最強の勇者パーティーが来るらしい。俺の敵ではないがな。
「何故先に帰った」
「シェルの話が長いからごめんね」
ぺろっと舌を出して謝るユリ。
「俺は最強だから許してやる」
「ありがとう」
本当に感謝してるのかしてないのか分からない言葉を吐き出すユリ。
「それとあの後リアの服買ったから後で見てあげて」
「奴は今どこで俺を待ち焦がれているのだ」
「待ち焦がれているのは確定なの?すごい自信だよね」
「俺は…」
言いかけた言葉は最後まで出なかった。
「最強だから、だよね」
クスッと笑う彼女。
「さすが俺の嫁だな。俺の口癖を覚えるとは」
「だから嫁じゃないから」
唇を尖らせるユリ。
「ならば何なのだ」
「分かんない…でも嫁じゃないよね」
「俺が嫁といえば嫁になるぞ」
「何そのめちゃくちゃな話」
クスッと笑う彼女。
「まぁいい。先にあいつに会ってこよう」
「うん。褒めてあげてね」
「あぁ」
そう返して部屋に向かう。どうせ俺の部屋にいるのだろう。
「シェル様…おかえりなさい…です…」
「お前がより可愛くなったと聞いたので見に来てやったぞ。うん」
舐めるようにその全身を眺めた。
白のワンピースだった。
「良いではないか」
「あ、ありがとうございます…」
そう言いながら俯く彼女。
「俺を忘れられぬようその胸の奥に俺の存在を刻み込んでやりたいところではあるが…」
リアに迫ると何処から何が飛んでくるか分からないし辞めておこう。
「シェル」
その時だった。
「何だ騒々しい。今から俺はリアと熱い一日を過ごすつもりだったのだが」
「馬鹿なことを言ってないでちょっと来て」
扉を開けながらそう告げるアニー。
「待ってろ」
溜息を吐きながらリアに言い残して彼女に付いて行く。
「よく来てくれたな全属性」
「何だハゲ頭。俺は忙しいのだ。つまらぬ事で呼び出したのであれば首の1本は覚悟しておけ」
目の前には酒場の店主。
「それは死を覚悟しろって言ってんのか?じゃなくてよ」
「いちいちうるさいやつだな。俺なりの軽口だ。さっさと本題に入れ」
「すぐそこに勇者パーティが来ているって情報が入った」
「それがどうした」
「それがどうした…って大変なことだろうが」
「俺にとっては俺の甘い時間を邪魔さた方が大変なことなのだ。俺は帰るぞ」
じゃあなと告げて家に戻ろうとした。
が、
「不快罪で刑に処すぞお前」
俺の服を掴む店主。
「このままじゃお前が処す前に俺らが虐殺されてしまうぞ」
「それがどうしたのだ。いちいち勇者が来たくらいで俺を呼び出すな」
「それがな。今は1人でも戦力が欲しいんだよ勇者パーティだぞ?」
「そんなもんそこらの衛兵に任せておけ。俺にやらせるなそんな雑用」
「やはり全属性はだめか」
「…今なんて言った?」
その言葉に頭がピクっと反応した。
「全属性はダメだとな。やはり軟弱者の半端者揃い」
「何をすればいい。その言葉秒で取り消させてやる」
「切り替え早…」
そんな俺を尊敬の眼差しで見てくるアニー。
「こっちに来てくれ」
店主に同行して酒場へとやってきた。
中には既に他から集めたのだろう何人もの魔族がいた。
「おいおい、あいつ全属性だろ?」
俺を見てそう声を出したのもいる。
「ほんとだ。全属性のゴミじゃん」
「外れ属性にまで頼らなくちゃならないって魔王軍も落ちたものだな」
罵倒が聞こえようとも魔王たるものやはり冷静でいなくてはならない。何より面倒事を起こして1番面倒に巻き込まれるのが俺だ。
「あいつら…シェルの力見たら絶対手のひら返すのに」
「放っておけ凡俗の言葉などに耳を傾けていては耳が腐る」
「どうしてこういう時だけ大人の対応なのよ」
「俺が大人だからだ。それに俺の名は全属性ではない。俺個人の力は奴らも認めているはずだ。ということはあれは俺以外の全属性に向けていることになる」
「凄い解釈の仕方だな…」
「だろ。俺はお前達が考えるよりも深く物事を考えている」
魔王として物事は深く考えなくてはならない。
言葉の一つ一つに大きな意味があると考えなくてはならない。
「全属性お前も参加すんのか」
奴らの一人にポンと手を肩に置かれた。
「気安…あぁ。俺も参加する」
言いかけて辞めておく。そうだ。こうやって公衆の面前ならば普通の話し方を心がけた方がいいか。
「頑張れよ」
笑って仲間の元へ向かうそいつ。
「まぁ、あいつらの出番などないがな。それに俺は頑張る必要はない。指の1つで捻れるゴミ共相手に頑張らずとも呼吸していれば捻れるのだから」
