第四話:女王様の商談
『第二の刺客イザベラ』
アイーゼ自由都市連合。
その経済の心臓部である魔道具ギルドの長、バルトス・ヴァン・アイーゼは、豪奢な執務室で一人娘のイザベラに向かって不敵に笑った。
「いいかイザベラ、ヴァルデンライヒの王太子をその美貌と交渉術で手なずけろ。あわよくば王妃の座だ。そうなれば、我がギルドが大陸のパワーバランスを支配するのも夢ではない!」
「お父様、わたくしを誰だと思ってらして? 所詮は世間知らずの温室育ちの王子。わたくしの魅力で、一生逃げられないようにして差し上げますわ!……オーッホッホッホ!!」
父娘の野心に満ちた高笑いが、豪奢な執務室に響き渡った。
*
しかし、実際に特進クラスで出会ったレオンハルトは、イザベラがこれまで「下僕」にしてきたどの男たちとも違っていた。
ずっきゅーーーん♡
イザベラの背後に、真っ赤な薔薇が咲き乱れる!
一目惚れだった。
(な、なんて神々しい美貌……! 認めますわ、あの男こそわたくしという女王に傅くべき唯一の下僕!)
休み時間。イザベラは優雅な足取りで、レオンハルトの席へと近づいた。
「レオンハルト殿下、初めまして。魔道具ギルド長の娘、イザベラと申しますわ」
「ああ。……魔道具ギルド。我が国の魔塔とも取引がありますね」
「ええ、大切なお得意様ですわ。……今後ともよしなに?」
イザベラは色気をたっぷり含ませた流し目で、レオンハルトの瞳を覗き込む。周囲の男子生徒たちがボフッと鼻血を噴く音が聞こえるほどの魔性。
「よろしければ、今後の取引について『密密』にご相談したいことがございますの。……別室へ、参りませんこと?」
潤んだ瞳で誘惑するイザベラ。しかし、レオンハルトの表情がスッと冷え込んだ。
「……相談? 僕は今、学生としてここに来ている。正式な取引の話なら、我が国の魔塔の購買担当者に連絡してくれ。それとも、君の家は正規の窓口を通さない『裏取引』を推奨しているのかい?」
「えっ、いえ、そういうわけでは……っ」
「次の講義の予習があるので、これで失礼する。……行くよ、ルーカス」
「畏まりました、殿下」
イザベラの誘惑を「裏取引」として一蹴し、一瞥もくれずに教室を出ていく主従。
断られるなど思ってもいなかったイザベラは、美しい顔をわなわなと震わせた。
「イ、イザベラ様……大丈夫ですか……?」
おそるおそる声をかけた女子生徒を、「ヒィッ!」と悲鳴を上げさせるほどの般若顔で睨みつけ、女王様は叫んだ。
「……負けない。あの方を、絶対にわたくしの『鋼の檻(愛)』に閉じ込めて差し上げますわ!!」
その瞬間。廊下を歩いていたレオンハルトの胸元に、鋭い痛みが走った。
「なんだか急に動悸がしてきた。気分が悪い」
王太子の生存本能は、更に絶好調だった。




