第六話:聖女の啓示
図書室に到着した二人。流石にもう何もないよね……? という淡い期待は、すぐさま不安に変わる。
図書室の隅に一人の女生徒。柔らかそうな金髪、黄土色の瞳。おとなしそうで可憐な美少女。――嫌な予感しかしない。
主従は目配せし合い、さりげなく距離を取って離れた席に座ることにした。
だが、その涙ぐましい努力も虚しく、彼女はレオンハルトに話しかけてきた。
消え入りそうな、守ってあげたくなるような可愛い声で。
「あ、あの。私はクラリスと申します。ゲベット神聖国からの留学生です。同じ留学生のレオンハルト殿下とルーカス様ですよね。よろしくお願いいたします」
花が咲くような笑顔のクラリスに、ルーカスは(おぉ、珍しくまともな女子が来た!)と期待に胸を膨らませる。
「良かったら、本棚の高い場所にある本を取るのを手伝っていただけませんか……」
胸の前で手を組み、祈るようにお願いするその姿は、まさに聖女。周囲の生徒たちは一瞬でノックアウトされ、うっとりと見惚れる。
これは運命の出会い! 恋の予感! 全員がワクワクしながら見守る中、レオンハルトは至極当然という顔で司書を呼んだ。
「彼女が欲しい本があるそうだ。よろしく頼むよ」
……ぽかんとするクラリス。周囲の生徒全員が(え……そこ、司書呼ぶの!?)と心の中で一斉にツッコんだ。
ルーカスは深い深いため息をつく。(殿下の理想、高いもんなぁ……)塩対応のレオンハルトに対し、もはや諦めモードである。
「騒がしくなってきたね。ルーカス、予習は寮で行うとしよう」
さっさと席を立つレオンハルト。慌ててその後を追うルーカス。
あとに残されたのは、なんとも言えないおかしな空気だけだった。
*
『第三の刺客クラリス』
クラリスは宗教国家ゲベット神聖国の留学生である。
柔らかい金髪、黄土色の瞳。おとなしそうな見た目の、文句なしに可愛い女の子だ。
幼い頃から神聖力を宿し、神殿が後見人となっている将来有望な聖女候補。
「図書室の聖女」の異名を持つほど図書室に住み着いている彼女は、男性が苦手で信徒としか話したことがない奥手な少女……なのだが、実は隠れファンは多い。
今日も読書に勤しんでいると、見慣れない男子生徒の姿が。
(きっと噂のヴァルデンライヒ王国の王太子と、その側近ね)
軽い気持ちで目を向けた瞬間。レオンハルトは、彼女がこれまで出会ったどの「信徒」とも決定的に違っていた。
ずっきゅーーーん♡
クラリスの脳内に、神の啓示が突如降り立った!
一目惚れだった。
(な、なんて神々しい美貌……! あの御方こそ、神が私に授けてくださった愛そのもの!)
勇気を振り絞り、レオンハルトに話しかけることにしたクラリス。
「あ、あの。私はクラリスと申します。ゲベット神聖国からの留学生です。同じ留学生のレオンハルト殿下とルーカス様ですよね。よろしくお願いいたします」
精一杯の「可愛さ」を全開にして微笑んでみる。
「良かったら、本棚の高い場所にある本を取るのを手伝っていただけませんか……」
祈るように手を組み、上目遣いの潤んだ瞳で見つめてみた。
だが、レオンハルトの行動は、クラリスの斜め上だった。
普通に司書を呼び出し、「彼女が欲しい本があるそうだ、よろしく頼むよ」と言い捨て、去って行ったのである。
(そ、そんな……。あんなに精一杯アピールしたのに……!)
唖然とするクラリス。そこへ、空気の読めない司書が「あの、どちらの本でしょうか……」と声をかける。
するとクラリスは涙目で立ち上がり、目の前の司書に向かって唐突に宣言した。
「……負けません。あの方を、絶対に私の『祈り(愛)』で導いてみせます!」
図書室にいた生徒たちは「おぉおーーー!」と謎の感動に包まれ、拍手を送る。
司書が泣きそうな声で「図書室ではお静かにしてください……」と懇願したが、もはや誰も聞いていなかった。
その頃。寮に向かって歩いていたレオンハルトのみぞおちに、謎の衝撃が走った。
「……なんか、今、猛烈に吐き気がした」
王太子の生存本能は、絶好調すぎて逆に体調不良を起こしそうになっていた。
頑張れレオンハルト! 刺客はまだいるぞ!!




