新たなメイドを手に入れた
「何者だ」
深夜不敬なことに俺の楽園を覗く不埒者の視線を感じた。
俺から逃れることなど出来ぬが念の為即魔法を使いその場に拘束した。
どうやら窓から見ようとしていたらしい。
「きゃっ!ちょっと何するのよ」
「お前が俺の上で寝ているのが悪い」
それより
「どうして俺の上で寝ていたのだ?」
「シェルの上で寝てた訳じゃないから…」
「まぁいい。今はあれだ」
そいつを魔法を使い外から内部の空いたスペースに移動させてから明かりを付けた。
「こ、殺せ…」
「いきなり何だ…」
目の前には黒装束の仮面がいた。
「いきなり殺せと言われても困るが。それに俺の美しさは世界一だしその嫁であるユリの可愛さも世界一なのだ。それを一目見たいと思う気持ちも理解できる。俺も鬼ではない、命乞いの1つや2つ聞いた後で殺そう」
「結局殺すんだ…」
ユリがそう呟いている。
「さぁ、命乞いの時間だ」
そうして仮面を引き剥がす。
「…こ、殺して…」
中には気の強そうな女の顔があった。
「俺は女には手を出さない主義でな。それより何故覗いていたかを話せ」
「…」
「話さぬか?」
はぁ…ため息を1つ吐くと寝直すことにした。
「ちょ、ちょっと?」
ユリが俺の肩を掴む。
「どうしたのだ」
「あれをあそこに置いたまま寝るつもりなの?」
「話を聞きたいところだが今は口を割らせるのが難しいと思ってな。朝になってからやろうと判断しただけだ。何より俺は眠い」
今も欠伸を噛み殺しているところだ。
侵入者も困惑しているようだったが俺の知ったことではない。
「俺の魔法を侮るなよ。1度発動すれば永遠に解けぬよ。これは神が定めた法だから安心して眠りにつけ」
そうして寝直すことにした。ユリが何やら話しているが無視して眠る。
「まさかあれから起きていたのか?」
「敵陣で眠れるわけがない」
「美しい顔が台無しだぞ」
そうして侵入者の顔に触れる。
クマができていた。
「さ、触るな!」
何とか体を動かそうとしていたが動かないようだった。無理もないが。
その被っていたフードを脱がすとそこには赤髪の魔人の姿があった。
「まさか俺を前にそこまで吠えられるとは中々気に入った」
気の強そうな赤髪の俺と同じ種族である魔人。
「気に入らないで気持ち悪い」
「き、気持ち…悪い…?」
「そうよ!気持ち悪いわよ!」
「…俺は…気持ち…悪いのか…?」
縋るような目でユリを見た。
「普通はそう思うと思う。私は…助けられたから…そうは思わなくて頼もしく見えたけど…」
後半は何を言っているか殆ど聞こえなかった。
「…」
部屋の隅で膝を抱えて座り込む。
この俺が気持ち悪い…だと?
そんなこと言われたこと無かったのに。
皆俺をかっこいい美しいとしか言わなかったのに。
「…その、ごめん」
侵入者が謝ってきた。
「謝るなら許してやろう。俺は神だからな」
もう一度前に移動する。
「その、尊大な態度はどうにかならないわけ?」
「俺は偉大な存在だから改める必要もない」
もう一度その赤い髪に触れる。
「名前を教えてくれないか。俺はシェルヴィという名前だ」
「…アニー」
「アニー?」
「そう」
「何故我が家を覗いていた」
あなたの家じゃないけどねとユリが漏らしたが細かいことだ。
「頼まれたから」
「誰に」
「私を…飼っている人」
「奴隷ということか」
コクっと頷くアニー。
「ここに金貨10ある」
そう言って袋を投げ渡す。
「金貨10?!」
ユリが後ろから掴みかかってくる。
「どうしたのだ?」
「どうしたのだじゃなくて金貨10の価値知ってるの?」
「知らん」
アニーの方を向く。
「俺に買われる気は無いか?」
「…何故…私なんかを?それに…代価を支払うなら私ではないだろう」
「些事なことを気にするな。俺に買われる気は無いか?仕事内容は俺の身の回りの世話だ」
「…」
悩むアニー。しかしその瞬間苦しみ出した。座った状態から横になり喉を掻き毟り始める。
「…呪いか。待っていろ」
そう言って彼女の体に触れた。
瞬間あれだけ苦しそうにもがいていたのにそれを辞める。
「な…何があったの?」
「呪いを解除した。それだけだ。発動条件はお前が飼い主の支配者から逃れようとした時とかそんなものだろう」
「あ、ありがとう…」
目に涙を浮かべて抱きついてきたアニー。
「何、気にするな」
それよりさっきから俺の両手が何かを掴んでいることの方が気になる。
指を動かすと
「ひゃっ…」
目の前の女が声を上げた。
下を見ると俺の両手は不慮の事故にあっていた。
「…事故だ事故。それに飛び込んできたのはお前だ。俺は悪くない。俺は悪くない」
