古井戸のおりょうさん
おりょうさんって知ってる?
お調子者でオカルト好きなAがそう話しかけてきたのは部活帰りの夕暮れ時だった。
知らない、と返すとAはドヤ顔で嬉しそうに語り出す。
どうやら町外れの藪にある古井戸に大昔身を投げた人の幽霊だそうで、自分が報われなかった身分だった故に、人の望みを叶える幽霊になったらしい。
呼び出す手順は深夜3時に井戸の前に行き、「おりょうさん、おりょうさん。どうか私の願いを叶えてください」と唱え、井戸の回りを3周するだけらしい。
Aは先日、呼び出しの儀式を行いおりょうさんに願いを聞いてもらったそうでそろそろ叶うとのこと。
俺にもぜひ願いを叶えてほしいからおりょうさんに会ってほしいと。
あまり気乗りしなかったが願いが叶いつつあるというAの話も気になったので俺は数日後の深夜、古井戸まで行くことにした。
藪の中にポツンとあるその井戸は間違って落ちないように簡易的な囲いがあるだけ。
懐中電灯とスマホのライトで周囲を照らしながら俺はゆっくり唱える。
「おりょうさん、おりょうさん。どうか私の願いを叶えてください。」
そしてゆっくり3周する頃には周囲の空気が張り詰めた。
そして、背後にジトッとした気配と白い着物の長髪の女性がいた。
「お、おりょうさん?」
恐る恐る尋ねると血が全く通っていない真っ白な顔に耳まで裂けるているかと思う大きな口がにたりと歪む。
「Aくんのお友達?」
垂れている前髪の隙間から俺を見つめる瞳は白目がほとんどない真っ黒な目だった。
恐怖に満たされながらもなんとか頷く。
「俺の願いを叶えてくれるんですか?」
かろうじて声になった声で尋ねるとコクンと頷き、こちらに足音も立てずに近寄って来る。生臭い匂いが鼻を刺す。
「Aくんの願いを叶えた後にね。」
次の瞬間、おりょうさんの手は俺を井戸へ突き飛ばした。
遠ざかるおりょうさんの顔はニタニタと笑っている。
遥か下に落下し、不愉快な音とともに痛みと遠のく意識の中で思った。
そうか、Aの願いは…。
けたたましく笑うおりょうさんの横にはいつの間にかAがいて満足そうに俺を眺めていた。




