神様に愛されてはいけない
100歳を超えた祖母の訃報が届いたのは私が25歳の時だった。
仕事を切り上げ、帰省して葬儀場に入ると安らかな祖母が棺桶に横たわっていた。
「大往生…って言ってあげたいけど最期は苦しそうで見てられなかったわ。」
看病していた親戚のおばさんがそう言う。
私は何度も棺桶の中にいる祖母に心の底から謝った。
20年前、私が祖母と一緒に住んでいた頃。
彼女に進行性の癌が見つかり、私と祖母は毎日近くの神社まで早朝にお参りに行っていた。
寂れた神社で私と祖母以外に参拝客なんて見たこともなかった。
何度目かのお参りの帰り道、祖母が私になにを願っているか尋ねた。
祖母は穏やかに最期を迎えれるように、私は祖母が長生きできますようにと祈っていた。
それからの私は無病息災且つ幸運に生きてきた。
無理だと言われた第一志望の高校には偶然試験の日に大量のインフルエンザ患者が出て合格。
大学も就職活動も私が受けるときは必ず流行り病で人が少なく、ラッキーと言わんばかりに合格した。
しかし恋人とは長続きしなかった。
みんな原因不明の体調不良や悪夢を見てすぐに私と別れる。そして別れた後には必ず事故に遭って、ひどければ即死。運良ければ重傷だった。
葬儀場の片隅の部屋で寝ずの番をしているとおばさんから一通の手紙を渡される。
祖母から私宛てのものだった。おばさんも内容は読んでないがお礼の手紙かも、と。
私はこっそり中を見る。そこには壮絶なことが書かれていた。
○○ちゃん(私)へ
私はあなたを恨んでいます。
あなたはあの日、私の長生きを祈りました。それを神様はとても喜び、あなたを愛してしまった。
神様に愛されてはいけない。
私は苦しまずに死にたかった。でも、あなたを愛する神様はそれを許さなかった。寿命を何年も伸ばして、私を苦しめて長生きさせた。
あなたの回りにも心当たりはあるはず。
あなたが無病息災でいられたのも受験や就職で苦労しなかったのも全部神様のおかげ。
恋人は出来たかしら?できても長続きしなかったでしょう。神様は嫉妬深いもので、すぐにあなたから離してしまう。
あなたはこの先も神様に愛されて幸福に孤独に、でも短命に生きるでしょう。
恨めしいですが、あなたは死んでも神様のところに行くので私はあなたに復讐出来ないことが心残りです。
神様に愛された孫へ。
私は祖母の葬儀に参加せず自宅へ帰った。
遺書は燃やして捨てた。燃やすときにどこからか聞こえた。
「これからもあなたの願いを叶えてあげる。」




