悪い奴は俺が成敗してくれる
「ここ」
「案内ご苦労」
アニーに案内されて辿り着いたのは人間の村だった。
その端の方にあった少し大きめの家。
「許さん。さて…どんな罰を下すか」
「辞めておいた方がいいんじゃ?」
「俺を侮るなよ」
短く答え家の中に侵入する。
「侵入者感知の魔法が貼られているはずなんだけど…?」
敵陣なのに何の準備もせずにそのまま侵入した俺に何かしら思うところがあるらしい。
「俺は最強だ」
「なるほどね」
苦笑するアニー。
俺が最強だということをようやく理解したらしい。
「どうやって中に入るつもり?」
「無論これ以外ないだろう」
屋根の上…家の壁を少し消滅させた。
ポッカリと空く穴。
そこに身を滑り込ませた。
「なんでもありなのね…」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている。いちいち驚くな」
「誰でも驚くよこれ…だって侵入者感知の魔法の無力化に平然と家の壁の消滅って…普通にできることじゃないよ。しかもこれ一級の対魔力物質でできた壁だし…」
「それを平然となすのが最強の男だ」
「ほんとシェルはぶっ飛んでるよね…絶対相手したくないってみんな思うよここまで来たら」
「それでは俺が詰まらんから無理にでも戦ってもらうぞ」
「私には関係ない人だけどその人には同情したくなっちゃうな…だってこの世界で一番強い人と戦わされるなんて嫌だよね」
「なに、手は抜いてやる。ぎりぎりの勝負を演じてやる。まぁ俺が負けることはありえないが」
天井裏を這いながら目的の人物がいると思われる部屋の上まで来た。
ここまでの道中は暗かったが何処にいるかなど俺の目が教えてくれる。
「お前はここにいろ」
そう言って穴を開けて中に降り立つ。
「な、何だお前!」
丁度そいつの真ん前に降り立った俺。
恰幅のいい中年の男だった。
「お前が探していた本人だと言えば分かるか?」
「何故この場所を…は、あの奴隷裏切ったな…」
「裏切ったのではない。元々あれは俺の奴隷だ」
「そ、そんなことは…」
目を左右に泳がせる男。
だが瞬間男が笑う。
「ほう」
それと同時に鉄格子が現れ俺を囲む。
「馬鹿め!引っかかったな!」
間の悪いことに後ろの扉が開き中に何人かの警備が入ってきた。
「どうなされましたか?侵入者ですか?」
「その者を捕らえよ」
「はっ!」
「幾つか聞きたいことがある」
それらを無視して俺は男に声をかける。
「何だ?冥土の土産に聞かせてやろう。馬鹿なヤツだ敵陣に一人で忍び込むなど」
「馬鹿な事を言うな。これがお前の遺言になる。俺はお前の口からそれを吐かせてやろうと思っているだけだ」
「その前向きの姿勢、他のところで使えばこうもならなかっただろうにな。して、何が聞きたい?」
「何故俺を探らせた?」
「あの村にとてつもなく強い魔人がいると報告があってな。探らせていた。まさか自分から飛んでくるとは思わなかった」
ガハハハと笑う男。
「ふはははは。汚い笑い声を上げるなよ」
「何だと?」
「聞こえなかったか、もう一度言ってやる。汚い声を俺の耳に入れるな」
告げると男の顔はみるみる赤く染まっていく。
「貴様!ええい!殺してしまえ!」
「御意!」
檻の外で武器を構える警備達。
それらが持つ武器が一斉に俺のいる鉄格子内に差し込まれた。
この狭い鉄格子内で回避動作はできない。しかしそんなものしなくても問題はない。
「何…だ…と?」
「そんなものでこの天上の身に傷を付けることが許されると思ったか?」
そしてそれはこの鉄格子内に限った話ではない。
俺の体に傷を付ける事が出来る武器はこの世にない。どのような手段を使っても傷一つ付けるのは難しい。
「馬鹿な…馬鹿な…馬鹿な…」
男が狼狽える。そしてそれは警備達にも伝わっていた。
