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異世界転生した第二王女はグルメで文明発展を目指す  作者: 月森香苗


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唐揚げと美容

 ロックチェンは岩のように硬い皮膚を持つ魔鳥だけれど、その内側にある肉は驚くほど柔らかく、適度に脂が乗っていて美味しい。硬い皮膚を魔法で剥がすと、残った肉を水の魔石から汲み上げた水で丁寧に洗う。風の魔法で水気を飛ばすと、淡い桃色をした肉が現れた。

 この工程を疎かにすると、皮膚に張り付いた岩の残骸が食感を損ねるし、味も格段に落ちる。

 ロックチェンは前世で言えばグレート・ピレニーズ程の大きさで、この世界の魔鳥の中では中型の扱いになる。

 私がスカイダイビングをした時のボボバードは大型に分類される。

 人を乗せることができる場合は大型、前世にわとりサイズまでは小型、その間の大きさが中型になる。

 中型魔鳥は美味しいのが多いから狩りをするのが楽しいんだよね。

 食べやすい大きさに切り分け、ボウルへ。塩、白胡椒、すりおろした生姜とにんにくを加えて揉み込む。指先に肉の柔らかな感触が伝わり、鼻をくすぐる生姜とにんにくの香りが広がる。そこへ白ワインを少量加え、しばらく置いて味を馴染ませた。

 切り分けた時点でカインとユナの目が輝く。君たち、これが大好きだもんね、わかる。


 この世界の食材の名前はこの世界に合わせて存在しているけれど、私は無意識に地球での名称で考えている。不思議なことなんだけど、実際に私の口から話す時にはこの世界の名称に翻訳されてるんだよね。

 例えばトマトはこの世界ではクリャネという名前だけど、鑑定には【クリャネ(トマト)】のようにルビで地球の時の名称が出る。

 で、私がトマトって口から出したら相手の耳にはクリャネで届く。

 この世界独自の食材はそれで覚えているけれど、地球と同じ食材は切り替えが大変だから翻訳魔法さん本当にありがとう!って気持ち。


 味が染み込んだ鶏肉に片栗粉を薄くまぶし、魔道コンロで熱した油へ一つずつ落としていく。この瞬間が楽しいんだよね。


 じゅわぁっ!


 油が勢いよく弾け、白かった衣がみるみる膨らんでいく。香ばしい匂いが厨房いっぱいに広がり、黄金色に染まった衣を見ているだけでお腹が空いてくる。

 箸で持ち上げれば、衣は予想以上にザクッとしていた。片栗粉……正確にはカタクリではないけれども同じようなものを多くつけてしまったかもしれないなぁ。


「……いただきます」


 熱々の肉にかぶりつく。

 薄い衣が砕けた瞬間、肉汁がじゅわっと口の中に溢れた。塩気の効いた肉から、生姜とにんにくの香りがふわりと抜けていく。柔らかな肉を噛みしめれば、ほどよい脂の甘みが舌に残った。


「……うん。美味しい! ユナ、カイン、どうぞ」


 醤油がなくても、これは十分すぎるほど美味しい唐揚げだ。

 レモンに似た柑橘を切り分けて好みでかけてもらう。


「ううー、何度食べても美味しいです、姫様」

「この匂いは我慢が出来ませんね……!」

「でしょう? うん、罪な味よね」


 この唐揚げは調理場の料理長に教えたところ、ハマりにハマっていた。揚げ物には油を沢山使うけれど、これまでの油は動物から取れた脂を使っていた。

 だけど、それだと私の胃がもたれる。そこで油が取れる豆を探してもらい見つけ出した。

 専用農家と契約して大量生産してもらい、豆油を取るための魔道具も開発してもらった。

 そのお陰で、この宮殿では揚げ物用の油がふんだんに使えるようになった。

 唐揚げはこの宮殿を守る騎士にも評判なんだよね。

 私の宮殿に勤めている者は私が料理することを知っているけれど口外していない。出入り商人には口外禁止の魔法契約をしている。その代わりにレシピを優先的に提供するようにしている。

 やはり、ほら。


 王女様のイメージってあるじゃない?

 王女様がお菓子作りするならまだ可愛らしさがあるけれど、唐揚げやカツを揚げてる姿は王女様としてどうなのって思うわけよ。

 なので、世間のお姫様イメージを損ねないために隠している。

 外との交渉はカインに任せている。頼もしいよね。


 はー、炭酸水が欲しい。クエン酸と重曹で作れるはずなんだよね。で、クエン酸はレモン果汁で大丈夫。そして重曹。実はこれ、手に入れてるんだよねぇ。

 この世界に生まれて、鑑定を色々使っている時にたまたま見つけたんだよね。

 お掃除の時に使うイメージだったからこっそり貰っておいたけど、食用でもあったので大切にしていた。

 これはもうやるしかないでしょ。


 レモンっぽい柑橘を絞り、果汁を濾して種を取り除く。ほら、半分に切ってギュッと捻りながら果汁を取るあの調理器具。あれを使ってるのよね。この工程はカインがしてくれた。

 別の器では、水に砂糖を溶かしておく。そこへ絞ったレモン果汁を少しずつ加えて味を整える。味見をすると、酸味が口の中に広がってコレコレ、という感じになる。

 そして最後に、白い粉――重曹をほんの少しだけ加えた。

 シュワッ!

