即席濃厚野菜ソース
カインに頼んで木箱を木製の台車に載せてもらう。この台車は親衛隊に所属している人が私の話を聞いて、工房に作ってもらったものだ。
コロの部分は鉄で出来ていて、荷受場から私の調理場まで運ぶのに使うことが出来る。
贅沢に付与魔法をつけてくれていて、かなりの重さでも問題がない。私とユナが乗っても壊れなかった。
ハンドルは裏側収納が出来る折りたたみ式で、しかも伸縮自在だから背の高いカインと背の低いユナで使い分けが出来る。
使い勝手が良くて喜んでいたら、親衛隊の人が商会で売っても良いかと言ったのでもちろんと答えた。
お手軽簡単に荷運び出来るのって大事だよね。
滑り止めをつけることは伝えておいたよ。危ないものね。
五つの木箱を載せ終わると商人に礼を告げて出て行く。こちらが移動しないと彼らは動けないのだ。
メルルーナの宮殿は王城敷地の隅にあり、その分好きに弄って良いことになっている。なので、表からは見えない範囲で農園でも作ろうかな、と考えていた。
でもさ、私、農家では無かったので畑作りとか分からんよ。
異世界モノだとありがちな「家庭菜園でチート無双」なんて出来ない。魔力は沢山あるから、それこそ魔獣を狩ってお肉には出来る。でも、植物を育てるのは無理。
なので、やはり農業の専門家である農民を雇うべきよね。
チート物はひとりで何でもしてしまうけれど、王女の私は雇用と経済を考えないといけない。
基礎を作っても、一人で何でも出来てしまうのは文明の発展が望まれている現状的に好ましくない。
香辛料や砂糖をまず私が作る予定の農園で育てる。温室も作るよ、当然。
そこでノウハウを確立したら種類を絞って普及させていく。全部が全部にしたらいけない。輸入は大事なことで、他国がそれを交易品にしているのはお金になるから。そうして国の経済を回しているので、減らすのは問題になる。
そこのバランスも考えないと、下手をしたら戦争になるしね!
「殿下、これらは食材庫でよろしかったですか?」
「うーん。いや、今から調味料を作ってみるから作業台に並べてくれる?」
「分かりました」
「姫様。本日の面会予定は終わりましたので着替えますか?」
「あ、そうだね。汚れるかもしれないし着替えるよ」
商人が来るのはわかっていたからドレスを着ていたけれど、それが終わると汚れても良いドレスに着替える。ドレスと言うよりワンピースドレスかな。
短時間でもコルセットを使うことは苦痛でしかない。
硬いボーンのせいで拷問器具かと思ったよね。
普段はいわゆるソフトコルセットを使ってる。この年でくびれなんて要らないし、そもそも運動すればいいだけの話。
令嬢は運動しないものなんだってさ。で、野菜もあまり食べないとか。何食べて生きてるの?
