チャイラテと再会
カルダモン、シナモン、クローブ、生姜に黒胡椒。沢山ある香辛料の中からそれらをより分ける。
「ユナ、ミルクと茶葉を用意してくれる?」
「畏まりました」
ここで何故ですか、と聞かないユナだから私は大好きなんだよね。まあ、言ったものは普通に紅茶を淹れるとしか思えないものだけど。
折角だから作ってみようかなって。
鍋に水六百ミトルと、シナモン、カルダモン、クローブ、生姜、黒胡椒を入れる。四杯分は前世で作ったことはないけど、まあ何とかなるでしょ。
火の魔石を使った魔道コンロに鍋を乗せて煮出していく。IHコンロと同じ感覚だから魔道コンロは使いやすいんだよね。火が出ないのが一番いい。
目を離さないように気をつけながら、香りが立ったところで紅茶の茶葉を加える。ユナが小さく「え」と言っていたけど、これはそういうものなんだよね。
さらに煮出していき、牛乳1.2リトルと砂糖を加え、沸騰させないよう温める。沸騰させると台無しになるから強火にはしないよ。
最後に茶こしで濾せば、チャイラテの完成だ。うん、いい匂い!
四つのカップに注いで一つは亜空間に入れておく。お母様に後で飲んでもらうんだ。
ここにいる二人とお母様は私の亜空間を知っているけれど、他の人には秘密。容量無制限のこの空間はちょっと問題しかないわけよ。
「ぜ、贅沢な飲み物ですね」
「姫様……これ一杯でとんでもない価値が……」
「うーん。でもほら、飲みたかったし」
何がきっかけだったか、テレビかなんかだったと思う。チャイラテの存在を知った私は自分で作ってみたくて、使い切れるか分からないのにスパイスを買ったことがある。
王族が飲む紅茶の茶葉は最高品質のものに決まっているけれど、前世でそんなお高いものを使えるわけがなく、安い茶葉で作ったけど、それでも美味しかったんだよね。
死ぬ前あたりはペットボトルで売られていたけれど、若い頃にはなかったから。あの時はなんでも挑戦していたなぁ。
私がこの世界で広めたいのは、高級感溢れる料理ではなく、家庭的な料理だ。そりゃあフレンチやイタリアンなんかのオシャレな料理の方がウケはいいと思う。
でも、結局は貴族の食事にしかならない。
私が望むのは平民でも気軽に食べられて美味しくて栄養があるものなの。
唐揚げ作りたいけど、そうなると醤油が欲しくなるなぁ。
鰹だしとかは魚さえ何とかなれば鰹節を作れると思うのね。鰹節の作り方はグルメ系の小説で読んだ記憶しかないけど、試行錯誤すれば何とかなると思うんだ。昆布も海藻を探せばいいわけだし。
でも、醤油とか味噌はなぁ。
うーんと悩みながら、ソースやチャイラテの感想を聞いてまとめる。
ソースは第一回目にしてはまあまともに出来たかな。でも失敗だった。煮詰めが足りなかったし、味の調整もしなければならない。
取り敢えずトロリとするまで明日は煮詰めてみよう。今日はしないよ。
チャイラテに関しては二人とも面白い味だと言っていた。分かる。
まず匂いからしてスパイシーなんだよね。
「あのね、裏手の庭園のさらに奥にある森を拓いて農園にしたいのだけど、二人はどう思う?」
「森を拓くのですか?」
「農園、ですか……」
ユナは驚き、カインは眉間に皺を寄せていた。
王城敷地は高い壁で囲われているのだけれど、そのうち側は出来るだけ自然を残すようにと木が植えられている。
ここは本宮から見て北東に位置し、北壁付近は森が鬱蒼となっている。
管理はしているけれど、そこを全て拓いて農園にしたらかなり広く取れると思う。
「香辛料を育てたいの。毎回買うと高いでしょ? 私の実験だけなら自分で育てた方が気兼ねなく出来ると思うの」
汎用の物を作るためにはどれだけ試作するかが大事で、配合を変えるならその度に香辛料を使うことになる。買うよりも育てた方が絶対に早い。そして出来るならばあまり目立たせたくないのでこの宮殿の近くがいい。
やはり裏手の庭園の奥が理想なんだよね。
「許可が出れば良いとは思いますが、管理はどうするのですか?」
「まずは植物魔法の専門家と信頼出来そうな農家の人を雇おうかと思うの」
私は農業経験は無い。餅は餅屋、農園は農家にお任せでしょう。
ふと、神に招かれたあの異質な空間を思い出した。