必死に弁明するがそんなもの関係ないらしい。
「さいってー」
背後からのユリの一撃。それが俺とアニーを動かした。
そして何がどうなったのかは分からないが目の前には顔を紅潮させる彼女の顔。
俺は…アニーをベッドに押し倒す形になっていた。
「…何だか…ドキドキする…」
そう言って俺の背中に両手を回すアニー。
「…勝手にしてなさいよ!」
この状況を招いたユリは勝手に部屋を出ていってしまった。
「おい!おい!」
俺を置いていくな。
何も言わない扉に声をかけ続ける。
「この気持ちは何なんだろう…」
顔を赤くするアニー。
「知るか。いいから手を離せ」
「嫌だ。離したくない…」
「不敬者が」
「不敬でいいから今はこうしていたい…」
「…」
そう言われてしまえば何も言えない。
「ところでお前は俺に飼われたいのか」
「私は前の飼い主の奴隷だった。でも…貴方がそいつの鎖を引き剥がしてくれた。貴方が望むなら…私は…」
「なら飼ってやろう。お前は今日から俺の奴隷だ。命令を聞け。手を離せ」
「嫌だ…」
「…」
何とか拘束から抜け出した。
「俺を殺すつもりかお前は」
さっきから心臓が激しく脈打って破裂しそうだ。
「…貴方が死んだら私も死ぬから」
「死ぬな。そもそも俺は不死だ」
忘れていた。俺は殺されても死なないことを。
「俺を殺しても無意味だぞ。だがお前は違うのだろう。その生を大事にして一生かけて俺を崇めろ」
「はい。一生懸命崇めます」
「それでいい。それでこそ魔人だ」
ようやく俺を崇める存在だと理解する奴が出たな。
「それより…貴方は私の事警戒しないの?」
「警戒してどうする。俺の目は全てを見通す。過去も未来も異世界も全てを見通しそれを俺の頭は全て理解する。お前のような凡俗がよからぬ企みを考えたところで俺の目も頭も騙せず全て無駄な事に終わる。故にお前等警戒せずとも問題ない」
「私が今何考えてるかも分かるの?」
「お前がこの俺に惚れて大好きだと思っているところまでは読み取れた」
「すご…」
目を見開いて驚く女。この程度序の口だ。
「ふははは、そうだろう。俺は偉いからな。そしてお前は自分でそう思っていることを素直に認めた。俺への尊敬の言葉の1つや2つを口にすることを許そう」
「…凄いです…」
「もう1つ許すぞ」
「…あなたの傍に置いて欲しい」
「許す。俺の世話をする権利をやろう。最初の仕事をくれてやる。俺はまだ部屋着だ。着替えさせろ」
「お言葉のままに」
そう口にしたアニーが俺の服を脱がし始める。
「あ…」
その時だった。
「ないのか?」
「…はい」
自分の右手を隠すように胸の前で左手で包むアニー。
その彼女の右手には指が何本か欠けていた。
「嫌だよね…こんな魔人じゃ…」
「治したいのか?」
「…出来れば…治したいよ…」
「なら先に言え」
右手を宙で躍らせる。
「え…」
アニーの体が光を帯びた。
そして数秒後その光は消えて彼女は右手を隠すことをやめた。
その右手には勿論指は全て戻っている。
「そんな…無詠唱でここまでの治癒魔法を?…いやもう…治癒魔法なんてレベルじゃ…」
驚愕しているがまだまだ序の口だと言っている。
「いちいち驚くな。こんなもの呼吸をするのと同じだ。お前には言っていなかったか?俺は最強だと無敵だと」
その赤の髪に指を絡める。
「俺にできないことは無い」
そのボロギヌのような黒装束。それを俺好みに変えることにした。
「その衣装は気に入らん。これを着ていろ」
シャツにスカートを着せた。
「…」
空いた口が塞がっていない様子のアニー。
「俺を凡俗と同じだと思うなよ。俺をこの世の存在だと思うなよ。俺は神だ。幾千の勇者を屠ってきた神だ。偉大なる存在。それを前に呆然とするのは構わぬがもっと俺を崇めろ?」
瞳を閉じてそう告げた。それよりも
「早く着替えさせろ。指を止めるな?」
「は、はい」
嬉しそうな顔をして今度こそ俺の着替えを始めるアニー。
「どうですか?」
「初めてにしては悪くない。しかしもっと手早く出来るようにこれからは精進するのだな」
ふはははと笑いアニーの目を見る。
「さて、お前の前の飼い主を教えろ」
そう聞くと喜んでいた顔も一転その顔に影が出来た。
「…あの方には逆らわない方がいいと思う…」
「俺を誰だと思っている。俺の事を調べようとした馬鹿を捨ておけるか。今すぐに罰を下しに行く。何がなんでも潰しに行く。理解したな?」
これは決定事項だ。それ以外の未来というものはない。
「さぁ、その口から話せよ?」
「…分かった」
俺の圧に負けたのかそう首を縦に振った彼女だった。
今日の更新はこれで終わりです。




