やはり俺は偉大で最強の存在だ
「戻ってくると信じていた」
風呂に入ったあと部屋に戻るとそこにはユリがいた。
「お化けが怖いから俺の布団に潜り込みに来たか可愛いやつだな」
「そんなんじゃないから」
俺を顔を赤くしながら見てくる。
「ミーナ達には言わない。お化けが怖いと言った方が可愛く見えるぞ?」
「お化け怖い…一緒に…寝かせて欲しい」
「よく言えたな。俺の隣で寝る権利をやろう」
鼻血が出てきた。
「お前の破壊力は底知れないな。俺に一体どれだけの血を流させれば気が済むのだ」
やれやれ。首を横に振る。
「シェルが勝手に流してるだけだよね?!」
「そう。怒鳴るな。夜だぞ?近所迷惑だぞ」
「シェルのせいよね?」
「俺のせいなのか?!」
顔を赤くしながら口にしているが俺のせいではないだろう。
鼻にハンカチを詰めながら話を進める。
「まぁいい。俺は今から眠るところだ。俺と一生に寝られることを光栄に思うことだな」
そう言いながらベットに潜り込む。
「へい彼女、こっち来なよベイビー」
トントンとベットを叩く。
「…」
複雑そうな顔をしているがそれでも左腕を右手で掴みながら俺の横に寝る彼女だった。
「…まさか本当にお化けが怖いのか?」
「そんな訳ないでしょ…」
「それはよかった」
俺も冗談のつもりで口にしただけのことだ。
「本当に…私たちのこと好きなの?」
「あぁ。俺はお前達が好きだ。愛している、と口にすればいいか?」
「…私は確かにシェルのこといいって思ってる。だって…あぁやって人間に囲まれてるところを助けてくれて…あのまま連れていかれたらどうなってたか分からないから…命の恩人だよ。でも…シェルは通りがかって羽虫を払うように助けてくれただけだよね」
「言葉だけじゃ伝わらないか?」
背中を向ける彼女の体をそっと抱いた。
「この胸の高鳴りが聞こえるか?お前と居るからお前を抱きしめているからこんなにときめいている」
「聞こえないから」
バッサリ切られてしまった。
「ねぇ」
「ん?」
「キス…してよ」
「はぁ?」
変な声が出た。
「…その…キス…してよ」
「…正気か?」
「…体で示してよ…私の事…好きだって」
「嫌だ」
「え?」
「嫌だ」
答えるとこっちを向いて俺の頬を引っ張るユリ。
「さっきまで好きって言ってたよね?」
「離せよ。痛いわ」
「あ、ごめん…」
直ぐに離してくれた。
「俺が今ここでキスをするということはそういうこと目的だったと思われかねない。確かにお前をめちゃくちゃにしたい気持ちはあるが俺は理性があるのでしない」
「…」
「そのうちめちゃくちゃにしてあの世までいきそうなくらいめっためたにしてやるが、お前にはまだ早いだろう?」
「何その怖い表現」
「お前のことは眼球をくり抜いてそこに入れたいくらい欲しているということだ」
「だから怖いんだけど?」
「怖いならば…手を繋いでくれ」
そう言って手を差し出した。
「自分で繋ぎなさいよ」
「俺は純粋だから自分からは無理だ」
「…何よそれ。いきなり抱きしめといてよく言うよね」
ジトッとした目で見られる。
「あれは俺なりの勇気だ」
「勇気って…じゃあ私も勇気出すから…」
そう言って震える左手で俺の右手を取ってきた。
「ひゃっ!」
「女の子みたいな声出たね…」
「初めての経験だからつい」
「初めて?」
「俺は女と手を繋いだことすらない」
「…」
目の前のユリは空いた口が塞がっていなかった。
「何がおかしい」
「手を…繋いだことすらない…?」
「あぁ。俺は純粋だとそう言った」
「シェルが?手を繋いだことすら…ない?」
「何だその馬鹿にするような目は。言っておくが俺の初めてを奪ったのはお前だぞ」
「…ごめんなさい」
「何、好きな人に奪われたのであれば俺も本望だ」
ニッコリお前は悪くないと言うようにほほ笑みかける。
「俺の初めてがお前でよかった」
「その口閉じてくれる?」
「何故だ」
「何か気持ち悪いから」
「…」
仕方ないな。
「お母さん…俺魔王城に帰りたい…」
口にしながら背を向ける。
「拗ねないで」
今度は俺の背中側から俺を抱きしめるユリ。