 液体の中から一斉に細かな泡が生まれ、表面へと駆け上がっていく。


「わっ!ちゃんと反応した……!」


 慌てて器を傾け、泡が溢れないように様子を見ながらゆっくりとかき混ぜる。

 やがて泡が落ち着くと、透明な黄色い液体の中には、まだ無数の小さな泡が残っていた。


 グラスへ注いで、一口。

 舌の上でぱちぱちと泡が弾け、レモンの爽やかな酸味と砂糖の甘さが広がる。

 ガラスのコップは他国から輸入された高級品だけど、中が見えるというのが大事で、泡がぷつぷつとガラスに張り付く状態に感動する。


「……レモンソーダだ!」


 思わず頬が緩んだ。ただ、二口目を飲んだところで、私は首を傾げる。爽やかな酸味の奥に塩気と苦味を感じるんだよね。


「……もう少し重曹を減らしたほうが美味しいかな?」


 どうやら、また改良の余地があるらしい。

 炭酸水って実際は二酸化炭素を高圧力で溶かしたものなんだよね。うーん。やはりもう少し考えようかな、と思いながらカップに注いだレモンソーダをユナとカインに渡す。

 怪訝な顔をした二人だけど、怖々と口をつけたそれに体を震わせていた。


「く、口の中、ぱちって、え、なんですかこれ」

「っ……」


 炭酸水なんて新鮮だろうねぇ。私的には改善の余地ありだけど、初めて飲む二人はこれが普通になってしまうのか。それはダメだ。だってもっと美味しくなるんだから。


「味付けのないものにしたいよね。これも優先度高めに設定しておこうかな」


 作りたいものリストを作成しているのだけど、私はそこに「炭酸水」を追加した。そして要改善、とも。


 お母様はストーカーのせいで表にはあまり出ないけれど皆無ではない。

 早々に私が王位継承権を手放した上、お母様自身が侯爵家の出だから、王妃様や他の側室の方とは表向き友好的にしている。

 私を取り込もうとする異母兄姉とは別に、お母様経由で側室の方々は私を狙っているけれど、そこを上手く対処するのがお母様だ。

 私が考案した美容特化料理を小出しにしながら、こちらに手を伸ばすならこれらは食べさせない、ということをしている。

 王妃様の息子は王位継承権が与えられず、既に城を出て公爵位を与えられて領地を治めている。こればかりは血筋は確かに必要だけど保有魔力量次第と決まっていて変えられない。

 魔道具のせいだしね。

 そんなわけで、争う必要がない王妃様とお母様は頻繁にお茶を飲んでいる。

 私の宮殿で。

 政務でお疲れになった王妃様のストレス発散は私の宮殿『紅華宮』で思う存分ヘルシー料理を食べることだ。

 二人に出すのはデトックス料理。野菜たっぷりきのこたっぷり、豆もたっぷりのスープは、水分と食物繊維が豊富で体は温まりお腹も満たされる。

 栄養成分の詳細は分からないけれど、前世の私はこのスープをよく作っていた。揚げ物ばかりで生きているわけじゃないからね。

 鳥の骨から丁寧にとった出汁をベースに野菜の旨みが溶け込んだスープは食べ応え抜群。

 生姜も入れることで発汗を促している。

 ちなみに、紅華宮のお風呂は浴場の他にサウナを作ってもらった。

 王侯貴族って、冷え性の人が多いんだよね。食生活もあるだろうし、運動量が少ないせいもあるのかもしれない。

 お母様と王妃様にはサウナの有用性を語り試してもらった。

 汗をかいて体を温めるのは気持ちいいし、運動不足の人間にはこういう習慣も必要だ。

 高貴な女性が複数で入浴する際は湯着という袖なし貫頭衣を着る。コルセットでガチガチにするほど体型を矯正しているのだから、防具の無い身体を見せることは基本ない。侍女は別ね。

 サウナでがっつり、もしくは半身浴でじっくりと汗をかいた後、マッサージをしてもらう。

 料理をする脇で私はエッセンシャルオイルの生成に取り組んでいた。異世界モノあるあるの一つ。でもさ、実際に作るとなると本当に大変だった。だって半端な知識しかないんだよ。

 水蒸気蒸留ってのは分かるけど、じゃあその器材はどうするのって話なわけ。

 だけど、この世界にはマイナーだけどいたんだ。錬金術師が。

 科学というものは無いけれど、その代わりに錬金術がマイナー学問で存在していた。なので、私は錬金術師に頼んで水蒸気蒸留の器材を作ってもらった。

 お陰でハーブや薔薇からエッセンシャルオイルが作れたんだよ!

 ありがとう、前世の様々な作品!

 薔薇のエッセンシャルオイルは少ししか取れないことは知ってた。とても華やかで素敵な香りだけど、少量しかないので、王妃様とお母様専用のマッサージオイルに使って貰っている。


 社交界に出る女性は基本的に歩く広告塔。

 そんな王妃様がツヤツヤキラキラっとしていたら。そりゃあみんな注目するよね。ストーカーさえいなければお母様だってその美貌を惜しみなく見せつけていたはずなのに!


 まあ仕方ない。

 舞踏会や夜会には出ないけれど、紅華宮でお茶会するのは許可出してるしね。ここは一応私の宮殿だから、お母様が何かするなら私の許可が必要にな るの。

 断ったことはないよ。


 お母様が呼ぶ方は私の親衛隊に所属する方の夫人や令嬢。つまりは王位争いに関わりたくない派閥。穏健派ともいう。

 一応ね、私の庇護下にあるとわかる場合は他の派閥が手を出さないのですよ。プチッとされちゃうから。ナニをプチッとするかは秘密。


 まあ、今も後継者争いは凄いけれど、紅華宮は平和です。

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