第十話:深夜の潜入
こんなはずでは……。
追い詰められたアリスとイザベラは、一発逆転の策を講じることにした。
選んだ手段は、夜更けの男子寮への潜入。
静まり返った寮の廊下に、二つの影が忍び寄る。
まずはアリスがレオンハルトの部屋に忍び込んだ。彼女は脳内で完璧な勝利のシナリオを描く。
(レオンハルト殿下に可愛く訴えかけるの。魅了の魔術を全開にして、瞳を潤ませて……。
『私……レオンハルト殿下のことが忘れられないんです。本気を受け止めてくれませんか?』
ふふふ、これで殿下を落としてみせるわ!)
「よいしょっ」
彼女はベッドの下へ潜り込んだ。
*
その五分後――。
今度はイザベラが部屋に忍び込んだ。彼女もまた、自身の勝利を確信している。
(レオンハルト殿下に艶っぽく迫りますわ。
『わたくし……レオンハルト殿下だけは他の男性とは違って見えましたの。わたくしを欲してくださいませ』
ホホホ、これで殿下を骨抜きにして差し上げますわ!)
「うんしょっ」
彼女はクローゼットの中へと身を隠した。
*
その直後だった。
部屋のドアがバァン!と勢いよく開く。
現れたのは、レオンハルトとルーカス、そして数名の警備員。
「ハイ、カクホー」
ルーカスが感情の籠もっていない棒読みで、警備員に淡々と命じた。
「えっ?」
「はい!?」
隠れ場所から無慈悲に引きずり出されるアリスとイザベラ。
「ちょっと、なんでアンタがここにいるのよ!」
「それはこちらのセリフですわ!」
連行されながらも言い争いを続ける二人を、レオンハルトとルーカスは死んだような目で見送った。
「……ねえルーカス。もう、王国に帰ってもいいかな」
疲れ切ったレオンハルトの声が室内に響く。
「……陛下に、早期帰還の相談をしてみましょうか」
同じく弱り切ったルーカスが、深く溜息をつきながら答えた。
*
翌日、学園の掲示板には一枚の張り紙が出された。
【公示】
下記二名、男子寮への不法侵入につき二週間の停学処分に処す。
・アリス・ヴァン・リヒテン
・イザベラ・ヴァン・コルド