「シェルの気持ち伝わったから」
「だろうな」
やはり俺の気持ちが伝わらない訳が無いから当然だ。
「何かムカつく…」
そう言って俺を掛け布団で包む彼女。
「何をする」
その上から馬乗りするユリ。
そのまま彼女の顔が俺の顔に近付いてくる。
息がかかるほどの距離。
「…あ…」
また鼻血が出てきた。
「変態…」
ユリの口調はそこまで強くないものだった。
「あの…シェル?」
その時だった。ガチャりと扉が開く。
そこに立っていたのはエルフのエル。
「あの…どういう状況ですか?」
「俺が女に手を出せないのを分かっていて虐められている。助けてくれ」
「そ、そんなんじゃないから」
俺の上から降りるユリ。顔は赤い、妙な趣味を持っていると思われたくはないのだろう。
コロコロところがって布団の呪縛から逃れる。
「それよりお前は何しに来たわけだ」
「あの…リルが本を読んで欲しいって」
「本だと?」
「はい、そのダメですよね」
「何がダメなのだ?俺にできないことは無い。声を大きくして読んでやろう」
ズボンのポケットに手を突っ込みながら瞳を閉じて告げる。
「そんなもの俺にかかれば余裕だ」
「ちょっと?」
ユリが後ろから声をかけてくる。
「お前も俺の本読み教室の生徒になるがいい。ふはははは。存分に拝聴せよ」
「あ、お兄ちゃん」
「寝れないのだろう?だが安心しろ俺が来たからには今日はあひんあひん言わせてやる」
リルに声をかけながら絵本を開く。
「あひんあひん?」
「妄想だから気にしなくていいよ」
なんて会話が聞こえたが無視だ無視。
「妄想ではない。今からあひんあひん言わせる」
「あひんあひんって何?」
「あひんあひんだ」
ユリの質問に答えた。
そうしてからリルの横に座り読み始める。
「昔昔ある王国にシェルヴィという名の若者がいました」
「シェルヴィ?」
ユリの質問。
「本にそう書いてある」
「うそー?」
ユリが訝しげな顔をしながら俺の横に来たと思ったら俺の持つ絵本を覗いてきた。
「何処にも書いてないじゃない」
「神にしか見えない文字で書いてある」
「はぁ?」
呆れたような顔をするユリを無視して続ける。
「これを愚か者は他の読み方をするかもしれないがこれはシェルヴィと読む。分かったな」
主人公の名前を指さしてそう言う。
「うん?」
「常識を疑え。これはシェルヴィすなわち俺の物語である」
「よく分からないけど分かった」
「どうだ。これが神の下僕だ。神の下僕はこの話を理解できるのだ」
「何が神の下僕よ」
ジトーっとした目で見てくるユリ。
「まぁいい。続けるぞ」
ページを捲る。
「白馬に乗った王子シェルヴィは毎日モテモテでした」
「お兄ちゃんモテモテなの?」
「あぁ。俺はこれでも泣かせた女の数は0だ」
ふはははは。これが俺がモテモテの理由だ。
「それモテモテなの?」
「モテモテなのだ」
「モテモテじゃないよね」
ガックリと肩の力を抜くユリ。
「何故だ」
「そこは泣かせた女の数は100を超えてるとかの方がいいんじゃ?」
「それはただのクズだろう。本当は泣かせたいのだが泣かせてしまっては可愛そうだからな」
泣き顔というのもいいものだがしかし
「花が笑っていなくては意味が無いだろう」
「それで惚れさせたつもり?」
「つもりではない。お前は俺に惚れる。そしてその目には俺だけしか映らなくなる」
顎を持ち上げ俺の顔を見させる。
その顔は少しずつ紅潮し始めていた。
「…そんな事…言われなくても私は…身も心も…あの時あの瞬間からシェルのものになってるから」
「再三惚れさせる必要はないと?」
いや、つまらん
「何度でも惚れさせてやる。お前の頭の中が常に俺でいっぱいになるくるいに惚れさせてやる」
「…そこまでしてくれるの待ってるから」
「あぁ。直にお前は俺しか見えなくなるだろう」
と、ユリとの会話はこの辺りにしておいて絵本でも読むか。
「続けるぞ。ある日そんなシェルヴィは世界最強の魔王となりました。そして沢山の嫁に囲われて末永く幸せに暮らしました。終わりです」
「それだけ?」
「これだけだ」
リルの質問に答える。
「これで終わりだ。絵本はこれで終わりだ」
