命令を聞くときはもっと嫌そうにしてほしい
くさい地下室から連れ帰ってきたのは一人の金髪を持った魔人の女だった。
他の奴隷は皆帰るべき場所に帰ったがこいつだけは反応しなかったため俺が連れ帰ってきた。
それにしても何も話さない。
「おい、エル」
「何でしょうか?」
近寄ってきた彼女。
「何か料理を作ってやってくれ」
「はい」
短く答えて台所に向かった彼女。
「それからミーナお前も手伝ってやってくれ」
「分かりました」
そう言ってエルの後を追う彼女。
「名前くらい言えるだろう?」
「…」
「はぁ…そうか」
ただ虚ろな目で俺を見るだけ。
「ユリ体を洗ってやってくれ、それからリルも一緒に入ってくるといい」
「う、うん」
「分かった」
戸惑いながらも引きずるようにして連れていく彼女。
それについて行くリル。
それらを見送ってから俺は寝転がる。
「ふぁ〜」
欠伸がでてきた。
「疲れてる?」
そんな俺に後ろから抱きついてきたアニー。
「いや、単に眠いだけだ」
「…こうしていていいかな?」
「好きにしろ」
正直言って心臓はバクバク動いている。
「胸の音すごい聞こえるけど?」
「…」
「あれだけ強くても…女の子の扱いは慣れてないの?」
「悪いか?!悪いか?!」
振り返って聞く。
「そんな顔赤くしなくても」
「断じて赤くしている訳では無い!」
それを見てクスッと笑うアニー。
「…でもそっちの方が好感持てるよ。取っかえ引っ変えしてるって訳じゃなさそうだし」
「お、俺は取っかえ引っ変えしてるぞ…女を切った数は1~+…4(」
「何言ってるか分からないよ」
はははと今度は声を上げて笑う彼女。
「兎に角俺はお前以外にこれまで女を何人も泣かせてきたという話だ」
「泣かせたことなんてないって聞いたことあるけど?」
「俺の過去は変幻自在だ。そんなことも知らないのか?」
「知ってる訳ないよ」
「覚えておけ。俺の過去は自分に都合のいいように変えられる、と。俺は最強だからな」
「最強だからって付けると説得力あると思ってない?」
クスッと笑うアニー。
「昔最強だと言っておけば何とかなるとそう言われたからだ」
「誰に?」
「忘れた」
「…でも実際強いよねシェル」
「当たり前だ、俺が強いのは世界の理だし俺が強くないわけがない」
「すごい自信だね」
「俺は常に自信で満ち溢れていなければならない」
「ねぇ」
「何だ」
「どうして…シェルみたいな人が奴隷引き取ったりしてるの?」
「ダメなのか?」
「いや…だって…私もあの子も前の飼い主がいたのに…」
「それがどうしたんだ?俺はお前が俺のそばにいたがっているように見えたから置いているだけだ」
「…それだと…もっと増えちゃうんじゃないの?」
「増えればいい。俺は拒みはせんよ。むしろそれを抱擁出来ずに何が神なのだ」
ふっふっふ。笑いが出てくる。
「俺はな。天才…神…この世全ての頂点に君臨する存在だから全てを抱擁できる」
「物凄く頭悪そうに聞こえるけど…?」
「うるさい。でも、俺は最強ということが伝わっただろう」
「それは…実際に見たからよく分かるけど…でも…何となくそういう人の態度に見えないんだよね」
「…何だ…と?」
俺が偉い存在に見えないということか?