健康的な体を作るには野菜は必須でしょ。夏はさっぱりと体を冷やすお野菜。冬はほくほくの根野菜。
私がこうだから自分で料理に手を出す前から料理人には野菜を沢山使ってもらっていた。
お母様は最初嫌がっていたけれど、肌の調子が整い、便秘解消に繋がってからは私よりもよく食べるようになったよね。
なので、私はジューサーとミキサーを作ってもらった。
魔道具式ジューサーは、投入口に果物や野菜を入れると、魔石の力で内部の刃が高速回転して粉砕し、果汁と果肉を分離してくれる。絞りかすは別口から排出される仕組みにしてもらった。
魔道具式ミキサーは、容器に果物や野菜と水などを入れると、魔石の力で内部の刃が高速回転し、材料を細かく砕いて混ぜ合わせることができる。
ミキサーだとスムージーが作れるんだよね。
やはりさ、食べるより飲む方が早いじゃない? で、スムージーってなんか体に良さそうじゃない? ドロっとしてるけど。
この二つは調理場に提供した。お母様が野菜と果物による美容効果を実感したからね。紅茶の代わりにスムージーを飲むようになったからか、野菜と果実の消費がこの宮殿では飛び抜けて多い。
自室に戻って汚れが目立たない、濃紺のドレスに着替える。
私の厨房に入れるのはユナとカイン、お母様とユナの母のミモザだけだ。料理長は悩んだけど、今はまだ入れない。
最新式の調理用魔道具の安全確認が全部終わってないんだよね。
王女の私が確認することは本当は危険なんだろうけれど、私を傷つけることは無理だろうからね。
私が一番安全確認に向いてるんだよ。
ユナを連れて厨房に戻り、中身を整理していたカインの傍に立つ。
女の子の十三歳って身長が止まり始める頃だよね。
前世の私は156cmで止まったけど、今はそれよりもう少し背が高いかも。
やったね。
この身長もあるから料理することを反対されてない。もっと小さなころなら絶対に怒られていたよね。
小さな子供が包丁を持つ姿って、怖いよね。
作業台の上には綺麗に並べられた香辛料や野菜たち。
カレーにするか、ソースにするか。
カレーにしても米はないからナンを作らなきゃいけないでしょ?面倒だなぁ。
うん、ソースにしよう。揚げ物は作れるから。
作業台に並べた玉葱、にんじん、りんご、トマトはとても新鮮でこれだけで期待が出来る。
玉ねぎの皮とトマトのヘタ、りんごの芯と種を除いて大型のジューサーに入れ細かくすり潰していく。一応りんごの形が残るくらいで止めておいた。
容器から鍋に入れ、水の魔石から汲み上げた水と共に火の魔石を使った魔道コンロで煮込むのだけれど、どのくらい煮込むか考え、針六つを目安にしてみた。
柔らかくなったところで裏漉しし、酢、砂糖、塩、そして作業台に並べた胡椒やクローブ、シナモンなどの香辛料を加える。ここら辺はもう感覚で、失敗しても仕方ないという気持ちで記録だけは残している。
再び弱火で煮詰め、味を整えれば第一回目のソースが完成した。
「匂いがキツイですね」
「ね。換気してるけど意味は無いね」
「姫様に匂いがついてしまいますね」
「いいわよ。入浴すればいいだけだもの。うーん、取り敢えず、出来たて、一日置いたもの、二日置いたもので試したいわね」
味見をしてみる限り、かなり濃い味だし尖りがあるように思う。それに塩が多かったのか辛い気がする。
「カツを揚げてみるわ」
豚に似た魔獣はクセがあまりなくて美味しく、私はヤツを見かけたら必ず二頭は狩り、解体してもらってその肉を保存していた。
一番いいところは保存袋で新鮮なままにしているけど。
で、その豚肉は切り分けられて下拵えを終わらせて冷凍庫に入れている。
豚型魔獣はロロピッグと言う名前なのでロロカツと読んでるのだけど、カインとユナはこれが好きだ。
お母様に出してもらう前に試食した時、二人ががっつりと食べていたのを知っている。
衣ザクザクのロロカツに濃い味のソース。あー、今この瞬間、この世界に生まれて初めてお米が欲しくなった!トンカツにはパンじゃなくてご飯だね!ごめんね!
とは言っても米はないので、朝一番に作ってもらった食パンを用意する。
米がないならカツサンドしかないでしょ。
カインとユナが絶句しながら無心で食べているのを見つつ、私はユナが記録してくれていたレポートをチェックする。
改善点を洗い出してブラッシュアップして行かなければ。
創作の世界では一度で美味しいものを作ったり成功させてうけれど、デジタルスケールは無いしキッチンタイマーもない世界なのだ。
失敗を繰り返して自分なりの正解を見つけるしかない。
うん、やっぱり農園を真っ先に作ろう。香辛料の消費が尋常ではないわ。