「もっと、こう悪人との勝負とかあるもんじゃないですか?」
エルも聞いてきた。
「悪人共は正義のヒーローシェルヴィが全員ぶっ倒しました。終わりです」
「すごいねシェルヴィって人」
「当然だ。シェルヴィという名前のやつは何処でも最強どの時代でも最強。周りが追随を許さないほどの最強でどんな敵も秒で倒すものだ。即ちこの俺こそが世界で最強で世界で1番モテるのだ」
「でも、手を繋いだことすらないんだよね?」
「それはだな。俺はお前達の意思を尊重しているからだ。女が遠慮しているのなら俺は無理に手を繋ごうとしない。気持ちは分かる。俺のような偉大な存在を前にしてシェルヴィ様手を繋いでくださいなどと恐れ多くて中々言えないだろう。お前はよくその一線を超えたな素晴らしいぞユリ」
「褒めてるの?」
「褒めている。褒めちぎっている。褒めまくっている」
腕を組み頷く。
「その…ありがとう」
「嫁を褒めるのは俺の役目だ。精進せよ」
そう言った俺の手を握る奴がいた。
「私もこれで超えられたかな?」
リルが俺を見上げて聞いてくる。
「問題ない。お前も超えたな。素晴らしい事だ」
「やった」
ぴょんと跳ねる彼女。
「さぁ…エルも一線を超えてみせるがいい」
彼女に右手を差し出した。
「私もですか?」
「あぁ。超えてみたくはないか?俺と共に生きないか?」
「…私なんかでいいんですか?」
「お前が望むのなら。俺はお前を傍におこう。俺は差別はしない。俺の下にいるのは全員平等の存在だ。そして平等に愛すべき存在だ。かつて奴隷だったとかそんなものは関係ない。お前が俺に特別扱いされたいかされたくないか。それを問うている」
「…一緒にいたいです…けど…」
「何を迷っている」
俺から手を取る。
「俺が手を差し出して何故取らない」
「…」
口を開けて呆然とするエル。
「俺が迎えに来てやった。俺の隣にいろ」
「いいんですか?」
「いいも何も俺がお前を選んだ。むしろいない方が許されない」
くくくと喉を鳴らして笑う。
「こうして何かを求めるのは久しぶりだ。俺に求めさせたこと誇りに思え?」
顎に手を当て俺だけを見させる。
紅潮し始める顔。それを見ているだけで何かが満たされていくのを感じる。
「…は…恥ずかしいです」
「恥じるな」
「貴方が恥じてよ」
背後からのユリに一撃を加えられた。
「何をする」
「リルもいるんだからそういうのはダメだと思う」
こちらも顔を赤くしながらそう言っている。
「そうだな。大人の愛はお子様には早すぎるか」
首を横に振る。
やれやれ
「大人の愛って何?」
「俺のような大人がお前達を愛することだ」
「でもシェルまだまだ子供にしか見えないけどね」
「何だ…と…」
俺が子供にしか見えない?
「馬鹿な話があるか。俺は大人だぞ」
「でも精神年齢も見た目も子供のままだよね」
「ぐぬぬ…」
ユリの言葉に何も返せない。
「魔王様って意外と若いんですね」
エルもそんな俺を見て驚いていた。今更だな。
「俺は不老不死だ。老いることもなければ死ぬことも無い。だから見た目は子供の頃のこの姿で固定されている。しかし…精神年齢は断じて子供ではない。大人を通り越し神の領域と至ったのは俺だけだろう。くくく」
「それ、本当なんですか?」
目を見開いて驚くエル。
「くくく、そうだ。それに歴史を見ても魔族で完全なる不老不死は俺だけよ。俺の偉大さがよく分かったことだろう」
だからこそ俺はこうしてかなりの長い年月の間魔王を続けてきた。
無限の命をもって成長し続ける俺にせいぜい何百年でくたばる奴らが追いつけるはずもない。故に魔王とは本来俺だけの称号だったのだ。
「なので断じて子供ではない」
「でもそんなことでいちいち言い返してくるの子供だよね」
クスッと笑うユリ。
「お前に俺の偉大さを伝えなくてはならないのだ。黙れるわけがなかろう」
苦笑いを浮かべる彼女。
「今日は俺が初めて勇者を返り討ちにした時の話でも聞かせてやろうか」
そうして今日も夜が更けていく。
ブクマありがとうございます。とてもうれしいです。
今夜もう一話更新予定です。お読みいただければ幸いです。