「何かショック受けてるみたいだけど違う。シェルはそういてほしい。だってそっちの方が話しやすいから」
「そういうことか。俺は最強だがお前達にそうやって天の存在だと認められ話しかけられなくなっては本末転倒だからこそ凡俗感を出しているのだ」
「絶対今それらしい理由考えたでしょ」
ジトッとした目で見てくるアニー。
「何故バレた…」
「そんなこと考えてるタイプに見えないから」
クスッと笑う彼女。
「しかし、こちらの方がいいとお前が言うのなら俺はそんな風でいよう」
「それがいいと思う」
そうして話していた時だった。
「一通り洗ったよ」
ユリが戻ってきた。
「俺と夜を共にする準備は出来たということか」
「な、何言ってるのよ。違うから!」
顔を赤くするユリ。その横には綺麗になったあの奴隷がいた。
「こちらへ来い」
「…」
何も話さないし動かないその少女の手を取り移動する。
「名前は?」
「…」
「俺は暇だからよ。時間があるからよ。いくらでも付き合ってやるぜ。お前が名前を教えてくれるまでな。それこそ貴様の一生分の時間を使って名前を聞き出してやってもいい」
「ストーカー?」
ユリの心無い言葉。
「何処がストーカーなのだ。紳士と言え。何も話さない女を相手にここまで時間を使ってやる優しいストーカーがどこに居るのだ」
そう言ってから女の顔を覗くように見た。
「話せるか?」
頬をぺちぺち叩いてみる。
しかし何も反応を示さない。
「…スカートの中見るぞ?」
「そんなの許さないから」
代わりに答えたのはユリだった。
「冗談だ」
そうやって話しているとエルが戻ってきた。
「出来ましたよ」
その手には盆が持たれていた。俺が何故作らせたのかその意図を察していたらしい。
「ご苦労」
それを受け取り女の前に突き出す。
「とりあえず食べろ」
「…」
首を横に振る。
何も話さないがそれでも初めて反応した。
「安心しろ毒なんて入ってない」
「…こんなものを頂いてしまえば主人に怒られます」
「お前の主人は俺が葬った。安心して食うがいい」
「…そんな事を言ってしまえばあの方が黙ってはいませんよ。それより私を…あそこへ戻してください」
「お前は俺の物になった。何故戻さなくてはならん」
「…あの方は許しませんよ…」
「俺が許した。何の問題がある」
「何と…罰当たりな…」
「罰を与えるのは俺だ」
「傲慢な方ですね」
「傲慢な訳では無い。俺は最強だ。それより食べろ」
「…」
また黙り込む女。
「俺を見ろよ奴隷。奴隷の分際で誰の許しを得て俺を無視している」
その黒い前髪をかき分けて息がかかる程俺の顔を近付けた。
「俺だけを見ろ。お前に許可したのはそれだけだ」
「…主人は許しておりません」
「俺が主人だと言ったろう?」
「…」
はぁ、こんなこと続けても意味が無いな。
しかし…魔法で強引に認識を書き換えるのもまだ早いか。
「お前中々俺好みの顔立ちをしているな。今宵は俺と共に夜を過ごせ」
そう言いその手を取った。
「早く戻してください…じゃないと貴方にも…あの鞭が飛んできますよ」
「鞭?」
「…その子鞭打ちの痕があったよ」
沈痛な顔でそう口にするユリ。
「忘れろ。お前を襲う鞭はもうない」
「…」
何も話さない女。
名前は分からないが仕方ない。
「2人にしてくれ」
周りにそう言いユリ達に部屋から出てもらった。
「お前の言う主人から俺はお前を買い取った」
「…そうだったのですね」
「そうだったのですよ」
攻め方を変えよう。
「何を致しましょうか?とは言え私は何も出来ませんが」
「俺と話をしろ。それでいい」
「…今日はどのように罵倒して頂けるのでしょうか?」
「罵倒…って…」
「私は魔人です…どうぞ罵倒してください」
「そうだな。お前がどのように過ごしてきたかを話してくれ」
「…朝起きてから寝るまでずっとあの部屋にいました」
「あの部屋にか?かなり臭かったがよくいられたな」
「私にはあの部屋しかなかったので」
「で?どんなことをしていたのだ?」
「殴られて、罵倒されて…それだけです。それ以外のことは他の方のする事でした。私はあの部屋にいたせいで薄汚れて必要以上に主人も触れたがりませんでした」
「ほう。まぁ、何でも構わないが。今日からお前の主人は俺だ。理解したな?」
「はい」
「足を舐めろ。隷属の証だ」
「はい」
そう答えて何も言うことなく俺の足を舐めるために身を屈めた少女。
「抗え」
つまらないものを見た。足を引っ込める。
「どうしたのですか?」
「俺が見たいのは嫌そうに歪むお前の顔か、うれしそうな顔だけだ。真顔で舐められたところで意味などない。お前達は抗うからこそ美しい。そんなお前達から抗いを抜いて何が残ると言うのだ」
女を見下ろす。
その顔に抵抗の意思は一切存在していない。ただされるがままだ。
「俺に決心させたこと末代まで誇れ」
口にして女の顎に手を当てる。
「俺はお前を一人前の魔人にしてやる。恥じらいを感じ屈辱を感じ、俺に好意を抱くだけの1人の魔人にしてやる」
「…私は…ただの奴隷です」
「いくら俺と言えど確定した過去の改変はあまりしたくない、しかし未来なら俺はいくらでも変えることができる。お前の未来を俺は変えられる。今まで奴隷として生きてきたから何だと言うのだ。抗ってみせろ。いや…俺が抗わせてやる」
「…」
よく分からないものを見る目で俺を見る女。
今は仕方ない。しかし俺はお前を成長させる。必ず。
「名前を教えろ」
「リアです」
「リアだな。理解した。明日から楽しみにしておくがいい」
くくく、明日からこいつを俺好みに絶望させられると思えば楽しくなるものだ。
ブクマありがとうございます。
今日はもう一話投稿するかもしれません。