「馬鹿な…その鉄格子内では魔法が使えないのだぞ…?」
「そんなもので縛れると思ったか」
あまりにも圧勝してしまえばつまらないし、希望を持たせようと思ったが辞めた。鉄格子を四散させる。
かつそれらの動きをコントロールして警備を無力化する。
そして男だけが残った。
「この俺をそんな物で止められると思ったなど片腹痛いわ」
一歩一歩前に歩く。
「く、来るな!化け物!」
「化け物ではない。神だ」
右手には闇の剣左手には光の剣を生み出す。
「相反する属性の使い手…この魔力量…」
俺を見て尻餅をつく男。
「まさかお前…馬鹿な…お前は死んだはず…どうやって」
「俺の名前にようやく辿り着いたか?俺は例え死の縁に送られようがいつかは戻ってくるぞ?」
光の剣の切っ先を男の胸に突きつけた。
あと少しでも動けばこの剣が全てを貫く。
「た、頼む。命だけは…金ならある」
ふっ…顔を背けて瞳を閉じて笑う。
「今まで何人の奴隷を使い潰してきた?」
「わ、分からん」
「…そうか。ふはははは。それが1番悪い答えだとは思わなかったのか?」
一歩引いて剣を遠ざける。1度死んだだけでは生ぬるい。
「貴様には不死の恩寵を与えよう。俺の寵愛を受けるがいい。そして死に続けろ。未来永劫。俺がいいと言うまで。意味が分からないわけではないだろう?恩寵とは俺が与える能力、そして貴様に与えたのは不死。永遠に痛みを感じることができる優れものだ」
それを聞いて絶望に染まる男の顔。
「そ、それだけは辞め…」
口から血を吐き出す男。
そしてそのまま倒れ込む男の体。暫くすると何事も無かったかのように起き上がったが何か話す前にまた違う死因で死ぬ。
「少なくともお前が使い潰してきた分と同じ数は死んでおけ。それが奴隷達の手向けになるだろう」
俺がいいと言うまでこれは繰り返される。
瞳を閉じた。下らんものを目に入れる趣味はない。
「アニー」
天井裏にそう声をかけると直ぐに降りてきた彼女。
「この家にはまだ奴隷がいるな?」
「…うん」
「全員回収しよう」
「…全員?」
目を見開く彼女。
「俺が面倒を見なければこのまま死に行く命。ならば俺が回収しよう」
「…いいの?」
「俺は最強だからな」
そう告げて奴隷がいる部屋に向かった。
何処にいるかは分かる。
俺の目に映らないものは何もない。
「ねぇ、シェル?」
「どうした?」
「あの男に天誅を下してくれてありがとう」
「俺がしたかったからやったことだ。気にするな」
「うぅんありがとう」
そう口にしてほほ笑むアニー。
そんな彼女の顔を見ていればこちらも笑顔になってしまう。
「あいつ許せないよ。たくさんの人たちの人生を狂わせて…」
「そうだな。あんな手合いは許してはいけないと俺も思う」
「…私シェルに出会えてよかったと思うよ」
顔を赤くしながらのぞき込んでくる彼女。
「俺と出会って不幸になることなんてありえないからな」
「自信あるんだね」
「皆そう言うからな。俺に仕えられて良かったと、どんなお付きでも最後はそう口にするくらい俺は聖人な魔王だ」
「聖人で魔王ってちょっとよく分からないけどね」
「俺は魔王でもあり聖人でもあるから問題はない。にしても広い家だな。俺を歩かせるなど、ここを作ったやつはとんでもない馬鹿だな」
「それは仕方ないんじゃない?一応侵入者は防がないといけないだろうし」
苦笑するアニー。
「いや、それでも俺が侵入者になる時のことも考えておいてほしいものだ」
「でもあれじゃないの?」
そうやって歩いていたら地下に下りる階段らしきものが見えてきた。
「あれだろうな」
そうして俺たちはそれに近付き開け放たれていた階段を下り始めた。
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