずの俺に抱きついてきた。

その髪を撫でながらこの草原で倒れている魔人の体を魔法で村の広場に移動させる。

全く…軟弱な奴らだな。


「お前の答えはそれでいいか?俺への恐怖は判断力を鈍らせるほどだった、と」


「…」


何も答えず泣き続けるだけだ。


「…仕方ないな」


抱き抱えて移動する。



ブクマありがとうございます。

とても励みになります。


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