「すごいねそれ」
目を輝かせて俺を見るアニー。
「当然だ」
そうして待っていたらあの店主が前に立った。
そうして説明される勇者の動向。
どうやら先日近くの村を遅いそこで野宿してこっちへ向かっているらしい。何とも野蛮なものだ。
「夜に襲ってくると考えられるので明かりを用意して迎え撃ちたいと考えている」
そうして俺たちに役割を押し付ける店主。
「俺は補欠か」
「お前は今ここにいる中で1番レベルが低いからな。だが期待しているぞ。かなりの好成績で試験を突破したらしいしな」
「期待も何もたかだか5人前後の勇者パーティなぞ秒もあれば終わるのだ。俺の活躍まで回ってこないだろう」
「中々調子に乗っているなお前。井の中の蛙という言葉がある。村では強かったのかもしれないが外に出てみれば現実が見えるだろう」
「俺は世界を知っているし結果として俺が天下無双の最強という結論が出ている。今更説教などするな」
「はいはい。分かったからせいぜい頑張れよ全属性」
信じていないかのような物言い。
まぁいい。
「帰るぞアニー。俺は補欠だ。俺の番まで回ってこないだろう」
そう言い酒場の扉に手をかける。
「なんだ何だ怖気付いてんのか?」
「怖気付いているのではない」
そう言い返すとドッと笑いが沸いた。
「全属性があんなこと言ってるぜ。ったく何もかもが半端だと言う話は聞いたことあるが思考まで半端だとはな。あそこまでだと哀れに思えてくるぜ」
その言葉で更に笑いが湧く。
「自分が外れ属性の底辺だって理解が出来てないみたいだな」
はははと笑う声が聞こえてきた。
「ねぇシェル?」
「言いたいのなら言わせておけ。俺はお前達が信じてくれるならそれで構わん。全属性の扱いは相当悪いらしいしここで力を見せたところで偶然だ、何だと抜かすだけだろう」
「よう姉ちゃん」
そんな中1人の男が近付いてきた。
鎧を身にまとった屈強な男。
「そんな全属性の隣にいないで俺らのパーティに入らねぇか?」
「お断りだ」
言い返すアニー。
「まぁまぁそう言うなって。そっちの全属性より俺らの方が絶対いいぜ?」
そう口にしてアニーの腕を掴む男。
「汚い手で俺のものに触れるな」
男の目を見つめる。
「…汚い?やろうってのか?お前」
ボチボキと指を鳴らして俺の胸倉を掴みあげる男。
「んなひょろひょろの体で俺と戦えると本気でそう思っているのか?」
「はっ勝負にもならんわ」
「そうだよな。お前の完敗で勝負にならねぇそんなもんよく分かってるな。お前」
「何を勘違いしている?お前は俺に触れすらできない。それだけの話だ」
「お前いい加減にしとけよ?」
場の空気が変わる。
男の取り巻きもこちらへ近付いてきた。
「全く…頭の悪い奴らだな。己の実力くらい把握しておけ雑魚」
「いいぞーやれー」
見物客は煽ってくる。しかし
「外でやってくれねぇか?」
店主だけはそう言ってきたが男は馬鹿なため言葉を理解できないのだろう。
「俺の頭が悪いってことか?」
拳を振り上げて俺の顔を殴ってくる。
しかし
「な、何だよこれ…」
「いい加減離せよ。汚い手で俺に触るな。それと息が臭いんだよお前」
殴った男の手が腫れ上がっている。
「く、くそ!」
それでやっと俺から手を離す男。
代わりに抜き出したのは剣。
いや、それを抜かせる前に腕を掴む。
「言うことは聞いた方が賢明だぞ?今なら酒を飲んで気持ちが昂っていたし思うように体を動かせなかった。そう言い訳するならお前の評価は落ちないだろう」
こいつにだけ聞こえる声でそう囁く。
必死に俺の手を振り払おうとしているが振り払えるはずもない。
「く、くそ覚えてろ!」
そう言ってフラフラした足取りで出て行った男とその仲間。
「やるな。全属性、あいつが酔っていたとは言え」
店主が声をかけてくる。
「あの程度当然だ。俺を侮るなよハゲ頭」
「お前に名乗るのはもう無駄なのか?」
肩を落とす目の前の男。
「俺の頭に残りたければもう少しまともな名前をつけてこい。それか俺を必死に崇めろ。そうすれば覚えてやらんことも無い。もしくは…俺を楽しませる何かを持っている…か。だがお前にはないだろうな」
「最後にもう一度名乗っておくハリバンだ。気が向いたら覚えてくれ」
「その調子では俺の頭にお前の名が残るなど一生かかっても無理な話だがな」
そう答えて今度こそ静まり返った酒場を後にした。
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