第七話:筋肉の過剰攻撃
「もう、これ以上のイベントはいらない!」
そう言わんばかりに、レオンハルトとルーカスは寮を目指して早足で進んでいく。
だが、世の中そんなに甘くはなかった。
昇降口を出たところで、豪快な声が響き渡る。
「待っていたぞ! 王太子レオンハルト!!」
黒い瞳を爛々と輝かせ、大剣を肩に担いだ赤い髪のワイルド系イケメンが、二人の前に立ちふさがった。
(またかよ……)
今日何度目かの事態に、心底げんなりする二人。
「俺はガウル・ヴァン・ブラッドレイ! 防衛総監の息子だ!」
「この鍛え抜かれた筋肉で、お前に勝負を挑む!」
言いながら、筋肉を強調する気持ち悪いポージングを次々と繰り出すガウル。
「うわ、僕こういう系、生理的に無理なんです。あとはよろしくお願いしますね」
さっさと一人で逃げ出すルーカス。
朝から続く刺客(自称・運命の相手と自称・ライバル)による波状攻撃に、レオンハルトの忍耐力はすでに限界を突破していた。
「…………」
冷めた目で、ガウルを見やるレオンハルト。
彼はスッと手を伸ばし、指先に魔力を集めて一言放った。
「グラビティ(重力魔術)」
どぉぉぉぉん!!
凄まじい衝撃と共に、ガウルが地面に深々とめり込んだ。
「ぬぉぉぉぉ―――!?」
ガウルの叫びが虚しく響く。
あまりに無慈悲な光景に、周囲で見守っていた生徒たちは一瞬で凍りついた。
「さあ、ゴミ掃除は終わったよ。行こうか」
爽やかな笑顔を浮かべ、スタスタと寮に向かって歩き出すレオンハルト。
「……ご愁傷さまです」
ルーカスは、地面に埋まったガウルに向けて静かに手を合わせた。
*
(新人影エリカ)
エリカは当初、これはぬるい仕事だと思っていた。
これでもヴァルデンライヒ王国諜報部初の女性諜報員として、トップの成績を収めて勝ち取った座なのだ。
事前の説明では、護衛は不要、雑用さえこなせば良いと聞いていた。
だが、現実はそこまで甘くなかった。
「え、六人同時に調査するんですか?」
ターゲットのあまりの多さに、エリカは思わず引いた。
一方、レオンハルトの目は完全に据わっている。
「あぁ。なるべく早めに、詳細な情報が欲しい」
(あいつら、絶対に許さない。社会的に抹殺してやる……!)
瞳の奥で暗黒の炎を燃やしながら、レオンハルトは淡々と告げた。
「影の長なら、これくらい容易くやり遂げてくれるんだけどね。……君には、まだ難しいかな?」
「――っ、いえ! やらせてください!」
安い挑発に、まんまと引っかかるエリカ。
(所詮は新人だな……ちょろい)
心の中で邪悪にほくそ笑む腹黒王太子。
こうして、王族の無茶ぶりに身を削る「影」が、また一人誕生したのだった。