地球のさまざま国でほぼ同時に亡くなった人間が集められた。魂が元気なものを選んだと言っていた。
国が違うのに言葉が通じていたな、と思う。日本人は私一人だった。
68歳イギリス人の男性教授。
49歳アメリカ人の男性兵士経験者。
81歳インド人の男性農家。
57歳カナダ人の男性建築士。
64歳ドイツ人の画家であり小説家の男性。
29歳フィンランド人の女性インテリアデザイナー。
73歳フランス人の縫製の仕事をしていた女性。
24歳ネパール人のクマリ経験者の女性。
35歳日本人のオタク女性――私。
この9名が神様に選ばれた。うーん、私の場違い感。
彼らは今元気にしているのだろうか。神様の管理している9の世界にそれぞれ振り分けられたから同じ世界にいないのは確かだけど。
情報交換したり、それこそちょっとアドバイスが欲しいなぁ。
そんなことを思いながら寝たからだろうか。
『君達に授けた亜空間に君たちが集まれる場所を作ったよ』
こちらを観察してたんですかね、神様。
私が収納に使っている亜空間はそれぞれが独立してるらしいのだけど、一部を繋げたらしい。そこには時間の概念がなく、望めば神様に選ばれた私達だけが行き来出来るらしい。
そもそも転生の際に神様の力を分け与えられているので、それがマーカーとなっているから選別が出来るとかなんとか。分からない。
でも、そこには生身で行けて物々交換が出来たりする模様。
万能タイプはいなかった。でも、三人寄ればなんちゃらのように、地球で得た知識や経験を元に情報交換して、それぞれの世界を発展させてねってことらしい。
夢なのだけど夢とは言い難いそれを理解して目覚めた私は、当たり前のようにその空間に移動した。
誰かいたら嬉しいし、誰もいなくても手紙残せばいいかなって。
既に三人いたよ。地球で女性だった人達は今も女性に生まれたらしい。
世界が違えば顔立ちも何もかも違うし歳も違う。でも、それでも、惑星規模で申し訳ないけれど、同郷がいるだけで嬉しかった。
フィンランド人のインテリアデザイナーさんは現在アグネリアという名前の15歳。貴族の女の子で、野暮ったい内装が許せなくて工房を巻き込んで斬新なデザインの家具を作ってもらってるらしい。
フランス人の縫製の仕事をしていた女性はルゥニャという名前の19歳で平民。お針子の仕事をしながら新たな洋服を生み出している。
ネパール人のクマリ経験者の女性はリェンリャンという名前の十歳で、白髪金目が神の子として祀り上げられているらしい。またですよ、と苦笑しながら腐敗している宗教改革を行おうとしている模様。
「膨大な魔力を持つのは私だけみたいなので、奇跡みたいなものを起こしています」
と中々に逞しく生きていた。
「私は今メルルーナという名前の13歳で王女様してるよ。ふわふわパンが恋しくて天然酵母作ったよ。食文化をとにかく変えようと思うの」
「ふわふわパン!」
「え、え、待って!」
「そのパン、今ありますか!?」
近況報告をした途端食いつかれた。もしかして。
「かちこちなの」
「固いパンしかないよー!」
「平べったいもそもそしたパンしかないです」
あ、はい、と私は自分の亜空間に接続してパンを詰め込んだバスケットを出した。
ちなみにこの空間はアグネリアのお陰でオシャレな内装になっている。私が接続する直前に設置したらしい。
ここは広いリビングダイニングって感じでキッチンも何故かあるんだよね。つまり、魔道具を置いておけるの?
ジャムもセットで差し出したパンを三人は泣きながら食べていた。
「パンの作り方分からなくて……」
「メルちゃん凄いねぇ」
「美味しいよー。甘いよー」
プロでもなんでもない私のパンで泣くほど喜ぶのを見たら、こりゃあここに定期的に補充しておかなきゃって思うよね。時間の概念がないなら腐らないでしょ。
そう言ったら大喜びしてたよね。まあ、気持ちはわかる。
その日は男性陣は誰も来なかったけれど、久々の地球トークを満喫した私は時間経過してないお陰で疑われることなく、ユナが起こしに来るのを迎えられた。
食で世界の発展はテンプレ。
その上でばらばらの世界に送られた人達を集めるネタはどうしても入れたかった。




