第九話:王太子の価値と乙女の秘密
イザベラは焦っていた。どんなに色気を振りまいても、得意の魔道具ギルドの話題を振っても、レオンハルトは微塵も興味を示してくれないのだ。
(この私の魅力に気づかないなんて、この男、どこかおかしいんじゃないの!?)
プライドを傷つけられたイザベラは、ついに捨て身の作戦を決行することにした。
放課後、レオンハルトの席へと歩み寄り、告白を始めるイザベラ。まずは強気に、そして気高く。
「私、今までこんなにも振り回された殿方は初めてですわ」
「ですが、どうしても諦めきれません……もっと貴方を知りたいのです。お願いです、私と過ごす時間をいただけませんか?」
大粒の涙をポロポロと流すイザベラ。強気な美人が見せる一瞬の弱さ――このギャップ攻撃に抗える男など、この世にいるかしら?
周囲の生徒たちは、「あのイザベラ様が泣くなんて……」とハラハラしながらその光景を見守っている。
「僕の時間が欲しい、と……」
ふむ、と顎に手を当てて考え出すレオンハルト。
「僕の時間を対価(お金)に換算すると……これくらいかな」
彼はさらさらと紙に金額を書き込み、イザベラに提示した。
「……は?」
呆気に取られるイザベラだったが、そこに書かれた数字を見て思わず叫んだ。
「たっか! うちの魔道具ギルドの年間売上と同じじゃないの!!」
あまりの高額提示に、涙も一瞬で引っ込んだ。
レオンハルトは不遜な王族の顔になり、冷ややかに告げる。
「これでも大国ヴァルデンライヒ王国の王太子だからね。僕との謁見時間がどれほど貴重なものか、理解していないのかい?」
「ち、違いますわっ! 私は純粋に、貴方様をお慕いしているから……」
「お慕いねぇ……」
レオンハルトは半目になり、おもむろに異空間から取り出した写真を教室中にばら撒いた。
写真を見たイザベラは、その場で凍り付いた。
そこには、自宅で上半身裸の細マッチョたちを何人も侍らせ、高笑いしている彼女の姿がバッチリ写っていたのだ。
新人影のエリカが、寝る間も惜しみ、泣きながら集めてきた渾身の証拠写真である。
「僕、君の好みじゃないと思うんだけどね」
教室内の生徒たちは、二重の意味でドン引きした。イザベラの私生活の奔放さと、躊躇なく女子の黒歴史を晒したレオンハルトの容赦なさに。
「あ、そうだ。君に紹介したい男性がいたんだ」
レオンハルトが指をパチンと鳴らすと、なぜか筋トレ中のガウルがその場に召喚された。
「んん……? なんだ、俺はトレーニング室にいたはずだが?」
状況が飲み込めず首を傾げるガウルに、レオンハルトが追い打ちをかける。
「ガウル君、このイザベラ嬢が君とお付き合いしたいそうだ。君の自慢の筋肉に惚れ込んだらしいよ」
「なにっ!? ほう、分かっているじゃないか! 特別だ、俺の上腕二頭筋と三頭筋を触ることを許可しよう!」
気色の悪いポージングをキメながら、ガウルがじりじりとイザベラに詰め寄る。
「い、いやああああああああああああ!!」
イザベラは絶叫し、脱兎のごとく教室から走り去った。
「む、二頭筋は趣味ではなかったか? ならば大胸筋ではどうだ!」
ガウルもまた、その後を全力で追いかけていく。
静まり返り、空気が凍り付いた教室の中、誰かがぽつりと呟いた。
「……えげつねぇ」
その場にいた全員が、深く、深く同意した。




